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2019.02.14

Jo Ahearneによるクロアチア、フヴァール島ワインのセミナー

 
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 イギリス人MWジョー・アハーンがクロアチアのフヴァールで造ったワインをテイスティングしつつ、フヴァールと主要品種プラヴァッツ・マリについて深く学ぶセミナーが、輸入元ヴァンドリーヴ主催により、南青山のキャプラン・ワイン・アカデミーで行われました。
 以前、日本橋浜町ワインサロンでもフヴァール島のワインについては現地取材をもとにご紹介しました。フヴァールは全長150キロの島ですが、人口は11000人しかおらず、未開の土地が広がっています。あるのはブドウ畑ぐらい。おなかがすいても食べるところさえ見当たらない(冬はどこも休み)。しかしそのワインは圧倒的です。日本橋浜町ワインサロンでお出しした過去すべてのワインの中でもベスト10に必ず入るほどです。

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▲フヴァールの畑を説明するジョー・アハーンさん。映っている写真は、畑から海を見下ろしたところ。転んだら天国行きです。

 フヴァールの気候は、最高気温30度、最低気温6度、日較差8から10度、日照時間はヨーロッパの島で最高となる2800時間、そして降水量700ミリ。南の海沿いは急斜面、北は平地で肥沃です。土壌は石灰岩か、ドロマイト。場所によって細かく石灰になったりドロマイトになったり。石灰岩は酸性水に溶けるので脆くなって根が深く入り、ドロマイトは溶けないので逆。石灰岩土壌のほうが陽イオン交換容量が大きく、ワインの酸も高くなる。ようするに石灰岩のほうがドロマイトより優れているようです。

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▲プラヴァッツ・マリとその親品種の歴史。プリミティーヴォがヴェネチア共和国滅亡の近くになって初めてイタリアに渡ったのが興味深い。それまではヴェネチアによって守られていたと考えるべきか。


 プラヴァッツ・マリは19世紀の終わりに生まれたCRLJENAK KASTELANSKIとDOBRICICの自然交配品種。CRLJENAK KASTELANSKIは18世紀半ばにイタリアに渡ってプリミティーヴォになり、19世紀半ばに(たぶんウィーン経由)アメリカに渡ってジンファンデルになりました。もともとの品種は病気でほぼ絶滅してしまい、今フヴァールに植えられているジンファンデルはアメリカから持ってきたものだそうです。プラヴァッツ・マリは意外と最近に誕生したのですね。

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▲プラヴァッツ・マリは色づきに相当なムラが出る品種。ゆえに下写真のように、収穫時には必ずレーズン状のブドウが混じる。

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 プラヴァッツ・マリとは青くて小さいという意味です。実際そういうブドウです。大変に興味深い点は、色づきが同時期に起こらないこと。写真を見ても分かるとおり、青い果粒もあれば緑の果粒もあります。これが収穫時期になっても緑だった果粒の成熟はそのまま遅れているため、収穫時には必ず未熟果、適熟果、過熟果がひと房の中にまじりあいます。レーズン状のブドウが2,3割の時点で収穫せよ、と地元では言われているそうです。それがワインになると、若干のえぐみを伴う強いタンニンとレーズンのようなこってりした風味がまじりあう不思議で複雑な味に。譬えて言うなら、ひとりゲミシュター・サッツ味。単一品種でもこの複雑さ、そして必ず表現される垂直性。それが好きな人は、プラヴァッツ・マリは世界屈指の素晴らしいブドウです。私ももちろんこの品種が大好きです。

 未熟果の種は緑色で、長くマセラシオンすればワインが強烈にエグくなるので、アハーンさんは調理用濾しザルで緑色の種をすくって除去するそうです。それをブルゴーニュでシャルドネ用に使われたジュピーユのオークの樽で熟成。ジュピーユはけばいヴァニラ香ではなく上品な個性で有名ですが、それをフヴァールで使うというセンスがいいと思います。伝統的なスラヴォニアの樽はあまり質がよくなく、トーストが強すぎるそうですが、優れた樽を発見したので、そちらも少し使用するようになったとのことです。
 揮発酸が多めの味が好きだそうで、欠陥として感知される閾値ぎりぎりのところで抑えつつ、意図してそういうワインに仕上げます。そうしないとプラヴァッツ・マリはシンプルな香りになってしまうそうです。ですから彼女のプラヴァッツ・マリ・サウスサイド2014は、昔のバローロや昔のブルネッロ的なキャラクターがあります。明らかにイタリアワインに近い。フヴァール島を含むクロアチアのダルマチアは、昔はヴェネチア共和国、そのあとオーストリアですが、彼女のプラヴァッツ・マリはオーストリアっぽくは一切ありません。
 「酸が大好き」だというだけあり、ロゼのロジーナ2017(ダルネクシャ品種)も、オレンジワインのワイルドスキンズ2017(クッチュ、ボグダヌシャ、ポシップのブレンド)も、テレンス・パトリック2016(ダルネクシャ主体、プラヴァッツ・マリ、メルロのブレンド)も、最近のワインっぽい早摘み味です。プラヴァッツ・マリ・サウスサイド2014はそこまで早摘みではない味ですが、それでも地元で飲むプラヴァッツ・マリと比べればずっと酸っぱい。地元の人にはやはり「酸っぱい」と言われるそうです。

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▲ピノ・ノワールに似た味に仕上げたテレンス・パトリックはフヴァールのサバのグリルにぴったり合うそう。


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▲左がアハーン・ヴィーノのプラヴァッツ・マリ2014、右がピーチー・キャニオンのパソ・ロブレスのベイリー・ジンファンデル2014。ジンファンデルのほうがなめらかだが水平的、プラヴァッツ・マリは風味の幅が広く垂直的。


 いかにも頭脳明晰なイギリス人がきちんと計算してイギリス人の嗜好に合わせて造ったワイン、といった趣。特にテレンス・パトリックは「ピノ・ノワール的なワインを造ろうと思った」そうで、その通りになっています。それも新世界のピノ・ノワールです。完成度は高いと思いますが、ここからフヴァールに入門したら、寿司をカリフォルニア・ロールから入門するようなものです。既にフヴァールに親しんでいる人なら、「ああ、こういう解釈もあるんだ」、「確かにここが問題で、こう解決したのか」、といった知的な楽しみが得られます。そういった意味では大変に高度なワインですが、経験値と知的好奇心の高いお客さんに向けたワインなのですから、それでいいのです。

 ちなみにセミナーは英語のみ。ロンドンっ子アハーンさんの早口のイギリス英語に追いつくのは私にとっては大変でした。教室の中のノリは通常とは異なり、私は最前列に座っていたのでなおさらなのですが、ふと海外にいるような気になりました。最近は日本でも英語のみでOKになったのかと、プラスの意味でもマイナスの意味でも感慨しきり。
 

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