« Jo Ahearneによるクロアチア、フヴァール島ワインのセミナー | トップページ | エルヴェ・ジェスタンとの雑談 »

2019.03.28

ドメーヌ・ツィント・ウンブレヒト当主、オリヴィエ・ウンブレヒトのインタビュー

 アルザス最高の生産者のひとり、ドメーヌ・ツィント・ウンブレヒトの当主、オリヴィエ・ウンブレヒトが来日し、セミナーを開催した。その詳細なレポートは他のワインジャーナリストの方々が書かれるだろうから私の出番があるとも思えず、またセミナーの内容の大半はこれを読まれている方々には既知の事柄だろうから、それを書いても退屈させてしまい申し訳ない。だからここではオリヴィエのセミナー内容はほぼ省略して、彼への個人的なインタビューを書くことにする。

Dsc08322-2

                  ▲アルザスを牽引してきたオリヴィエも来年で引退、ドメーヌは

                   次世代に引き継がれる。

 

OH「発酵熟成はアルザスのオークの大樽で行う。もし樽の使用を禁じられたらワイン造りをやめるしかない。ステンレスタンクは好きではない。ステンレスは宇宙とのつながりがない。コンクリートタンクも好きではない。コンクリートの中には金属が入っているからだ」。

KT・金属がよくないなら、樽のフープも鉄ではありませんか。瓶に鉄線を巻いてワインを飲んでみるとひどい味になります。ならば樽のフープも悪影響を与えているとみなすべきでしょう。絶縁物質つまりナイロン等で樽を縛ることを考えたことはないのですか。

「ステンレスとコンクリート内部の鉄はファラデー・ケージとして機能する。飛行機や車に落雷しても感電しないのは飛行機や車が導電体の箱だからであって、その内部には電気力線が侵入しない。ファラデー・ケージは導電体表面で電荷が移動して外部からの電気を中和する。内部のワインのコロイドは電荷を帯びており、これもファラデー・ケージに引き寄せられ、コロイドが浮遊状態のままでワインはいつまでも白濁したままとなる。樽のフープはファラデー・ケージを形成するほど多くない。これはビオディナミとは関係なく純粋に物理学的な事柄だ」。

・樽の殺菌は火山の硫黄を使用するのですか。

「樽の殺菌は火山の自然の硫黄だが、ワインに添加するのは石油由来の液体。できれば自然の硫黄を使いたいが、中毒の危険を伴うし、ワインに対しては現実的なオペレーションとして難しい。最近ロワールで火山の硫黄を使いつつ適切量を添加する器具が発明された。それは酸素ボンベとバーナーを使って800度に硫黄を熱して気化させるのだが、酸素と火が同じ場所にあれば最悪の場合どうなるか」。

・爆発です。

「自分でも使いたくないし、従業員に使用させて事故が起きたら私は刑務所行きだ」。

・あなたのワインには石油由来の硫黄の影響を感じるのですが。

「それは長期の澱上熟成による還元だ。ランゲンの場合は土壌が火山性だからワインには硫黄の香りがする。ブドウの段階から既に硫黄の香りだ」。

・澱はファイン・リーなのですか、それともグロス・リーなのですか。

「グロス・リーでなければワインに栄養を与えられない。ファイン・リー上の熟成は風味を変えたり少し濁ったワインになったりするだけで、化粧でしかない」。

・アルザスでは多くの場合、ブドウの圧搾はドイツよりはるかに長い時間をかけますよね。12時間とか24時間とか。これはアルザスの伝統なのですか、それとも誰かが最近考えたことなのですか。

「それは私が1986年に考案したことだ。4時間、8時間、12時間と圧搾時間を変えていろいろと実験してみた。うちではいろいろなワインがあるから24時間にするには圧搾機械を増やさねばならず、そのスペースはない。長時間の圧搾をするとジュースがきれいになるからあとでフィルターを強くかけなくともよくなる。またワインのストラクチャーやボディーをもたらす成分は圧搾の終わりの時に出てくる。なぜドイツでは短時間圧搾なのかといえば収量が多すぎるからであって、ブドウを絞り切ってしまったら法的最大収量を上回る果汁が取れてしまう。だから彼らは短時間で軽くしか圧搾しない。結果、ああゆう味になる。同じ問題は現在ブルゴーニュでも見られる。軽やかな味になるかも知れないが熟成しない。軽い圧搾は発泡ワインにはいいが、スティルワインにはよくない。最近のブルゴーニュの早すぎる熟成は、私見では圧搾の問題なのだ。2003年のワインはリリース当時は酸がないから熟成しないと言われていた。しかし今飲むとどうだ?」

・素晴らしい熟成を見せています。今でもビビッドです。

「なぜなら2003年は収量が極めて少なく、誰もが過収量に陥ることなく、しっかり成分を引き出すことができたからだ。また、ブドウが完熟していなければ熟成のための成分は得られない。RVF誌が暑い年のワインという記事を作るために私もワインを供出したが、暑い年のほうが熟成するのだ。2010年を見てほしい。リリース当時は酸があって最高だと皆が言っていたが、今ではどうだ?」。

・失望させられることが多い。酸化が早い。私も近頃は暑いヴィンテージのほうが好きです。

2010年はブドウの成熟度が足りなかったからだ。だから私は完熟したブドウを収穫するのだが、アルコールっぽい味にはならない。ビオディナミによってブドウが自律的にバランスを調整する。ランゲンのゲヴュルツトラミネール2016年はアルコールが実は15度もあるが、そうは感じないだろう。ところで長時間圧搾はいいが、オレンジワインには反対だ。ゲヴュルツトラミネールを醸し発酵したら恐ろしく苦くて飲めたものではない。リースリングもそうだ」。

・ピノ・グリのオレンジワインは成功していると思いますが。

「確かに。それはピノ・グリの果皮が薄いからだ」。

・数日前に私は某グラン・クリュの会長とメールでやりとりしていて、これからそのグラン・クリュにはピノ・ノワールを含めるかそれとも複数品種のブレンドを含めるべきか、といった議論をしていました。そもそもなぜグラン・クリュは4つの品種までしか許されないのか。他の品種やスタイルをグラン・クリュに含めれば、落とされるのはだいたいのところミュスカです。栽培面積がもともと少なくて市場も小さい。とするとミュスカの伝統が滅びることになる。認可品種を増やせばいいだけのことでしょうに。

INAOというのは、これからピノ・ノワールを植えたいのですがいいでしょうか、といったお伺いを立てる相手ではない。申請するまでに、ピノ・ノワールがその畑で成功し、そのワインの質が既に評価の高いピノ・ノワールと比べて同レベルであることを長い時間かけて証明し、その結果を持参して初めて審査を受理される。変更しようとしたら、今まで認可されていた品種の中で売れていないものがあれば、なぜ売れないのか、植えるべきではないのではないか、と厳しく尋問される。7品種をグラン・クリュに含めるという申請をすることは原理的には可能だが、そのためには7品種すべてのワインがグラン・クリュにふさわしいと証明しなければならない」。

・つまりはビジネス的成功を収めているものがよい、という話ではありませんか。グラン・クリュか否かと売れるか売れないかとは別でしょう!

「いや、売上ではなく、評判が重視される。しかし売上の数値以外で評判を証明するのは難しい、、、。そもそも現在のINAOの方針は、増やすのではなく減らす方向だ。本当にその畑に合うとされている品種のみに絞ろうとしている。どこでもミュスカは植えてあるにせよ、ではどのグラン・クリュでもミュスカは成功するのか。ウィーベルスベルグにミュスカは必要ないだろう」。

・有名なビオディナミ生産者がウィーベルスベルグにミュスカを植えているではありませんか。なかなかおいしいと思いますが。

「ウィーベルスベルグのミュスカはくそだ。たとえばゴルデールのミュスカは最高だ。ゲヴュルツトラミネールも最高だ。しかしゴルデールのリースリングはくそだ、ピノ・グリもくそだ」。

・そうですか、グートが最上部に植えているピノ・グリはなかなかいいですよ。

「なかなかいいでは、グラン・クリュとしては不足なのだ。卓越していなければならない」。

・そんなことを言ったらモエンチベルグとかどうなるのですか。何か卓越していますか。

「え?UのほうかOのほうか」。

・粘土のほうですよ。

「それはグラン・クリュの中にでも上下はある。しかしその話をしたら私は殺される。それにグラン・クリュじたいを責めるよりその畑でワインを造る生産者をまず疑うべきだ」。

・モエンチベルグはビオディナミやオーガニックの生産者が多く所有しているではありませんか。

「ビオディナミならいいわけではない。ダメな生産者とは教科書的ビオディナミであって、人の言うことを聞くだけで自分で考えていない。もしモエンチベルグを有能な生産者の手に任せたら、果たして今のような品質かどうか」。

・あなたはピノ・ノワールに対して懐疑的で、ブルゴーニュの品種はブルゴーニュに任せておけばいいと言いますが、その論理ならリースリングはドイツに任せておけばいいということになりませんか。そもそもピノ・ノワールはブルゴーニュ品種というより修道院品種でしょう。だからクロスター・エバーバッハでもクロスター・ノイブルクでもピノ・ノワールを栽培してきた。

「君は12世紀の修道士に、アルザスに持ってきた黒ブドウが何かを直接聞いたのか。君は事実誤認をしている。彼らが導入したのはピノ・ノワールではない」。

・え?中世のシュタインクロッツは赤ワインで有名でしたが、あれはピノではないと。

「彼らが持ってきたのはガメイだ。シュタインクロッツはガメイのワインだった。我々が住むトゥルクハイムもガメイの産地だった」。

・それは初耳です。ならば再びガメイを植えればいいではありませんか。ガメイは悪い品種ではありません。

「そうだ、ガメイは悪くない。植えてもいいと思う。ただボージョレのガメイのせいで、世の中ガメイと聞くとまずいと思う。えー、ガメイですかあ、と皆に言われるだろうから商売にはならない。自分がガメイを植えるなら、ボージョレではなくコート・ロアネーズに生き残っている優れたガメイにする」。

・そうは言っても、キルシュベルグ・ド・バールのピノ・ノワールはブルゴーニュうんぬんと比較する必要なく素晴らしい品質です。結果が出るならいいではありませんか。

「だからキルシュベルグ・ド・バールのピノ・ノワールは近いうちにグラン・クリュになる」。

・濾過についてお聞きします。アルザスのワインは残糖があるから濾過はほぼ不可避です。しかし濾過すれば味がフラットになる。今日のテイスティングに出された2016年のランゲン・ゲヴュルツトラミネールは今まであなたが造ったランゲンの中でも最高傑作だと思いますが、06グラムしか残糖がなければ濾過の必要はありませんよね。

「ああ、あのワインは自分でも最高傑作だと思う。MLFをしているからなおさら濾過の必要はない。だからタンクの底の部分の濁った部分だけは板フィルターをかけたが、清澄度の高い部分はフィルターをバイパスした」。

・どうりであのワインがあんなに複雑でおいしいのですね。

「フィルターをかける際には圧力計を注視していなければならない。目が詰まってくると圧力計の針が急に跳ね上がる。それでもワインを通そうとするとストレスがかかってまずくなる。自分も濾過しないワインがいいと思うが、そうするとワインが少し濁るからあれこれ問題が、、、。無濾過で瓶詰めしたヴィンテージもある」。

・何年ですか。

1999年、2000年、2001年」。

・ああ、私が最高だと思うヴィンテージではありませんか。やっぱりそうだったのですね。再び無濾過に戻るべきですよ。

「コルクを抜いて泡が出てもいいなら」。

・私は大丈夫です。

 

« Jo Ahearneによるクロアチア、フヴァール島ワインのセミナー | トップページ | エルヴェ・ジェスタンとの雑談 »

ワインセミナー」カテゴリの記事