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2019年6月の記事

2019.06.26

ポルトガルワイン試飲会 Tokyo Grand Tasting 

 毎年大盛り上がりのポルトガルワイン試飲会。今年もまた。

 正直、私はポルトガルワインのよさが、理念的な意味で混植混醸が多いからいい、という以外には、よく分かっているとは言えない。まずいワインは大変に少ないが、そして品質対価格比は優れているが、ゆえに商品として優秀だが、ワインファンとしてみるなら、「とてつもなくすごい、おそるべし、ああああ」と思ったことが、酒精強化ワインを除けば、悲しいかな、ない。純粋にワインと個人との相性なのだろうか。ひとつの決定的な問題は、ポルトガルワインはどれも小さいことだ。ワインを飲んでいる気はするが、ワインの大海に飲み込まれている感じがしないのは、その小ささゆえである。誰もそれが気にならないのか、それとも私の感覚がおかしいのか。果てしてどこかに真の宝石は眠っているのか。

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 輸入元探しのワイナリーが多数来日していたので、時間的制約もあり、それら日本未輸入のワインのみをテイスティングしてみた。ご存知のとおり、ワインは人の手を経るごとにその人の味になっていく。クルチエであれ輸入元であれ、ワインにかかわっている人は普通は強大なパワーを持っているので、なおさらその人の考えなり美意識なりがワインの中に入り込んでしまう。それはおいしいまずいの話ではない。生産者が自分で持ってくるワインは、他人の関与がミニマムなので、もともとの味がわかる。何を飲んでいるのかわからない状態のワインは、仮においしかったとしても、勉強の対象としては好適ではない。

 今回ひとつわかったのは、アレンテージョは8割ぐらいが灌漑しているということ。灌漑しているワインは“新世界的な”滑らかでリッチなフルーティさと水平的な形。そして無灌漑ワインは、“旧世界的な”堅牢なミネラル感とメリハリ感と垂直的な形。これに関してはポルトガルであるとかアレンテージョであるとかは二の次で、無灌漑か灌漑かの議論。灌漑してはおいしいワインにはなっても正しいテロワールの味を表現するワインにはなりにくいものだ。

望んでも無灌漑が難しいエリアもあるらしい。アレンテージョでも土壌が風化した花崗岩や砂利、シストで保水性が悪い場所ではたぶん難しいのだろうと思う。無灌漑のワイナリー、Dona Maria Julio Bastosの畑は石灰岩と粘土。つまり保水性の高い畑だ。とはいえ、アレンテージョの中心都市のひとつエヴォラの年間降水量を見ると、629ミリと、多くも少なくもない、ヨーロッパでは普通の数値。これで灌漑が必要なのか。彼らのTouriga Nationalはぴしっとした酸と緊張感のあるタンニンが心地よい、シリアスなワイン。驚くべきはPetit Verdot。晩熟の品種ゆえに、熟さなければ青臭くえぐくなるものだが、このワインはなめらかで濃密で気品がある。この通常ならば数パーセント加えられるだけのブレンド用品種が、単一品種ワインとしてここまでの魅力を放つとは驚きだ。アリカンテ・ブーシェも素晴らしい。タンニンばかりが目立って複雑性や余韻には欠ける、パワフルでも平面的なワインが多いと思うが、ここは違う。タンニンが熟していて果実味がしっかりして酸も力強いため、アリカンテ・ブーシェらしい積極性のあるパワフルなタンニンが浮足だつことなく、スケール感、複雑性、立体感につながっている。

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 話はそれるが、ブースにビオディナミに詳しいお客さんがいて、この生産者にビオディナミに転換せよと説得していた。そういう時代になったのかと感無量。私はビオディナミのワインは好きではあるが、最低限の常識程度も知らないので、「お話中申し訳ありませんが、ビオディナミにお詳しいようで、今度11月にルネサンス・デ・ザペラシオンの試飲会セミナーがあるのですが、ビオディナミについての講演をしていただけないかと」と声をかけてみた。「私はたいしたことないが、それなら詳しい人を何人も知っている」と。さすが、ビオディナミ大国日本!

 さて最近のポルトガルワインブームをけん引するヴィーニョ・ヴェルデについて。Agri Roncao Vinicolaの方によれば、「最近はみな単一品種ワインを欲しがる。品種の個性を楽しむ、ないし品種の名前でワインを売るのが一般的になっている」。アヴェッソ、アリント、ロウレイロ、アザルと、単一品種ワインを飲んでみたが、正直大差ないし、あまりおいしくない。味の基本を決めるのは品種ではなく土地なのだから、大差があるほうがおかしい。よい土地であればあるほど品種の味は副次的になっていくものだし、それはワインファンならだれでも知っていることだ。ひとつ本来のブレンドワインがあった。これだけが別次元においしい。「やはりヴィーニョ・ヴェルデは伝統どおりにブレンドのほうがいい」と言うと、「私もそう思う」。「そう思うならそうすればいいではありませんか」。「それでは売れない」。いったいプロも消費者も何を考えているのか。伝統を破壊し、おいしくないワインを何種類も作らせて、いったい何がしたいのか。品種名でワインを飲まないという偉大なポルトガルの伝統を否定してポルトガルワインが好きだと言われても、私にはまったく理解できない。

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ポートワインについては、Pocas10 Years Old Tawnyが気に入った。もちろん20年ものもいいが、それは想定の範囲。普通10年ものは、フレッシュさもないし熟成による複雑さや凝縮感もない中途半端な味が多いと思うが、これは力強くビビッドな果実味を保ちつつTawnyならではの酸化熟成風味もほどよく備え、甘すぎず、スケールが大きく、張りがあって、見事なバランス。ルビーポートでさえ、投げやりな安酒ではなく、気合、情熱を感じる充実した味わい。これは大きな発見。小規模家族経営ポートワイン生産者のワインは探求すればおもしろそうだ。

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2019.06.25

南仏魚料理とラングドック白ワインの講座

 普通の南仏料理をアレンジなく作り、ラングドックの白ワインと合わせて楽しみ、ラングドックの白についてしっかり学ぶ講座を開催した。会場は恒例、人形町の『サン・ピエール』。

 

ラングドックのナルボンヌ・プラージュやグリュイサンやルカートやサント・マリー・ド・ラ・メールといった海辺の町で、ゆるーい感じの普通のレストランに入って普通にメニューに並んでいるような料理。ある意味、基本中の基本のフランス料理であるが、しかしそういったフランス料理は日本ではなかなか食べられない。日本ではフランス料理=おしゃれな料理、シェフの芸術的創作力の発露としての料理、だからだし、もうひとつの決定的な理由は、普通の料理は創作料理より往々にして食材原価がかかるにもかかわらず、それに見合った売価設定ができないからだ。

ラングドックのワインは当然のことながら普通のラングドック料理を無意識にも前提としているのであって、その意味ではイタリアと同じで、ローカルな食文化の中での自動的な料理とワインの関係性が成立している。それが地中海食文化というものだろう。だからラングドックのワインを理解しようとしたら、そういった普通の料理についての理解は不可欠なのだ。とすれば、ほぼ唯一の方法としては、レストランを借り切り、レシピを指示し、特別に料理を作ってもらう、ないし自分で料理するしかない。

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メニューとワインは以下のとおり。

  1. 岩手産生牡蠣とルカートのミュスカ・セック。これは岩手産しかありえない。なぜなら岩手の牡蠣は石灰の味がするからだ。合わせるワインは、ルカートの普通の店で置いてあるようなルカートの協同組合のミュスカ・セックであり、ルカートは石灰質土壌だからである。牡蠣のミネラル感は一様ではない。おおよその牡蠣は非石灰の味がするから、実はヨーロッパの多くのワインは合わない。エタン・ド・トーの牡蠣とピクプール・ド・ピネが合うなどと言っている人がいるが、それは宣伝文句であって事実ではないことぐらい、言っている当人でさえ自覚しているはずだ。ラングドックの牡蠣小屋に行けばミュスカ・セックは基本のグラスワイン。ミュスカは全ワイン中もっともキメが細かくツルっとしている。生の貝はすべてツルっとしている。

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  2. 広島産ムール貝のプロヴァンス風とピクプール・ド・ピネ。広島らしいたおやかな優しい味のムール貝に、やわらかい味のピクプール。ピクプール・ド・ピネは、ミュスカデと同じく、高級なものは酸っぱくも薄くもない。ミュスカと比べて質感は粒つぶしているから、火を加えてソースのある料理のほうが生より合う。生にはミュスカ・セック以上のワインはない。広島産がベストかどうかは分からない。瀬戸内のムール貝は旬なはずだが、どうも貝毒が蔓延していて入荷が限られているようだと聞いた。それでも料理によってワインとの相性は調整できる。

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  3. 鱚のフライとソミエール村の白&サンシニャン下部の砂地のソーヴィニヨン・ブラン。小さい魚のフライ、つまり水分を抜いて真ん中にしっかりした味が集まるような料理には、冷涼かつタイトなソミエールや、ソーヴィニヨン・ブランの個性が合う。ソミエールは、以前にもお話したように、コトー・デュ・ラングドック・ソミエールAOPと呼べる赤より、ただの広域ラングドックAOPにしかならない白のほうが、土地の特徴を生かせると思う。

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  4. イカのペルシヤードとミネルヴォワ。イカといえばパセリとニンニクとオリーヴオイルで焼いたペルシヤードが基本。今回はバライカを使った。これは強火でソテーすると硬くなるので、弱火でじっくりと火を通すのが重要。イカは重心が低いので、ヴェルメンティーノのように重心が低いブドウ品種を主体としたワインを選ぶ。

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  5. 鱸のハーブローストとラ・クラープ。低温でじっくり調理し、柔らかく仕上げた鱸に、厚み、スケール感、長い余韻をもつラ・クラープ。ラングドックの白ワインの中で最高峰といえるクリュ、特にメインとなる魚料理に対する最上のワインは、ラ・クラープだろう。ブールブーランを主体とするワインはラ・クラープのみ。他産地ではこの品種は酸やミネラル感を補う役割だが、ここでは完熟してボリューム感が表現される。

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  6. イチジクのファーブルトン、ベルガモット・クリーム添えとカスカテル協同組合のミュスカ・ド・リヴザルトここではシスト土壌のカスカテルの甘口ミュスカ。密度は高いがソフトで酸がやさしい。普通に日本の食材でデザートを作ったら石灰の味はしない。ミュスカ・ド・リヴザルトならばいいわけではなく、フィトゥー・モンターニュのエリアのシストの場所にもっと注目したい。協同組合のワインのよい側面が出て、妙なりきみがなく、濃すぎない、ゆえに胃もたれしない、いいデザートワインだ。

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 ラングドックのAOPIGPワインのうち白ワインの生産比率は一割のみだ。ラングドック=赤ワイン、と思うのが普通。しかしラングドックは地中海に沿った産地であり、目の前には豊富な魚介類がある。魚料理に対する最適なワインとして、ラングドックの朗らかでおだやかで酸が低く、しかしミネラル感がしっかりとあるラングドックの白を正当に評価すべきだ。今回の講座にご参加された方は、ラングドックの白がどれほど役に立つワインなのかご理解いただけたことと思う。

 ラングドックは広大な産地だからよく分からないといわれる。しかしそのAOP23しかない。ロワールで69、ブルゴーニュで100だ。ブルゴーニュのアペラシオンを熟知している日本人にとって、23ぐらいなんでもないはずだ。そこをクリアーしないと、いつまでたってもラングドックは安い大量生産単一品種ワインとしてしか見えてこない。それでは誰も得をしない。

 こうした機会を積み重ねていくことで、料理とワインの相性がだんだんと理解されてくる。今回のような簡単な料理なら、私でも、フライパンの温度はこう、イカはこのぐらいの幅で切れ、このハーブをこのぐらいこのタイミングで入れろ、と、ワインに合わせて指示はできるし、料理を作ることもできる。ワインの味は変わらないのだから、調整は料理で行うしかないものだが、そのためにはキッチンに的確に指示できる料理の知識と技術が相当必要。こんな素人芸でさえ四苦八苦するのだから、高級レストランのソムリエはどうすれば要求されるレベルに到達できるのだろう。常識的に考えて、結果を最大限にするための方策はひとつしかない。それは、ベーシックなメニューと限定された産地のワインの組み合わせに絞って精度を増す、ということだ。合わない料理とワインを出すのは自然への冒涜、生産者への冒涜以外なにものでもない。だからラングドック魚料理とラングドックワインの店、みたいなフランス料理店がもっと増えてほしい。日替わりの創作料理にワインを合わせるなど、一万人にひとりの超絶的天才だけができることだ。私には無理。それだけは知っている。

2019.06.04

Terroirs & Millesimes En Languedoc 2019

年に一度行われるラングドックワイン委員会主催のワイン試飲イベント、『テロワール・エ・ミレジム・アン・ラングドック 2019』に参加した。昨年に続き、これで3回目の参加だ。泊まり込み合宿で連日の試飲とセミナー。だいたい9時半スタートで帰途につくのは午後11時。何百本ものラングドックほぼ全アペラシオンのワインを連続してテイスティングする機会はなかなかない。昨年の記憶があるうちに再び試すことができるので、アペラシオンの個性の把握がさらに正確になる。

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ワインはこうした形でブラインドでテイスティング。ペズナスだけでもこれだけの本数がある。

 

試飲は基本すべてブラインド。これでなくては思い込み、先入観が入ってしまう。ひとつのアペラシオンごとに、多い場合は60種類以上のワインが並ぶ。そうすると各アペラシオンの全体像が抽出されてくる。江戸前寿司とは基本的にどういう味でなければならないか、という基準点が身体感覚的に取得されていないなら、一軒の店で鉄火巻を食べても一体何が評価できるだろう。ワインも同じく、個別ワインの美味しいまずい以前に、まずはティピシティの理解が重要となる。プロならばそれは常識であって、好き嫌いと正しい間違っているを峻別しなければならない。ラングドックワインに関し、その基準点を身に着けるためのある種の修行が、この試飲会・セミナーである。

 

□AOPラングドック、ペズナス、グレ・ド・モンペリエの試飲

モンペリエ空港から1時間で、第一会場・ホテルのシャトー・サン・ピエール・ド・セルジャックに着く。翌朝からのテイスティング。これからテーマごとにほぼ時系列で記事をまとめる。

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▲モンペリエの北にあるシャトー・サン・ピエール・ド・セルジャックは現在ホテル、レストラン、イベント会場になっている。周囲にはブドウ畑が広がり、ワインも生産している。

まず最新2018年のスケールの大きさに脱帽させられる。この年は1月から2月に大量の雨が降り、土中の水分が多く、ブドウへの水分ストレスが少ない。モンペリエの天候を見ると、年間降水量は通年の5割増しで、4ケタに届こうとする驚くべき多さだが、夏のあいだには雨が非常に少なく、収穫時期である9月にはほとんど降雨が見られない。そして年間平均気温は通年より1度も高い。単純に言って、ブドウがすくすくと育った年の味だ。   

2017年のチャーミングなまとまり感も良い。この年は2018年とは真逆に、通年よりも5割少ない降水量。しかし渇水によるストレスを感じさせない。201610月の大雨の貯金が残っていたとは考えにくいが。気温変化は極めてゆるやかで、冬と夏のあいだのカーブがフラットで、6月、7月、8月の気温差がない。そして9月になると平年より気温は下がる。ワインの味わいはまさにそういった気温変化の年の典型と言える。

2016年はインディアン・サマー・ヴィンテージで、こってりした果実味が特徴だ。年初から収穫までの降水量は恐ろしく低く、他よりもタンニンが固く、がっしりした骨格をもつ。つまり、粗めのタンニンを豊満な果実の甘さで抑え込む味で、このパワフルさとコントラストの大きさが個性となる。

ゆえに、譬えで言うなら、ゆったりのんびりした味わいを求めたいアペラシオンでは2018年、スケール感より繊細さや抜けのよさを求めたいアペラシオンでは2017年、迫力を求めたいアペラシオンでは2016年がいい。品種に譬えるなら、それぞれ、グルナッシュ的、シラー的、カリニャン的であろう。

おすすめワインはラベル写真のもの。ひとつやたらとセクシーで華やいだワインがあった。ラ・クロワ・キャピトルのラングドック白、Allegria Dolce Vita。珍しくクレーレットロゼ品種を5割使用。これはもっと注目されるべき品種だろう。

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ペズナスは気をつけないと風味が汚くなりやすい産地だが、成功した場合の上方への伸びと細かく強いミネラルは印象的。ペズナスがグラン・クリュかどうかという議論に対しての私の意見は、否、だ。スケール感と余韻の長さが若干劣る。個性で勝負する良質なプルミエ・クリュといった認識で正しいと思える。スパイスを使った重心が高い肉料理に合わせるラングドックワインとして、まっさきに名前が出てくる産地がペズナスである。

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グレ・ド・モンペリエはぽってりして腰が安定した南国味。若干キメが粗く、アルコール感も強く、いかにもなのんびり地中海ワイン。これを評価するかしないかもまた議論が紛糾する点であろうが、私はグレ・ド・モンペリエのアンチ北方味は、ラングドックが南仏ワインである以上は重要だと思っている。料理で言うなら、ローストポーク的というかポルケッタ的。スカしたピク・サン・ルーの反対の、家飲み的ゆるさは結構好きだ。ゆえにグレ・ド・モンペリエは高級なつくりにしない方がいい。

 

□■ピクプール・ド・ピネ訪問

エタン・ド・トーに面した牡蠣養殖業者兼レストラン、タルブウーリエッシュでのピクプール・ド・ピネ試飲会&ランチ。当然、山のような牡蠣とムール貝、そしてセト風イカパイを食べる。

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▲エタン・ド・トーにある牡蠣養殖場兼レストランでの試飲。オルマリン、ボーヴィニャック、フェリーヌ・ジョーダン、フォン・マルス、アザンといったおなじみの生産者みずからワインをサーブ。

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ピクプール・ド・ピネは牡蠣用ワインとして知られる。畑の前が牡蠣養殖場エタン・ド・トーなのだから、両者セットのプロモーションは理に適う。しかし過去15年、年に一度は両者の組み合わせを経験してきたが、合うことは合うが完璧とは言えないと思えた。確かにピクプールは重心が高いから(遅く収穫しても、だ)牡蠣に対して大きく外れることはない。それでもミネラルの質が違うし、性格的にエタン・ド・トーの牡蠣のほうが派手だ。ミュスカデとナントの牡蠣の方が味の方向性は地味同士で揃っている。

今回初めてエタン・ド・トーの波打ち際を歩き、合わない理由がわかった。予期していなかったが、写真の通り、玄武岩だらけだ。つまりこの地の牡蠣は火山のミネラルの味なのだ。というのもエタン・ド・トー南側にあるアグドのサン・ルー山は火山。今まで北側にあるジュラ紀石灰岩のサン・クレール山しか考えてこなかった。対してピクプール・ド・ピネの南部は白亜紀の石灰岩だし内陸部は石灰を含む第三紀の礫岩。ミネラル感を感じる位置が異なるし、性格が内向的だ。だから私はメズ村のような砂・粘土の土壌(表土には石灰の礫があるが、エロー川がかつて運んできたもので角が丸く、実は現地性ではない)のピクプールの方が、石灰の味が強い村のものより地元の牡蠣に合うと言ってきた。それでもぴったりとはいかない。

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▲エタン・ド・トーの浜辺。黒い玄武岩の礫がたくさんある。この海の牡蠣に石灰岩のワインが合わないのは当然だと思った。

多くのピクプールはラ・ロシェル近辺の石灰岩の崖の先に育つ牡蠣に合っても、目の前の牡蠣には合わない。ブジーグをはじめとするエタン・ド・トーの牡蠣が要求するのは玄武岩土壌のワインであり、ラングドックで玄武岩と言えばペズナス、またはベサンやオー・ヴァレ・ド・ロルブであり、つまり、その地に植えられた白ワインということになる。それはマイナーな存在で、理念的にはあり得ても具体的なワインは知らない。むしろワシントン、オレゴン、ヴィクトリア、ヴェネトから選ぶ方がいいかも知れない。長年の謎が解けてよかった。やはり自分で歩いて観察するしかない。

さて試飲会だが、気に入ったのはフェリーヌ・ジョーダンの高いほうのワイン、キュヴェ・フェリーヌ。優れた区画のブドウの中汲みからせめの果汁を発酵し(あらばしりは安いほうに行く)、その逞しさを半年のシュールリーで和らげたものだ。フェリーヌ・ジョーダンのスタイルは独特のさらっと流すところがあり、都会的で地酒らしくないが、どのみちピクプールは地元の牡蠣に合わないのだから、私は考え方・評価基準を変え、より普遍的文脈での有用性とより抽象的な品位を重視することにした。あとボーヴィニャック協同組合の古木のキュベ・アニヴェルセル1932の深いミネラル感がいい。こうした文脈で見ると、マス・サン・ローランの牡蠣との不整合性が、以前は保留事項だったが今や積極的な評価事項となり、それがさらに良いワインに思えてきた。簡単に言えば、本来のピクプール・ド・ピネは地中海のカジキマグロに合う力強いワインである。

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そもそもピクプール・ド・ピネに見られる赤土は白ブドウに向くのか。土だけ見たら黒ブドウ用だろう。栽培者組合会長に聞くと、ピクプールは昔は黒ブドウだったが1700年頃に突然変異して白ブドウになったとか。どうりで。ローマ時代から千数百年は赤ワイン、白の歴史は遥かに短い。つまり赤ワイン用土壌に植えられた白ワインとはどんな個性かを考えると、多くの人が想像するピクプールよりも太くて重い味であるべきなのだ。皆長いあいだ、エタン・ド・トーの牡蠣のイメージに囚われすぎていた。シャトー・ド・ピネやマス・サン・ローランの方向性で正しかったのだ。昨年マス・サン・ローランに通りがけにふらりと立ち寄り、彼らのピクプールといろいろな魚料理を合わせてみた時も、印象的だったのは生牡蠣ではなく牡蠣グラタンであり、また鯛のポワレのバター系ソースった。

自分で納得できる答えが得られるまでに15年かかった。数千ある主要ワイン産地のたったひとつに関してだけで、だ。こんなペースでは私は何も分からずに死ぬしかない。ワインに詳しい人はどんな頭のつくりをしているのか。どうして彼ら彼女らは1を飲んで100が分かるのか。やはりワインはマンハッタン計画に参加した数学者物理学者レベルの超越的天才のみが扱える対象なのか。いや、ワインは結果ではなく、結果に至る過程を楽しむ趣味だ。あれこれ自分で考えることが大事で、結果を人に聞いたら、推理小説の犯人の名前だけ最初に聞くようなものだ。しかしあまりに安易に、皆答えだけを求めていないか。例えば私の上記の考察は、ピクプールは牡蠣に合わない、という一文で言いあらわせるのか?

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▲ピクプール・ド・ピネの畑からエタン・ド・トー、そしてセトの町があるサン・クレール山を臨む。畑の礫は写真からも分かるとおり、角が丸い。

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▲ピクプールのブドウ。

それはともかく、ピクプール・ド・ピネの品質向上はここ数年で顕著だ。6、7年前から除草剤は禁止され、機械的な漉き込みが義務になったそうだし、殺虫剤も全1500ヘクタール中1300ヘクタールで使用されていない。認証オーガニックは今でもアザンだけだが(転換中は他にもある)、協同組合のワインを飲んでも以前のようにエグくて薄くてまずいといったことはほとんどない。値段も上がったとはいえ、今やピクプール・ド・ピネは安物海辺夏ワインではなく、高級レストランで複雑な魚料理に対して出されてもいい、いや、出されるべきワインに進化している。

驚くべきは輸出比率で、70%に達する。そのうち4,5割はイギリス向け。EU離脱の動きに対して生産者たちは市場喪失を恐れたが、今年になってもあいかわらず順調な発注がイギリスから続いているそうだ。なぜイギリスと聞いても、よくわからないとのこと。それはそれで不安になる。

 

□コトー・デュ・ラングドック・ソミエールのセミナー

ソミエールといって知る人も少ない。私もかつて十本未満しか飲んだ記憶がない。ガール県18村にまたがりつつも1971ヘクタールしかない小さなアペラシオン。ラングドック東端、コート・デュ・ローヌ西端コスティエール・ド・ニームに接する。ソミエールとコスティエール・ド・ニームの比較ほど、ラングドックとローヌの何が違うかを如実に理解できる例も少ない。引き締まって酸の強い岩ワインであるソミエールと、ふくよかでアルコールが高く酸が低い土ワイン(土壌は砂利だ)であるニーム。ソミエールの酸は極端なほどで、グルナッシュでさえpHは3・2から3・3程度。ニームなら、いや一般にはグルナッシュなら3・7以上の数値だろう。

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▲セミナーで紹介されたソミエールの地質。

 

ソミエールの特徴は、白亜紀の地質もあること、第三紀の地質の場所では多くシレックスが見られること。つまりトゥーレーヌ的な土壌であり、実際にワインの味もトゥーレーヌ的な硬質な中心線を備える。AOPとしてはブレンドの赤のみが造られ、シラーとグルナッシュで50%以上、シラー単体で最低20%、15カ月熟成といった規定がある。ラングドックでロワール的ないしブルゴーニュ的な個性を求めるなら、まずはソミエールを探求すべきだ。セミナーで出されたワインの中では亜硫酸無添加のビオディナミワインDomaine de CoursacLa Patience 2016の複雑さと、Mas Montel / Mas GrranierCamp de l’Oste 2016の上品さ・しなやかさが印象的だ。後者はまるでピク・サン・ルーだと思ったが、聞いてみると「この畑からはピク・サン・ルーが見える」とのこと。

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▲上写真がセミナーで試飲したソミエールのワイン。どれもそろってクールでタイトな味わい。

しかしソミエールは赤だけのアペラシオンでいいのか。この冷涼なキャラクターは白やロゼにこそ向くのではないか。そう疑問を呈すると、ラングドック委員会の技術部長は「今からINAOに電話してそう言ってくれ。私も白が認可されるべきだと思う。しかしINAOはラングドック=赤という先入観があるから、赤だけのアペラシオンになってしまった」。確かにソミエールでは赤ワインが長く造られてきたのだろうから、INAOの実績ベースの判断では赤産地ということになる。ところが長年安価大量生産産地であったラングドックでは、テロワールにふさわしいワインが造られてきたというより、残念ながら需要に応えざるを得なかったという側面を看過してはいけない。つまり、その場所で最高の品質のワインを生み出しうる品種とスタイルが確立する(それには数百年かかるだろう)前に、アペラシオンが確定してしまったところに問題がある。ラングドックにおいては、今まで何を栽培していたか、ではなく、これから何を栽培するべきなのか、という視点が重要だ。しかしINAOがラングドックだけを例外視するわけもない。ならば唯一の解決策は、それぞれのエリアで本当に栽培すべき品種、造るべきワインはどんなものであるべきかを我々が考え、そのようなワインを支持し、実績を長年かけて積み上げていくことである。そして私にとっては、ソミエールは赤より白とロゼの産地である。

 

□クレーレット・デュ・ラングドック、カブリエール、ソミエール、サン・ジョルジュ・ドルクの試飲

ディナーに出された印象的なワインの写真を載せる。

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クレーレット・デュ・ラングドックの深みと存在感、カブリエールのシリアスで内省的な密度と引き締まった余韻、そして鮮やかな酸と緊密な構造のソミエールのエリアの白は、いかにもなラングドック白とは隔絶したシャープさ。やはりソミエールは白のアペラシオンであるべきだ。ラングドック委員会会長にその話をすると、「まずは実績と歴史を作らないといけない、30年計画だ」と。写真のドメーヌ・ギヨーム・アルマンは白が6割とのこと。それでいいと思う。

写真はないが、サン・ジョルジュ・ドルクのロゼもいい。ここはグレ・ド・モンペリエのエリア内とはいえ土壌が異なり、南ローヌ的な深い砂利。しかし南ローヌより海に近い味がする。このムッチリと肉厚で酸が低く大きな味のアペラシオンは、コッテリしたソースのホタテやオマールに、そして豚バラ肉の低温ローストに最高だ。テロワール名付きコトー・デュ・ラングドックの中でもとりわけ重宝する個性だから、この名前は憶えておくとよい。

 

□テラス・デュ・ラルザックの試飲

何百本も飲んでも未だテラス・デュ・ラルザックの魅力が分からない。ラングドックの中でもとりわけ内陸部にあり、標高850メートルの山の南斜面に広がるアペラシオンだから、確かにいかにも山ワインの味。しかし陰気さと酸の固さとタンニンのエッジが気になる。テラス・デュ・ラルザックは赤のみだとはいえ、個人的には同じ畑で造られる白やロゼ(アペラシオンはこの場合コトー・デュ・ラングドック)の方がいいと思うぐらいだ。ジェラール・ベルトランのソヴァジョンヌなど典型的な例で、赤はアルコール度数15度に達するにも関わらず、風味が閉じて、熟しているとは言えない。このアペラシオンでは相当にクリエイティブな発想でワインを作らないと形にならないと思う。ただ、緊張感を伴う陰影に着目するなら非常に興味深いアペラシオンであり、冬のジビエに熟成させたワインを合わせるならいいだろう。

膨大な本数をテイスティングし、美味しいと思えたのは数少ない写真のもの。テイスティング自体はブラインドなので予見・偏見はない。写真に撮り忘れたワインに、Les Chemins de Carabote Chemin Faisant 2016 がある。これは残糖があるのではないかと思う甘さ。相当に強いタンニンを補完するための果実の熟度を考えたら、このぐらいのほうがいい。それでバランスが取れる。全体にタンニンがえぐいのは2016年ヴィンテージのワインが大半だったからでもある。ラングドックのこの年はシラーには特に渇水がきつくて厳しい結果になった。この話をしていると、ラングドックのシラー依存に対する根本的な疑問に行き着く。

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テラス・デュ・ラルザックの美点であるタイトなミネラル感やディティール感や冷涼感を生かしつつゴツさを減ずるには、赤白ブドウの混醸をアペラシオンの規定に含めるのが一番。まあラベルに書いてあることを真に受けてはいけないのはラングドックの常で、そうしている人も実はいるようだが、これ以上はオフレコなので各人探求してもらいたい。ともあれ混醸について私はどんどん法律違反せよと言いたい。すぐにできる解決は、樽ではなく陶製の甕で熟成することだろう。樽の余計なタンニンはいらない。

 

□ピク・サン・ルーの試飲

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高い標高と大量の降雨量と白亜紀とジュラ紀の石灰岩土壌。ピク・サン・ルーは、ある意味ラングドックらしくない、ブルゴーニュに似たイチゴ&ミントな北方系ワインの味がする。その取り澄ました、よく言えば上品な個性は、南方系ワインが必ずしも好きではない人にも受け入れられやすく、世界的に人気が高い。おしゃれなパリのビストロやワインバー的で、個人的には好きではないが、その圧倒的な平均品質の高さと一貫した個性の説得力・完成度には脱帽する。酸の伸びやかさ、タンニンの細やかさ、果実味の透明感、香りの上品さ、姿形のかわいらしさ、柔らかい厚みといった点を見れば、ピク・サン・ルーを正しく選ぶのはたやすい。

写真はおすすめのワインだ。

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□フォージェールの試飲

フランスにおけるシスト土壌ワインの代表、フォージェール。肉厚な果実味と黒っぽいアーシーでスパイシーな香りと柔らかい酸と当たりが滑らかでいて強いタンニン。そして芯にはしっかりとした岩のミネラル。明確な個性があり、ラングドックワインのポートフォリオを作る上では欠かせないワインだ。

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しかし下手をすると一本調子で下品になるし、風味が汚いワインも散見される。と言って引っ込み思案なアプローチではフォージェールらしい積極的なパワー感が前に出てこない。そこのあんばいがワイン評価の要だろう。実際のところ、試飲したサンプル数が多い割にはおすすめワインが少ない。これまた2016年の問題で、シラー主体のフォージェールにはストレスがかかりすぎたのか。粘土石灰は乾燥した年に有利、シストは多雨の年に有利なものだ。

とはいえ質感の滑らかさと樽の馴染み方は、10年前のフォージェールとは別物。はるかに上品で緻密な味わいになっている。和牛のステーキや焼肉に対し、フランスワイン中で基本的なワインのひとつがフォージェールだと思う。和牛は絶対に石灰の味がしない。ただし、シラーの比率が比較的少なく重心が真ん中から若干高めに収まるワインを選ぶならば、だ。

フォージェールは現在4割のワインがオーガニック(転換中5パーセントを含む)。これは大きな魅力であり、基本的品質の高さに結びついている。生産の80%は赤で、ロゼ17%、白3%。フォージェールの数少ない白がこってりと粘りがあり、酸が低くて、またいい。

 

□ロックブリュン村でのサン・シニャンのテイスティング・ランチ

大勢のサン・シニャン生産者が集まって、ロックブリュン村オルブ川のほとりでバーベキュー・ランチ。サン・シニャンのクリュ、ロックブリュンが生み出されるのがこの村。

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サン・シニャンは石灰、砂岩、シストの三つの基本的土壌があり、一概にどんな味かを表現出来ないアペラシオン。とはいえ何を作ってもキメが細かく、チャーミングで、スケール感やパワー感より上品なバランスを重視するかのような性格。ビストロよりレストラン向き。だからガッツリ抽出して樽を効かせると大概失敗する。それよりは安いワインの方がいい。ここでもそれを確認した。高いワインが高い料理向けなのではなく、その逆だというのがサン・シニャンの使い勝手のよさである。広大なアペラシオンのどこでも基本品質が高いワインが出来るのはすごい。

赤がいいのは当然として、サン・シニャンの白やロゼがまた素晴らしい。写真の白はカリニャン・ブランを30パーセント含むため、中心にしっかりした柱が立っていて、アルコールが高い果実主体の単純な白ではない。珍しく三つの基本土壌のブレンドで、相当複雑。せっかく三つあるのだから、それらをうまく組み合わせたワインがもっとあってもいい。ロゼはサン・シニャンのチャーミングさ、優美さが引き立つ。

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ランチで隣に座った生産者ドメーヌ・カスタンのヴァレリー・カスタンさんは「ビオディナミに関心があり、ベルトランの本を読んだ」と。私は「ならば私のことも知っているでしょう」と言うと、「おお、あなたがあの本に出てくる田中さんですか!会えて嬉しい!直接話が聞けるなんて!」。「せっかくの機会だから少しだけワインテイスティング法やサービス法を教えます」。たとえば「ワインの瓶をもって川に行き、数秒ほど瓶を流れる水に浸してきてください」。もちろん自然の川の流れの中に瓶を入れたあとの味たるや、前とは別物のおいしさ。理屈ではわかっていたが実際にやってみたのは私も初めて。うまくいってよかった。さもなければ嘘つきになってしまう。その他いろいろとお話して、納得してもらえた。ラングドックではなぜか本来のポテンシャルが表現されていないワインに多く出会う。ちょっとしたことで見違えるおいしさになるものだ。本来このワインはこの土地とこの年とこの技法ならどういう味でなければならないのか、その理想に対して現状何が欠如し逸脱しているのか、それをどうすれば是正できるのか、といった議論をする機会が少なすぎる。せっかく世界じゅうのジャーナリストが集まっているのだから、もっと積極的な意見交換会を設定すべきだ。ランチのあとは皆でサイクリングに出かけていった。私は自転車に乗れないのでひとりカフェで考えごと1時間。サイクリングする暇があるなら、具体的な議題を複数設定して皆の意見を言う会のほうがワイン生産者の役に立つし、個人的には遊びより楽しい。

 

□ラングドックの大ネゴシアンとのディナー

シャトー・ロスピタレのレストランで、GCF、カーメル&ジョセフ、エシュト&バニエール、ボンフィス、アンテッシュ、ロルジュリル、ベルトラン、ジャンジャン、ポール・マスといった大ネゴシアンが集まってのディナー。彼らのワインを一同に集めて飲む機会もなかなかないので、非常に興味深い。

ネゴシアンワインで垂直性とビビッドな張りを出すのはむずかしい。しかしベルトランのワインはちゃんと出来ていた。自画自賛で申し訳ないが、私の考えも少しは寄与している。他のネゴシアンのワインは偏見抜きにしても水平性が勝るものがほとんどだ。いかにもトレーラーで運んできてステンレスタンクでいろいろ混ぜた、という味。そして往々にして農薬の味。ベルトランの契約農家の多くはオーガニックだし、そうでなくとも平均農薬使用量は確実に少ないはずで、それが効いている。十年前なら大差はなかった。何年か前の時点でも私が「まずい!」と文句を言っていたクレマン・ド・リムーのコード・ルージュを久しぶりに飲んだ。以前とは別物。新商品、陶器瓶入りのクレーレット・デュ・ラングドック・アディサンは出色の出来。このワインの基本アイデアは私が考えたので、これまた自画自賛で申し訳ないが、会場にあったワインの中でも特においしい。リースリング・カビネット的な酸は結構病みつきになる。是非試して欲しい。

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隣にはジェラール・ベルトランが座った。「テーブルが大きいから対面の人と話をしなくてすむからいい。あれは疲れる」と。もう少しワインの説明を全員に向かってすればいいものを、ようは本質的にシャイで話下手なのだ。当初の予定にはないクロ・ドラ2014年が出された。「出すべきではなかったかな」と聞いてくるので、「そう、不必要」と答えた。宴たけなわになり皆それなりに酔いが回ってからクロ・ドラを出しても意味がない。とりわけ繊細な2014年ならば。高いワインであるという事実に喜ぶ類の人にはそもそも出すべきではないわけだし、きちんと飲ませるなら出すべき文脈を整えるべきだ。私はレストランでいい加減な相性を放置したままただ酔っぱらっている状況が嫌いなのだ。

料理は前菜にナルボンヌ産のアーティチョーク。シャトー・ロスピタレのラ・クラープ白がぴったり。これはまさに地元同士の相性。主菜のオーブラック牛のグリルにはクロ・ドラやミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール他多くのワインは合わない。それは当然で、オーブラックは火山だからだ。日本人の多くでさえラギオール、オーブラックのエリアは玄武岩や花崗岩だと知っているのに、当のシェフもソムリエもそのことの意味を理解していない。だから石灰岩ワインを合わせるとひどい味わいになり、火山岩のペズナスだけは予想どおりに美味しい。そうなると、オーブラック牛に対しては、ベルトランの一連のエステートもの高級ワインの中ではブートナックAOPしかチョイスがない。畑の地質が第三紀ミオセーンだから比較的石灰が少ない、という相対な話で、まあ確かに悪くはないが、カリニャンのゴツいタンニンがレアの肉によってさらにゴツく感じられる。さらにはブートナックは岩ワインではないから塊肉には合わない。ゆえにオーブラック牛のグリルはこのレストランのメニューに置いてはいけないというのが結論だ。ラングドックではこうした基本的ロジックさえ皆分かっていない。そして教える人がいない。

 

□フィトゥーの試飲

1948年にラングドック赤ワイン最初のアペラシオンとして認定されながら、近年のフィトゥーはスーパーマーケット用安物の印象が強く、なかなかまともに向き合ってもらえないワインだろう。アルコールが高くタンニンも強く粗野な南国地酒の代表。さらに樽が加わってえぐい。樽なしバージョンは単につまらないワイン。。。一般的にはそんな印象だろうか。

カリニャン主体(作付け面積の4割、その半分は古木)だからタンニンは強くなる。だから最近はMC法とステンレスタンク熟成によって早飲みフルーティタイプにシフトしている。それは総体的には正しいが、グラン・ヴァン産地の名声を復活させることは出来ない。2500ヘクタールの広大な産地を一括りにして方向づけるのは難しい。そこでサン・シニャンにおけるベルルーのように、フィトゥー内にクリュを設ける計画がある。個人的には最上のフィトゥーはバローロやブルネッロ的方向性を狙うべきだと思うから、最低2年の大樽熟成義務。カリニャン比率は50パーセント以上。平均樹齢は40年以上。除草剤殺虫剤の禁止。こんな感じでどうだろう。普通なら収量制限も規定されるが、現状でも20hl/ha台だから不要だ。もちろんフィトゥーを構成する村のうちのどこかだけがクリュになろうとしたら他の猛反対に合って実現不可能だから、全村に等しい権利が与えられる。つまりまずはデノミナシオンとして上級の村名付きフィトゥーをINAOに申請するのだ。それなら生産者全員にメリットがある。今でもフィトゥーはジビエ向きワインとみなされる。MC法のフルーティタイプと大樽2年熟成タイプとどちらがジビエ向きか言うまでもない。

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さてブラインドでの試飲結果は、まだまだ変革過渡期な印象。多くは粗いか樽が強いかつまらないか。その中で納得できるワインは、というかいかにもフィトゥーらしいなと思えて安心できたワインは、蓋を開ければ写真のように、日本でも馴染みの有名生産者だった。要するに慣れた味だった。これを順当な結果と言うだけでは面白くない。

 

□フィトゥー・モンターニュ、カスカテル協同組合でのフィトゥー試飲

ここでは新世代のフィトゥーに出会えた。ドメーヌ・ガビナート・フレスケなど初ヴィンテージが2018年でまだワインを売っていない。ここはポテンシャルがある。訪問してみて欲しい。クリアでいて凝縮度が高い、おすすめワインが写真の三本。彼らは皆オーガニックにするつもり。

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フィトゥー・モンターニュ地区にあるカスカテル村の丘は写真のようなシスト。山の上からの写真は、手前のほうの畑がカスカテル、向こうがフィトゥー村。山を越えると海に近い粘土石灰のフィトゥー・マリティムがある。モンターニュとマリティムは連続していないし、土壌も違う。なぜ一緒にフィトゥーになったのかは分からないそうだ。

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カスカテル協同組合の売店に入ると、ミュスカ・ド・リヴザルトとリヴザルト・ランシオを見つけた。カスカテルはフィトゥー、リヴザルト、コルビエールが重なっている村だ。このエリアのシストのミュスカ・ド・リヴザルトは緊密なミネラル感があり、引き締まった味で素晴らしい。35パーセントのミュスカ・アレクサンドリーが実体感を与えている。ペルピニャン近くのミュスカ・ド・リヴザルトとは似ても似つかない。ランシオは珍しくグルナッシュ・グリ単一。この品種ならではの酸味と芯の強さがいい。余韻は大変に長い。ワインメーカー自身のお気に入りらしい。これを気に入らなかったら何を気に入るのかというぐらいの素晴らしさ。それでもランシオは売れないから、2011年で生産を一時ストップ。グルナッシュ・グリはバッグ・イン・ボックスのグリワインに全量回される。あと3年は売るワインがあるとはいえ、そのあとどうするのか。歴史を終わらせてはいけない。フィトゥーは買わずにこの二本を買った。なぜならスタイルが確立して存在感があるからだ。対してフィトゥーは、ポテンシャルはあるのにいまだ迷っている。

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□フロンティニャン

亜硫酸無添加のフロンティニャン。もともと保存性を高めるためのミュータージュなのだから、べつに亜硫酸なしでも問題ないと発見。柔らかで飲みやすい。フロンティニャンを飲むたびにここはグラン・クリュだと思う。風格が違う、ミネラルの安定感が違う。だから亜硫酸無添加でもしっかりフロンティニャンの味がする。こうした方向性のワインがもっと増えて欲しい。

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好きなラングドックワインは、と尋ねられたら、「フロンティニャン、リヴザルト・ランシオ、アディサン」と答えることが多い。たぶん世界でひとりだけの嗜好か。

 

□ブランケット・メトード・アンセストラル

なぜあの場所でシュナン、ピノ・ノワール、シャルドネを植えねばならないか、いまだにわからないし、たぶん一生賛成はしないだろう、リムーの泡。ラングドックで泡を作るなら、テレットやピクプールやブールブーランクをどこか標高の高いところに植えたらいいと思う。だからクレマン・ド・リムーはいくら飲んでも心底推薦したいものには出会えない。申し訳ないが、おいしいまずいというより、それがラングドックの泡というジャンルを一手に引き受けている状況、それがラングドックらしさだとみなされる認識、シャンパーニュと同じブドウを用いてしまう存在意義に疑問がある。

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しかしモーザックのアンセストラルは別だ。無理して早摘みした味ではない、必然性を感じる説得力のある味がする。いろいろ飲んでベストはこの写真のワイン。エネルギー感に余裕があり、質感に弾力性と厚みがあって、太くゆったりとした余韻に続く。ただアンセストラルは甘いので、デザートワインだ。もともとりんごの味がするし、順当にりんごのデザートに向く。

 

□ブートナックのセミナー

ラングドックのクリュのひとつ、ブートナック。カリニャンを30パーセントから80パーセント使用しなければならない、カリニャン主体のワイン。カリニャンは熟度が不足すると粗いタンニンが目立ち、香りも青いが、ブートナックでは極めて滑らかなタンニンとなり、なおかつ十分なボディも得られる。そしてカリニャンならではの垂直性と酸もあるから、IGPの単一品種ワイン(ブートナックのアペラシオンはブレンドが必須)でもバランスがいい。表土を覆う珪岩の砂利のおかげでもあるし、樹齢の高さゆえでもある。またブートナックは、1937年にモンペリエ大学フランジー教授によって発明されたMC法をいち早く採用し、カリニャンに関しては多くが全房発酵。これもユニークな特徴で、 ブートナックの個性の一因となっている。

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もともとラングドックに多く植えられていたカリニャンはフィロキセラ以降に改植されたが、ブートナックでは生き残り、今でも自根のブドウが見られる。ブートナックの深々とした味の理由のひとつは自根にある。自根ファンなら、フランスではブートナックに注目すべき。残念ながらもうそろそろ寿命が尽きるだろうから、その前に買って欲しい。

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ブートナックの地質年代はミオセーンであり、礫岩に石灰が含まれるとはいえ味には石灰を感じないし、岩っぽい畑ではないから芯があまりなく柔らかい。地質地図上で、例えばヴィルマジューの位置を見て欲しい。ジェラール・ベルトランの実家ヴィルマジューはローマ時代から続くブートナック最古のエステートであり、このアペラシオンの基準となるものだ。ブートナックはカリニャンのイメージからゴツいワインだと思われがちだが、事実は逆で、喩えて言うなら和牛のシチュー向けのワインである。

現時点での名前はコルビエール・ブートナックだが、今年の末にはコルビエールの名前が落ちてブートナックになるらしい。コルビエールとはずいぶんと違うリッチな味だし、コルビエールの決して高級とは言えないイメージからしても、コルビエールの延長線上にブートナックがあると消費者に思われない方がいい。

 

□ブートナックの試飲

セミナーで供されたワイン以外で、ブラインドテイスティングの結果のおすすめは写真のもの。甘く強くムッチリしつつ堅牢。ブートナックもまたグラン・クリュらしい風格がある。

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□ラ・リヴィニエールの試飲

圧巻のエネルギー感。顕著な垂直性。長い余韻。バランスがよいから単体で飲んでいるとそこまで力強いとは思えないが、他と比較すると桁はずれ。まぎれもなくグラン・クリュ。ラ・リヴィニエールらしい、とりわけ風格のあるワインは写真のもの。

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このアペラシオンのキャラクターはどれも一貫している、つまりアペラシオンとしてきちんと成立している。ミネルヴォワの中にありながらミネルヴォワとはやはり違う。最初からそうだったわけではない。十年前はもっとバラつきがあった。生産者間のコミュニケーションと各人の努力なしにはこうならない。ラ・リヴィニエールは尊敬に値する産地だ。現状のアペラシオン名、ミネラルヴォワ・ラ・リヴィニエールは年末にはただのラ・リヴィニエールになる予定。着実に、あるべき方向へと進んでいる。

しかしラ・リヴィニエールの名前と質と味の連関が消費者に理解されていなければ意味がない。それ以前にプロが理解していなければ消費者に伝えられない。日本ではまだまだ。時間がかかる。

 

□コルビエール

コルビエールは巨大なラングドックの中でも最も巨大なアペラシオンで、面積は1万ヘクタールを超える。これではコルビエールらしさを抽出するのは難しい。それでもひとつ共通した感想がある。コルビエールの赤は繊細すぎて、頼りなく、好きではない、ということ。なぜか日本ではコルビエールの赤をよく見かけるが、この線の細さ、暗さ、声の小ささがいいと思う人が多いのか。ロゼも同じ印象だから、品種(シラー、カリニャン、グルナッシュがほぼ同じ栽培面積)とテロワールの相性としか思えない。自分にとっては、全体としてコルビエールは白の産地だ。超少数意見なのは知っているが、テイスティングしてみた結果がそうだ。甘くてチャーミングでポジティブ。赤より大きく余韻が長い。飲んでいて気持ち良い。コルビエールの白はこんなに美味しいワインだったかと驚かされた。ビオディナミのラ・バロンヌは別格的に風格があり、チャーミングという言葉では片付かないシリアスさも備える。オーガニック栽培面積は2017年の時点で1245ヘクタール、転換中が407ヘクタール。分母が大きいだけにこの数字も大きい。これはいいことだ。

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コルビエールは全体に乾燥した土地で、異常な大雨だった去年を除いて近年では300ミリしか雨が降らない。粘土が多いためにそれでもなんとかなってはいるらしいが、さすがにINAOもブドウに過大な渇水ストレスがあると証明出来る時に限って灌漑を許可。これからコルビエールはどうなるのか。

 

□■コルビエール・マリティムとフィトゥー・マリティムを船上で飲む

グリュイサン(ラ・クラープ)の港からルカート(フィトゥー)の港までコルビエール・マリティムの生産者と一緒にカタルーニャ方向にクルージングしながら、ワインをテイスティング。

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▲海の向こうにスペイン国境ピレネー山脈、そしてその端にバニュルスの岬が見える。

コルビエール・マリティムはフィトゥー・マリティムと重複しているエリア。つまりフィトゥー生産者が造る白はコルビエールになる。フィトゥーの素晴らしいテロワールは白を造っても明白で、しかし値段は安く、狙い目だ。浜町などという目一杯海な名前の町に住む私には、海沿い産地のミネラルに親近感がある。基本的に海洋民族である日本人ならそれが普通だろう。

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ランチは膨大な数の生牡蠣、ムール貝、イカ、鴨の心臓。今日の牡蠣は石灰の味がする。一番合ったのはアベイ・サント・ウジェーヌのマカブー。いかにもコルビエール・マリティムな穏やかさと明るさを備えてまとまりがいいのは、シャトー・モンファン。この中庸さは使える。既に日本でも名高いビオディナミ生産者マス・デ・カプリスの白はマカブーとグルナッシュをコンクリートエッグで混醸。さすがに別次元の立体感と躍動感。柔らかく腰が座っていてイカにぴったりだ。

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フィトゥー・マリティムは昨日のフィトゥー・モンターニュとは打って変わってしなやかな果実味と滑らかなタンニン。マス・デ・カプリスのフィトゥーはシストと石灰が接するフィトゥー村からなので、シストと石灰の2種類のワインがある。シストは重心が高く硬質でスパイシー。石灰は重心が低くソフトでフルーティ。前者は鴨の心臓にはぴったりで、後者は赤だがイカと合う。シャトー・レ・フェナルは両者の土壌をブレンドして、見事な垂直性を形づくる。気負ったところのない滑らかで優しいワイン。邪念なし。そして考えられないほど安い。以前から好きだったがさらに美味しくなっている。こういうワインが日本でも普通に売っていて欲しい。興味深いのはシャン・デ・スールの亜硫酸無添加フィトゥー。クリーンな味で、フワンと広がり、チャーミング。無添加だと確かに海のワインなのだとよく分かる。極少量生産で高価。シャン・デ・スールは白に関してはオーガニック。赤は古木のゴブレなのでオーガニック栽培ができないとか。

それにしても、沖合で飲むワインの圧倒的な美味しさといったら!海風に吹かれて心地よいからではない。乗り物酔いする自分には船は地獄だ。それでも同じワインなのに、陸上と海上では力強さ、生命感が違うと分かる。クルージング出発前と沖合の30分の時間差で飲んで記憶内比較ができないわけがない。船の上でワインをテイスティングしたのは初めての経験で、未知の世界を見て衝撃を受けた。つまり、携帯やらWi-Fiやらワインに愛情のない無関係な人たちの悪い気やらの影響が海によって遮断されていれば、どれだけワインは本来のポテンシャルを発揮するか、ということ。ないし、海の揺れが特別な効果を与えるということか。

地中海は穏やか。レバノンやイスラエル、もちろんギリシャやイタリアから、古代の帆船でも難なくフランスに渡航できたことだろう。ワインが広まらなかったはずもなく、またローマ帝国が拡大しなかったわけもない。こうしてみると、日本の海は荒い。荒くなかったら、日本はとっくに他国の一部になっていたか、戦争で荒廃したか、少なくとも他の文化になっていただろう。白村江の戦いの後に追撃がなく、弘安の役で諦めてくれて良かった。

 

□ルカートで生牡蠣とミュスカ

洋上テイスティングの終着点、フィトゥー・マリティムのひとつの村、ルカートで、地元のミュスカと生牡蠣、生ムール貝、生アサリを試す。ルカートの牡蠣は石灰の味がする。美はふっくらして、味の構成は引き締まり、ものすごく美味しい。これはテロワール・エ・ミレジムのイベントのあとに訪れた場所だが、話の流れから、ここに記す。

 

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ミュスカ・セックは生の貝に最も合うワインだ。なぜならは全品種の中で最もキメが細かくツルツルしているのがミュスカだからだ。貝はすべてツルツルしている。ミュスカは香りばかりに注目されるが、質感にも着目しないといけない。しかしミュスカならなんでもいいわけではない。ルカートは海に囲まれた畑であり、味にヨードっぽさが加わり、また気温差が少ないため、香りが華美にならないのが逆にいい。さらにはルカートの土壌は石灰ね丸い砂利を含む、つまり、土っぽいのであって、その柔らかさが魚貝向けなのだ。  

ミュスカ=貝、という単純な覚え方をしてはいけない。あくまで石灰な貝とルカートのミュスカ・セックが合うという話だ。貝に石灰の味がしないなら、ピクプール・ド・ピネのエリアに植えられたミュスカ・セック、ないしはリュネルのミュスカ・セックといった選択肢が考えられる。

料理向けのワインとしてのミュスカの可能性を深く考えることができる機会だった。しかしこれらのミュスカは日本に最も入ってこない類のワインだ。論理的に考えれば、生の魚貝の宝庫たる日本には非石灰のミュスカが絶対に必要なのにもかかわらず。なぜそうなるかは火を見るより明らか。日本では香りでワインを判断する比重が大きいからだ。ワインは第一義的には香りで料理と合わせるものではない。そんな粗暴な捉え方では一生ミュスカは浮かばれない。

 

 

□ミュスカ・ド・サンジャン・ド・ミネルヴォワの試飲

スッキリ冷たい山のミュスカが欲しいなら、サンジャン・ド・ミネルヴォワ。非常に石灰っぽい味。タイトで固い。単体で飲むと、たぶん全ミュスカ酒精強化ワイン中最も美味しいと思う人が多いはずだが、デザートにもフォワグラにも難しい。甘口ワインを合わせる食べ物はカントゥッチ等除いて大半は柔らかい。ピスタチオの食感を生かしたレモン風味の何か、ならどうか。夏のデザートにソーテルヌやSGNはしつこいだろうから、概してラングドックのVDNミュスカがいいと思う。

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□ナルボンヌのワインレストラン、ガイアでの、ミネルヴォワ試飲会

先日の日本でのセミナーでは私が講師を務めた、ミネルヴォワ。その時も言ったように、ミネルヴォワは内向的な凝縮感と滑らかさと熟度と堅牢さが特徴。典型的地中海型のんびりおおらかタイプではないから、パーティー用というより、真面目なガストロミー用。生産者たちはラフな南国イメージを作り上げているが、それでは誤解される。クリュであるラ・リヴィニエールを見てほしい。恐ろしくシリアスで高貴なワインではないか。

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コルビエールと同じ、いやそれ以上に、赤ばかり。しかしミネルヴォワの白は高いポテンシャルがあり、緻密でミネラリー。Caihol Gautrand の白Villa Luciaはこの試飲会での白眉で、テレットを理想的な形で使用。私が頭で考えていた理想のラングドック・ブレンドの形に近い。よくあるグルナッシュ、ルーサンヌ、ヴィオニエ、ヴェルメンティーノのブレンドでは陰陽バランスが取れないのだ、と、これを飲めば誰もが理解出来る。これからオーガニック認証を取るし、さらに期待していい生産者。亜硫酸無添加の赤もセンスの良さを感じる。

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 バルービオのミュスカ・ド・サンジャン・ド・ミネルヴォワは常に安心の出来。今回出されていたワインは、ミュスカを遅く摘んで、ミュータージュを極小に抑えたVDN。酸は低くなるが、より粘りが出て味が濃く、リッチなデザートやチーズ向け。これは役に立つ試みだ。

ドメーヌ・カンタローズは広い畑を所有しているが、大半のブドウは協同組合に売って安定した収入を得、良いブドウだけで自分の好きなワインを作るとか。うらやましい限り。だからワインには算盤が感じられずに飲んでいて気が楽だ。「ステンレスタンクがあなたの望むことの足を引っ張っている。ファラデーケージの問題にはちゃんと対処しないといけない」と言うと、「だからこれから地元陶器の甕にする」と。世の中良い方向のワインが増えてきて嬉しい。そしてここも近いうちにオーガニックになるはずだ。

 

□グリュイサンの海辺でのラ・クラープ試飲ディナー

ラ・クラープの南、グリュイサンの海辺にある魚料理店、La Boile Blancheでの、ラ・クラープのテイスティング。料理は写真のような魚、エビ、貝の串焼き。いかにも海辺。

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ラ・クラープは紛れもなくグラン・クリュ。赤はバンドールと並ぶレベルの高品質なムールヴェードルを軸とした、極めて高密度なミネラルとラングドックでたぶん最もシルキー(ベルベッティではなく)なタンニンを備えるワイン。海側はよりゆったり。山側はよりかっちり。白はブールブーランク主体。こちらは赤以上に海側畑と山側畑で性格が異なり、前者はトロピカルな厚みのある果実感とどっしりした安定感、後者はくっきりした緊張感のある冷涼さが特徴となるが、どちらも余韻が極めて長い。

個人的には海側の白が一番興味深い。なぜならフランス白ワインの中で、魚に合うグラン・ヴァンは本当に少ないからだ。ラングドック委員会のベルナールさんに、「フランスでは一般的に魚にはいったい何を合わさるのか」と聞くと、「シャブリかミュスカデ。最近ではピクプール・ド・ピネも人気。酸の高いワインが合うとされている」。酸で魚の味を流そうとするのだろう。魚が好きではない国民なのか。そもそもシャブリをはじめとするブルゴーニュは典型的な内陸ワインだから、新潟のノドグロに岐阜の酒を合わせるようなものだ。ミュスカデはクリソン等いくつかのクリュを除いてリッチな高級料理に対しては厚みや余韻や風味の複雑さに欠けるものが多く、さらに質感が固くて酸が強すぎ、魚にはなかなか合わない。ボルドーの白はこれまた固くて酸っぱいものが多い。地中海に魚は沢山いるのに、地中海の白はどこにあるのか?プロヴァンスのカシーはソービニヨンやコロンパールが入っているから案外北方系の味で、必ずしも地中海の味ではない。他のプロヴァンスはロゼばかりだ。では海沿いの白ワインは、と言えば、誰しもピクプール・ド・ピネと考える。実際に人気だ。しかし、よいワインとはいえラ・クラープと並び立つほどのグラン・ヴァンではない。

こうして見ると、フランスは赤ワインばかりでまともな白ワインが少なすぎる。だから地中海に面した傑出したクリュであるラ・クラープの海側白ワインは貴重な存在なのだ。重心が低くリッチで酸が低く大きく柔らかく、しかし緩さが皆無で構造は明確。魚とワインの相性をまともに考えようと思っているフランス料理店は(日本もフランスも)、これを置くべきだ。

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いかにも海側白らしい味は、Chateau Marimorieres。山側白らしいのはChateau Ricardelle。そしてChateau L'Hospitaletはビオディナミだけあってさすがのダイナミズム。一緒に食事したDomaine Ferri Armaud も世代交代してこれから伸びそうだ。日本には輸出していないが日本が好きで、今年の春はもう花見をしながら、去年の夏には富士山頂上で自分のワインを飲んだとか。今年の冬も行きたいと言って、隣の母親にたしなめられていた。日本に行く前は寿司とか日本酒とかまずいと思っていたそうだが、本物を経験して衝撃を受けたとか。春には神戸にも行って神戸牛に魅了され、いったいフランスにある日本食はなんなんだ、と。日本に観光に来てもらうのはいいことだ。来れば多くの人が日本ファンになる。日本のフランス料理はフランスの日本料理よりはいいだろう?と聞くと、ノーコメント。うーむ。

海の家食堂でのテイスティングは楽しいが、シンプルな料理ではワインの前に跡形もなくなる。ラ・クラープが相応しいのは複雑且つ良質な料理だ。世界じゅうのワインファンがそういった認識を共有するまでは、まだまだ努力しなければならない。

 

 

□ピク・サン・ルー訪問

久しぶりのピク・サン・ルー。畑の向こうに見える左の山がピク・サン・ルー、右がロルテュス山。畑には白亜紀の白い石灰の礫が積もり、土も白っぽい。場所によっては黄色いジュラ紀の石灰の礫。多くのワインは両者の土壌から造られるとのこと。こうした石灰の斜面のみがピク・サン・ルーAOPで、斜面下のマルヌ土壌はIGP。こんなに白い土なら白ワインも美味しいかと思いきや、小さくて短い。分からないものだ。

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ピク・サン・ルーは1956年の霜でいったん全滅している。その後、どの品種を植えるべきかを模索して、現在のようなシラー主体(規定では50パーセント以上、実際のワインはもっと多い)にグルナッシュを混ぜたスタイルが70年代にできあがり、80年代に20軒のワイナリーが自社瓶詰めを始めて評価を得た。産地名付きのラングドックAOCに認められたのは1994年。若い産地である。

降水量はラングドックでは、いやフランス全体を見ても例外的に多く、1000ミリに達する。しかし内陸にあって山に囲まれているから夏の日中の気温は40度、夜は15度と激しい気温差。これがしっとり感、熟度、高い酸をもたらし、シラーにとって最適なテロワールとなる。十年以上熟成させた冷涼年(例えば2008年)のピク・サン・ルーはまるでブルゴーニュであり、そこが人気の理由だろう。好き嫌いは別にして、赤ワインの質は見事の一言だ。オーガニック比率は四割を超える。それも平均品質を高めている。

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好きな生産者は写真のMas Peyrolle。自分で理科系と言うし、線がくっきりして真面目で安定した味がする。ピク・サン・ルーはその方向でいい。赤も当然良い出来だが、ここのロゼが例外的に美味しい。多くのプロヴァンス的な実体感のない酸っぱいピンクワインが嫌いだそうで、話が合う。きちんと重心が低く、適度な厚みと粘りがある。しかしピク・サン・ルーらしさは彼の赤ワインのほうに遥かに感じられる。他のロゼは知る限りすべて美味しくない。

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ピク・サン・ルーは繊細さや酸を失っては意味がない。あくまで北方的な細やかな山ワインとして評価しないといけない。以前は無理に強い味にしたものもあったが、白い土のワインは白い土らしく造ふべし、と皆理解したようだ。ゆえに牛肉ステーキには合わず、基本は鶏肉やラムだろう。それなのにランチには牛肉ランプのステーキが出てきた。もちろんどのワインともまったく合わなかった。

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パリでも地元でも、ピク・サン・ルーをカジュアルな文脈に押し込めるきらいがある。それこそ北方民族による地中海文化の低位固定化であり、ピク・サン・ルーのテロワールが備える高貴さに光をあてる努力が必要だ。それはピク・サン・ルーに限ったことではないが。日本での使い方としては、通常ならブルゴーニュの上質なピノ・ノワールがぴったりな鴨や鳥系ジビエと合わせるのが分かりやすいだろう。本当ならブルゴーニュ一級が合うが値段的にあり得ないという状況は多い。そこで村名や地域名になってはまったく意味をなさない。その値段なら、十年熟成させたピク・サン・ルーがお勧めだ。

 

□まとめとして

飲むたびに品質向上が顕著だと分かる、まだまだ伸びしろのある産地、ラングドック。しかし技術が表に出ることは少ない。それを上回る自然の力強さこそラングドックの魅力だからだ。ブドウが本来育つべき場所に育っているかのような安定感を欲するなら、人為優勢の産地のワインでは物足りなくなるか、落ち着かなくなるものだ。ワインから力をもらいたいなら、フランスにおいてまっさきに考慮すべき産地はラングドックである。フランスワインの新世界とのキャッチフレーズだが、私はそうは思っていない。歴史的事実として、フランスワインにおける初源の地、むしろフランスワインの中の旧世界がラングドックなのであり、その歴史に支えられた完成度という側面を忘れてはいけない。

ラングドックのテロワール別AOPは基本どれも1000円台のワインではなく、3000円台超のワインだ。我々はAOP、IGP、ペイドックのヒエラルキーとそれぞれの役割に対してもっと意識的にならねばならない。単純化するなら、ペイドックは高CPヴァラエタルワインの産地としてのラングドックに対応し、IGPはテロワールの魅力を創造的に表現した楽しいワイン産地としてのラングドックに対応する。これらふたつは確かに“新世界”と呼んでもおかしくはない。しかしAOPは違う。自然・歴史・伝統・文化が一体となったものがAOPであり、知的感性的両側面での真摯な取り組みを消費者側にも要請するワインである。ラングドックのテロワール別AOP(つまりジェネリックなラングドックAOPやコトー・デュ・ラングドックAOPを除く)はそれぞれ確たる個性をもっている。その個性を探求する努力に対して、ラングドックは必ずや豊かな見返りを用意している。それが分かれば、いまだラングドックは恐ろしく安い。しかしAOP、IGP、ペイドックの役割分担を理解せず、ただひとつのラングドックとしてしか把握できないと、この広大な産地のいったい何のワインをなんのために買えばいいのかも見えず、結局は安いワインを価格で選ぶことになる。それが長らく続いて改善の兆しがなかなか見えない日本の状況である。

ゆえに我々はまず、まさに冒頭に記したように、それぞれのAOPの本質を、その判断の基準点を見定める努力をまずしなければならない。その理解のあとに、本質に沿ったワインの使用(料理との相性等)を創造的に行うことで、ワイン消費が正しいアール・ド・ヴィーヴルとなる。道はまだ遠いが、行くべき方向は明確だ。

 

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