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2019.06.25

南仏魚料理とラングドック白ワインの講座

 普通の南仏料理をアレンジなく作り、ラングドックの白ワインと合わせて楽しみ、ラングドックの白についてしっかり学ぶ講座を開催した。会場は恒例、人形町の『サン・ピエール』。

 

ラングドックのナルボンヌ・プラージュやグリュイサンやルカートやサント・マリー・ド・ラ・メールといった海辺の町で、ゆるーい感じの普通のレストランに入って普通にメニューに並んでいるような料理。ある意味、基本中の基本のフランス料理であるが、しかしそういったフランス料理は日本ではなかなか食べられない。日本ではフランス料理=おしゃれな料理、シェフの芸術的創作力の発露としての料理、だからだし、もうひとつの決定的な理由は、普通の料理は創作料理より往々にして食材原価がかかるにもかかわらず、それに見合った売価設定ができないからだ。

ラングドックのワインは当然のことながら普通のラングドック料理を無意識にも前提としているのであって、その意味ではイタリアと同じで、ローカルな食文化の中での自動的な料理とワインの関係性が成立している。それが地中海食文化というものだろう。だからラングドックのワインを理解しようとしたら、そういった普通の料理についての理解は不可欠なのだ。とすれば、ほぼ唯一の方法としては、レストランを借り切り、レシピを指示し、特別に料理を作ってもらう、ないし自分で料理するしかない。

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メニューとワインは以下のとおり。

  1. 岩手産生牡蠣とルカートのミュスカ・セック。これは岩手産しかありえない。なぜなら岩手の牡蠣は石灰の味がするからだ。合わせるワインは、ルカートの普通の店で置いてあるようなルカートの協同組合のミュスカ・セックであり、ルカートは石灰質土壌だからである。牡蠣のミネラル感は一様ではない。おおよその牡蠣は非石灰の味がするから、実はヨーロッパの多くのワインは合わない。エタン・ド・トーの牡蠣とピクプール・ド・ピネが合うなどと言っている人がいるが、それは宣伝文句であって事実ではないことぐらい、言っている当人でさえ自覚しているはずだ。ラングドックの牡蠣小屋に行けばミュスカ・セックは基本のグラスワイン。ミュスカは全ワイン中もっともキメが細かくツルっとしている。生の貝はすべてツルっとしている。

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  2. 広島産ムール貝のプロヴァンス風とピクプール・ド・ピネ。広島らしいたおやかな優しい味のムール貝に、やわらかい味のピクプール。ピクプール・ド・ピネは、ミュスカデと同じく、高級なものは酸っぱくも薄くもない。ミュスカと比べて質感は粒つぶしているから、火を加えてソースのある料理のほうが生より合う。生にはミュスカ・セック以上のワインはない。広島産がベストかどうかは分からない。瀬戸内のムール貝は旬なはずだが、どうも貝毒が蔓延していて入荷が限られているようだと聞いた。それでも料理によってワインとの相性は調整できる。

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  3. 鱚のフライとソミエール村の白&サンシニャン下部の砂地のソーヴィニヨン・ブラン。小さい魚のフライ、つまり水分を抜いて真ん中にしっかりした味が集まるような料理には、冷涼かつタイトなソミエールや、ソーヴィニヨン・ブランの個性が合う。ソミエールは、以前にもお話したように、コトー・デュ・ラングドック・ソミエールAOPと呼べる赤より、ただの広域ラングドックAOPにしかならない白のほうが、土地の特徴を生かせると思う。

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  4. イカのペルシヤードとミネルヴォワ。イカといえばパセリとニンニクとオリーヴオイルで焼いたペルシヤードが基本。今回はバライカを使った。これは強火でソテーすると硬くなるので、弱火でじっくりと火を通すのが重要。イカは重心が低いので、ヴェルメンティーノのように重心が低いブドウ品種を主体としたワインを選ぶ。

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  5. 鱸のハーブローストとラ・クラープ。低温でじっくり調理し、柔らかく仕上げた鱸に、厚み、スケール感、長い余韻をもつラ・クラープ。ラングドックの白ワインの中で最高峰といえるクリュ、特にメインとなる魚料理に対する最上のワインは、ラ・クラープだろう。ブールブーランを主体とするワインはラ・クラープのみ。他産地ではこの品種は酸やミネラル感を補う役割だが、ここでは完熟してボリューム感が表現される。

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  6. イチジクのファーブルトン、ベルガモット・クリーム添えとカスカテル協同組合のミュスカ・ド・リヴザルトここではシスト土壌のカスカテルの甘口ミュスカ。密度は高いがソフトで酸がやさしい。普通に日本の食材でデザートを作ったら石灰の味はしない。ミュスカ・ド・リヴザルトならばいいわけではなく、フィトゥー・モンターニュのエリアのシストの場所にもっと注目したい。協同組合のワインのよい側面が出て、妙なりきみがなく、濃すぎない、ゆえに胃もたれしない、いいデザートワインだ。

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 ラングドックのAOPIGPワインのうち白ワインの生産比率は一割のみだ。ラングドック=赤ワイン、と思うのが普通。しかしラングドックは地中海に沿った産地であり、目の前には豊富な魚介類がある。魚料理に対する最適なワインとして、ラングドックの朗らかでおだやかで酸が低く、しかしミネラル感がしっかりとあるラングドックの白を正当に評価すべきだ。今回の講座にご参加された方は、ラングドックの白がどれほど役に立つワインなのかご理解いただけたことと思う。

 ラングドックは広大な産地だからよく分からないといわれる。しかしそのAOP23しかない。ロワールで69、ブルゴーニュで100だ。ブルゴーニュのアペラシオンを熟知している日本人にとって、23ぐらいなんでもないはずだ。そこをクリアーしないと、いつまでたってもラングドックは安い大量生産単一品種ワインとしてしか見えてこない。それでは誰も得をしない。

 こうした機会を積み重ねていくことで、料理とワインの相性がだんだんと理解されてくる。今回のような簡単な料理なら、私でも、フライパンの温度はこう、イカはこのぐらいの幅で切れ、このハーブをこのぐらいこのタイミングで入れろ、と、ワインに合わせて指示はできるし、料理を作ることもできる。ワインの味は変わらないのだから、調整は料理で行うしかないものだが、そのためにはキッチンに的確に指示できる料理の知識と技術が相当必要。こんな素人芸でさえ四苦八苦するのだから、高級レストランのソムリエはどうすれば要求されるレベルに到達できるのだろう。常識的に考えて、結果を最大限にするための方策はひとつしかない。それは、ベーシックなメニューと限定された産地のワインの組み合わせに絞って精度を増す、ということだ。合わない料理とワインを出すのは自然への冒涜、生産者への冒涜以外なにものでもない。だからラングドック魚料理とラングドックワインの店、みたいなフランス料理店がもっと増えてほしい。日替わりの創作料理にワインを合わせるなど、一万人にひとりの超絶的天才だけができることだ。私には無理。それだけは知っている。

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