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2019.09.28

バロッサの講座

有名な産地ほど誤解されているというのが日本の常。オーストラリアで最も有名なバロッサなど誤解の端的な例だろう。プロでさえ、がっつりした塊肉のグリルや甘辛いバーベキューを見ると条件反射的に、「樽が効いたパワフルで逞しいバロッサのシラーズを合わせたい」などと言う。実際にいろいろ試したことがあるのか、その上でバロッサと言っているのか、と思う。バロッサの中のバロッサ・ヴァレーは土ワインだから塊肉には合わない。バロッサの中のイーデン・ヴァレーは岩ワインだが、標高が高く繊細冷涼で、牛肉バーベキューとは程遠い。いずれにせよ、高密度であってもしなやかソフト細やかで、世間のイメージとは違う。そしてシラーズそのものがタンニンが細やかで繊細なブドウ品種だ。

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それを体感してもらうために、ちらし寿司を出した。ブラインドで出したワインは、ジェイコブス・クリークのダブルバレル・シラーズ。オーク樽熟成のあとさらにウイスキー樽で熟成させたワイン。ハイクラスワインファンと呼ばれる人なら絶対に買わない類のワイン。さらにはそれを寿司に合わせて美味しかったなどと言えば、彼らからは嘲笑される。しかし、美味しい。事実は事実。寿司に樽要素との接点はさすがにない(そもそも樽は予想と異なり品よく収まっている)が、それ以外の要素はぴったり。バロッサのシラーズはがっつりバーベキューとは逆の性格なのだと理解していただけた。そして近所のスーパーで買ってきた安価なワインでもバロッサはバロッサ、基礎的品質レベルが高いということも。

イーデン・ヴァレーの引き締まった構造とミネラル感と冷涼風味は見事。お出ししたシラーズもカベルネもビオディナミだからなおさら素晴らしい。シラーズは最低のヴィンテージとして知られる2011年だが、私はむしろ最高のヴィンテージだと思う。低温多雨ゆえのスッキリしっとり感がいい。もともと年間降水量が700ミリ以上あるのだからしっとり感が特徴の産地。しかし土壌の保水性は低く、凝縮度は保たれる。その特徴がよく分かる。アルコール度数が12しかなかった1970年代のコート・ロティの味を憶えているなら、2011年のイーデン・ヴァレーに懐かしささえ感じるだろうし、本来はシラーはこういうものだと思うだろう。

ご参加の皆さんのお目当はバロッサ・ヴァレー、Vine Valeエリアのセミヨン。検索しても出てこないレア中のレア。これは1870年代に植えられたバロッサ最古の古木セミヨン。フィロキセラ前のセミヨンの、今のボルドーのセミヨンとは次元が違って滋味深い、胸に染み入る静かなエネルギー。信じがたいほどの下方垂直性。不思議なことに、レバノンのオベイデ品種にも似る。しかし作られたのは多分このヴィンテージだけ、収穫後に引き抜かれて今はもうない。今になってすごいすごいと言ってもなくなったものはない。世の中、誰もセミヨンに興味がなく、華やかでメリハリの効いて酸がシャープなソーヴィニヨンだけを買うから、そしてバロッサに勝手なイメージを持って実態を見ないから、このようなバロッサの歴史の証人、国宝級ブドウが売り先なく引き抜かれてしまうのだ。ご参加の方々皆さんこのセミヨンが欲しいと言われるので(二度とないのだから!)、オーストラリアから取り寄せることにした。あればいいのだが、、。

最後はバロッサの伝統、酒精強化ワイン。1860年代以降、バロッサはポートタイプのワイン産地であり、辛口生産が復活したのは1947年。知る人ぞ知るワイン(しかしオーストラリアワインファンでこれを知らねばモグリ)だが、写真のロックフォードのトーニーは本当にすごい。気品があり、ナチュラルで、バランスが完璧で、飲んでいることを忘れるほどだ!

バロッサは圧倒的に素晴らしい産地。安くても美味しく、高いものはひたすらすごい。しかしバロッサ・ヴァレーとイーデン・ヴァレーはしっかり使い分ける。それは確実にご理解いただけたはずだ。

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