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2019.09.13

ワイン・イン・スタイルの試飲会

六本木のリッツ・カールトンで行われた、カリフォルニアワインの大インポーター、ワイン・イン・スタイルの試飲会。入口でくじ引きがあり、当たると、日本の富裕ワインファンのあいだの定番ワイン、かの有名なハンドレッド・エーカーがテイスティング出来る。一本9万円と、普通なら別の星の話。運良く当たり、2016年のKyle Morgan を初めて飲んだ。

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極めて滑らかなタンニンと低い酸。補酸しないポリシーは素晴らしい。徹底して磨かれた質感と緻密な果実味がいかにも現代ナパのカルトワイン。もちろん悪いワインではないが、水平的、重心が上、ミネラル感不足、そしてビビッド感不足に立体感不足。どこを重視してワインを造っているのかは、消費者や、消費者を扇動する100点をこのワインに与える評論家が何を重視しているかに依る。そのポイントは私が重視するものとは確実にずれている。彼らにとって一番大事なのは質感の滑らかさ、クリーミーさ、リッチさ、エッジのなさなのだろう。それがナパ・ヴァレーのカベルネ・ソーヴィニヨンに求めるべきことなのか。皆がそうだと言うならそうなのだろうが、私は違う。ジョン・ダニエルが作っていた昔のイングルヌックやパリ・テイスティングで一位になった当時のスタグス・リープがどれほど躍動的でどれほど自然な味で、垂直的かつ下半身の支えがしっかりしていたことか!それと比べたらハンドレッド・エーカーでさえ、現代最高と皆がひれ伏すこのワインでさえ、格が違うとしか言えない。カイリー・モーガン畑はほぼ平地の粘土質土壌に火山性の礫が混じる。粘土質土壌のカベルネらしい、といえばその通り。水分ストレスの少ない味がするしかし粘土なのに下半身が弱いのはどういうことか。オーガニックでもなければ自根でもなければ無灌漑でもないこの畑から傑出したミネラル感や構造が得られるわけがないということか。

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世間ではペトリュース的と評されているようだ。まあ、イメージの商売としてはいいキャッチフレーズだ。ジャン・クロード・ベルエさんは首をかしげるだろうが。メルロ的カベルネがアメリカで受けるのは、彼らが好きなメルロの味と彼らがお金を払いたくなるナパ・カベルネのシンボリックなステイタスの合体だからだろう。しかしそれは奇形的消費、ある種の病気ではないか。メルロが好きならメルロにとって最良の地で最上のメルロを作ればよい。これは内容ではなく名辞消費が支配する世の中ならではの現象として興味深い。

これが1万円なら十分に素晴らしい。しかし9万円の味ではない。と、言いたいところだが、カリフォルニアワインの多くは、作り込み過ぎた味がする。異常に手間をかけた、マニエリスム的現代超高級料理と同じ。つまり、それが現代における「偉大さ」、「美味しさ」の定義なのだから、客観的にはこれで正しい。一万人にひとりの例外であろう私以外の人にとっては、これこそ9万円の味である。

極端に言えば、私は「ごちゃごちゃいじってないで釣った魚は刺身にすればいい」的アプローチのほうが、少なくともワインに関しては好ましい結果を生むと思う。いじればいじるほど、自然素材は力を失っていく。力はどこから来るのか。だからすべての前提は、真のグラン・クリュから自然な栽培をすることだ。造りが素材を上回ってはいけない。飲んでまず造りの味に注意が行くようではいけない。だから私は豆腐で肉の味を真似ようとする究極のいじくり料理である精進料理は、いかに美味しくとも、本末転倒、むしろ煩悩助長、生命の冒瀆、背徳だと思う。

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コンティニュアムのプロプリエタリー・レッド2016(37000円)は昨年度よりフラットで青い。このワインはいつももっと立体感、垂直性、ディティールを感じるのだが。。。イングルヌックのラザフォード2016(15500円)もフラットで薄い。ピーター・マイケルのレ・パヴォ(12500円)は緻密で比較的立体感があり、適度なエッジ感も心地よく、いつもながらかっこいい味だと思う。シャトー・ラトゥールの兄弟ワイナリーになったアイズリー・ヴィンヤードのアルタグラシア2014(22500円)はタンニンが粗く、フレーバーにフレッシュ感がなく、果実味じたいはアイズリーらしく高密度だとはいえ、ベストの出来とは言いがたい。どれもこれも高価だが、どれもこれも重心が上で脆弱でダイナミズム不足。いったいどうしてしまったのだろう。その点アイズリー・ヴィンヤードのソーヴィニヨン・ブラン2015(15000円)は、赤よりはるかに上質で、ミネラル感も立体感もあり、なにより垂直的で下半身が安定し、ビビッド。これは確かにビオディナミの効果を感じる味で、カリフォルニアのソーヴィニヨン・ブランの中でも最高品質だと思う。これからは「好きなソーヴィニヨンは?」と聞かれたら、DCV3やI-BLOCKと並んで、このワインの名をあげたい。というわけで、ここのところずっと思っているとおり、ナパのカベルネ系ワインの多くはお金の無駄、いまや幻想、というのが結論だ。何度も同じことを言って申し訳ないが、私だけが例外なので、皆さんはお気になさらず、もちろん値段のことも気にせず(値段を気にする人はナパのカベルネを買わないだろう)、楽しまれて欲しい。どれも大変に高価だから見る目も厳しくなって私もあれこれ言っているだけで、値段がどうでもよければ、十分に飲みやすいワインだ。

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最高のワインは、それも他とは次元が違うレベルで偉大なワインは、イヴニング・ランドのピノ・ノワール、ラ・スルス2015(12000円)。高密度のミネラル感、躍動感あふれる酸、透明感のある美しい果実味、見事な垂直性と下支えの安定感、驚異的に長く心地よい余韻。いま思い出してもうっとりしてしまうほどの素晴らしさ。イオラ・アミティらしいクールさと硬質さ。そしてビオディナミ栽培。新世界ピノ・ノワールとして現代の最高峰。このワインに至るまで、多くのワインが重心上、固い、酸っぱい、薄い、シンプルで、つまり多くのプロが絶賛する早摘み味で、自分の舌がおかしくなったのかと思うほどだったが、このワインに出会って救われた。絶対のおすすめ。オレゴンのピノは十数年はらくらく熟成するから、買っておいて損はない。

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