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2019.10.02

牛肉赤ワイン煮用のワインについて

牛肉赤ワイン煮は水系調理の典型で口内味分布が拡散型だから、それに合わせてワインも拡散型にすべき、と考えるのは普通だ。肉の味だけを見れば確かに拡散だが、ワインまで拡散だと、食べた時に真ん中が弱くなる。シチューを食べる時によく注意すれば、大概の場合にその欠点に気づく。誰一人としてその話をしないが、料理用赤ワインはなんでも同じだと思っているのか。とはいえ集中型のワインでは肉の味の広がりの外縁部における肉とソースの一体感に欠ける。一長一短。この解決は簡単で、拡散型と集中型のふたつのワインを混ぜて使うことだ。

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赤ワイン煮は下方垂直性食材から下方垂直性食材まで多彩な要素からなる極めて垂直的な味なので、使用ワインは垂直的でなければならない。よくあるブフ・ブルギニヨンの失敗は、重心が高く水平的なワイン(ピノはそうなりがち)を使用することで、玉ねぎと人参に対する接点を失い、その下方向の味だけがワインとの一体感から遊離することだ。だからブルゴーニュワイン通がこの料理を作るときには無意識にもシャンベルタンやラトリシエールを使い、ルショットやモンリュイザン区画のクロドラロシュは使わないのは理に適う。

もうひとつの観点は岩ワインの重要性だ。土ワインだけでは焦点が定まらず、肉に対するソースの食い込みが足りない。つまりボルドーの中でも石灰岩のないサンジュリアンやオーメドックではダメで、サンテステフやサンテミリオン衛星地区の出番だ。同じくバロッサ・ヴァレーだけでは、いかにワイン単体では濃く感じられても適切な味構成のソースにはならず、イーデン・ヴァレーを加えねばならない。多くの飲食店で料理用にはコート・デュ・ローヌを使うようだが、クリュの一部以外のコート・デュ・ローヌは岩がないから、それは概して間違った選択になってしまう。フィトゥーやイルーレギーのような芯の強い岩ワインと適切にブレンドして使うべきだ。

結論としては、
1、集中型と拡散型の混合。
2、上から下までの垂直性。
3、土ワインと岩ワインの混合。

これは赤ワイン煮だけでなく赤ワインソースにも適合する。この基本的考えがわかっていれば、以下の質問には自分で答えられるはずだ。
1、メルロが拡散型でカベルネが集中型になったヴィンテージのボルドーは使えますか?
2、斜面の上から平地までの広い面積の畑のワインは使えますか?
それらはひとつのワインの中に多様な要素が含まれているのだから、一本でそのまま使える。逆に見るなら、近年の流行りの単一品種単一畑ワインは汎用性がなく料理には使いにくい。

今回の料理では、集中と拡散、そして上から下までの垂直性、土と岩に留意し、クリス・リングランドのバロッサ・ヴァレー・シラーズ(拡散)、ヘンチキのシリル(集中)、シャトー・カロン・セギュール(集中)を混ぜて使用した。順当な料理用ワインだろう。

過去何十年に渡って、牛肉赤ワイン煮に使う赤ワインはいかなるものであるべきかの考察と検証を続けてきた。ワインファンを目指すなら、このテーマについてしっかりした経験値と見解を持つことは必須だからだ。私は料理のプロではないので何十回しか実験していないが、フォンから引けば一回に完全にまる一日かかる。ただひとつの料理のひとつの要素でも、私のような凡人は何十日費やしてなんとか法則性が見えてくる。これでは100の料理を作るには100年の準備研究が必要になり、それは不可能だ。料理の神の声が聞こえる天才なら瞬時に全てを理解して一発で決められるかも知れないが、残念ながら私は声が聞こえない。すると、出来の悪い料理を100作るか、それとも自分で納得できるまでひとつの料理を何年かかけて作るか、という選択になる。しかし後者の場合、100人が別々の研究テーマを決めて探求し、得た結論をシェアすれば時間が一気に短縮される。そのためには料理に対して論理的なスタンスを取り、コミュニケーションを可能とする言語化の努力が前提となる。名辞的消費、流行、インスタ映えの追求のみが食への関心の中心的テーマではない。

 

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