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2019.10.06

グルナッシュ・マスタークラス

グルナッシュはこれからますます注目すべき品種。乾燥・高温に耐えるこの晩熟品種の特徴は、地球温暖化によって旧来の産地と品種の組み合わせに疑問符がつくようになってしまった現在、大きな可能性を約束する。そしてグルナッシュは飲む者に緊張を強いらず、タンニンが少なくふっくらソフトで酸が低い、極めてフードフレンドリーな、特に日本の家庭には必須の品種だ。

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ギャプランワインアカデミーで開催されたマスタークラスは、珍しくもグルナッシュに特化。講師は、『ヨーロッパ産ガルナッチャ/グルナッシュ・ファインワイン・プログラム』の副プロジェクトマネジャー、エリック・アラシル氏。初めて聞く名前の組織だが、EUの資金による、スペインのガルナッチャ・オリジェン協会とフランスのルーションワイン委員会両者の共同プロジェクトだ。

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参加アペラシオンを見ると、中世アラゴン王国とその従属国マヨルカ王国(首都はペルピニャン)の復活のようだ。確かにガルナッチャ、グルナッシュの栽培地はプロヴァンス伯領やサルディーニャ王国を含めてまさにアラゴン連合王国領域と相当程度重複する。しかし今回のプロジェクトに参加していない重要な産地がある。ガルナッチャといえば、エンポルダ、ペネデス、プリオラト等はどうした?つまりカタルーニャ君主国エリアだ。なぜ、と聞くと、「もちろん最初はカタルーニャを含めて計画していたが、途中から彼らは取りやめた」。うーむ、せっかくガルナッチャに光を当てようという素晴らしい企画なのに。栽培面積世界7位という大メジャー品種の割には一般消費者の認知が低いガルナッチャ・グルナッシュ。正当な地位のためにはこうしたEUによるPRが必要で、そのためにはカタルーニャ君主国の独善的な態度を改めてもらわないと。

ところで、プレゼンに使用された世界のグルナッシュ産地の地図の中にはもちろんオーストラリア(全世界中0・89パーセントでしかないが)も入る。しかしそのエリアの位置がへん。西オーストラリアの中央。人の住んでいないような場所。オーストラリアのグルナッシュ産地はバロッサやマクラーレン・ヴェールなのに。「ああ、わかってる。この地図は僕が作ったものではない。でも今まであちこちのマスタークラスでこの地図を使ってきて、この間違いを指摘したのは君だけだ」。バロッサのグルナッシュがどれほどおいしいのか知っていれば、ここで、ちょっと待ってくれ、と言うだろうに、ようは世界中、オーストラリアのグルナッシュに興味がある人は誰もいないということだ。悲しい。

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テイスティングしたのはすべてルーション。スペインはどこへ?講師がルーション人だから?興味深いことに、単一品種ワインは皆無。グルナッシュ単一品種ではまともなワインにならないと暗に示しているのか?それは間違いではない。白ならマカブー、赤ならカリニャンといった性格の異なる品種と合わさってコンプリートな構成のワインになるのは事実だ。単一品種ワイン以外認めようとしない日本で、グルナッシュと表記してあるワインがないに等しいことが、この品種をマイナーな地位に追いやる原因か。

概してルーションのグルナッシュはラングドックのグルナッシュより固くて酸が高くて重心が高い。南端の産地という先入観でルーションに接すると戸惑うことになる。表土が薄い斜面や標高の高さといった要因が考えられるだろう。アラシル氏は樹齢の高さ(畑の50%が樹齢50年超)も理由に挙げていた。しかしながら必ずしも昔からそういう重心の高い味だったわけではない。この十数年でスタイルが変わり、早摘み傾向が目立つ。酸の高さと香りの冷涼感とアルコールの低さを普遍的評価基準とするようではこの傾向は不可避だ。ゆえに早摘みとは無縁の酒精強化ワインと辛口ワインの質は、私の見方からすれば、生産地の意図とは逆に、むしろ開く。回りくどい表現になったが、今回テイスティングした酒精強化ワイン、特に最後のリヴザルト・アンブレは圧倒的。この生産者、ブリアルは、フランス最優秀協同組合に選ばれ、このワインは世界グルナッシュコンクール金賞を獲得したそうだが、それも当然に思える。酸量の計測値は世界最低レベルだと。しかしこのビビッドさ、酸の鮮やかさはどうだ。ここには何か真理がある。個人的には変な辛口志向に振らず、世界屈指の偉大なワインであるルーションの酒精強化ワインを積極的にPRした方が世の中のためになると思う。世界の酒精強化ワインの6割、フランスの8割が実はルーションなのだ。しかし普通のワインファンに代表的な酒精強化ワインの名前を挙げてくれと聞けば、シェリー、ポート、マデイラ、マルサラと、イギリス主導のワイン教育の成果が明らかな、実質イギリスワインの名前が並ぶだろう。この偏ったイデオロギーを正す方が先だ。リヴザルト・オー・ダージュと東坡肉を合わせて食べたい!

 

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今や畑の55%がビオディナミ、オーガニック、HVEだというルーション。テロワールも栽培も文句ない。私にとって問題点は二つある。ひとつは、北方産地のキャラクターを絶対視して南方産地にそれを無意識のうちに強要する風潮である。辛口でアルコール15度を恐れるな、それでもアルコールが上がり過ぎるなら、パレリャーダを2、3割混醸せよ。その前にパレリャーダをラングドック・ルーションの認可品種にすべく運動せよ。問題解決の道筋をざっくり言えばそうなる。もうひとつは、EUが自根ばかりか混植を禁止していることだ。日本の主流たる単一品種主義者は快哉を叫ぶだろうが、混植が伝統の南方産地にとって、それはワイン文化の破壊以外のなにものでもない。それに気づいている人はあまりに少ない。ワインの勉強とは、公的イデオロギーを無批判的に内面化して迷惑にもそれを無垢な素人に押し付けるためにするとでも思っているのか。違う。政治経済的思惑にまみれた公的イデオロギーが本当に正しいのかを自分で考え、判断するためにするのだ。

 

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