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2019.11.04

ルネサンス・デ・ザペラシオン試飲会

ビオディナミの伝道師ニコラ・ジョリーによって2001年に創設された、ビオディナミ生産者13か国230軒のグループ、ルネサンス・デ・ザペラシオン。このグループのメンバーであることは、いわばエリート・ビオディナミワイナリーの保証である。我々がビオディナミワインとはどういうものなのかを知りたければ、ないし優れたビオディナミワインを探しているならば、まっさきに思い浮かべねばならない名前が、ルネサンス・デ・ザペラシオンである。彼らが来日しての試飲会が201911月4日と5日に、201211月以来久しぶりに東京で行われた。

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この十年でビオディナミはすっかり日本のワイン界で定着した。しかしその本家筋ともいえるルネサンス・デ・ザペラシオンは他国では積極的にイベントを行ってきたというのに、日本からは遠ざかっていた。そのあいだに妙な自然派ワインがはびこり、ビオディナミに対する誤解が蔓延してしまった。前回の来日以来、私はサヴニエールで、またミュンヘン等で、5,6回ニコラ・ジョリーに会った。この問題について議論し、彼らが日本に来ることがいかに重要かを説いてきた。実現にあたっての難関は予算だった。イベント開催費用はグループにプールしてある資金から捻出するだけでなく、参加者も当然負担する。会場費等が高い日本に行くのは相当な出費だ。多くの生産者が二の足を踏んでいた。販売促進効果からして、すでに十分に売れているし、これ以上売るワインはないのだから、疑問だ。損益分岐点は40ワイナリーの参加だとニコラ・ジョリーは言っていたが、当初はそれも怪しかった。しかしニコラ・ジョリーが偶然出会った外務省関係者のつながりで、オーガニックワインが好きな在日フランス大使館サイドの責任者が、オーガニックのワインのイベントならば、と、格安で会場を提供してくれることになり、問題が解決した。

 

しかし代償もあった。それはセミナー用の個室の使用が一回分の時間しか許されなかったこと。そして大使館セキュリティー上の理由から入場者は最大400人と制限されたことだ。当初はイベント開催中、二日にわたっていろいろな角度から8回ほどのセミナーを行うはずだった。どのような内容がいいかは私が計画していた。午前から夕方はプロ向け、夕方から夜は一般向け、という計画も廃棄せざるを得ず、プロのみを対象とすることになった。400人というのは極めて少なく、参加者希望者は膨大だったらしいが、あっという間に定員に達してしまった。多くの人が参加できずに泣くことになった。いつどこでイベントを行うのかは、こうして相談にのってきたから相当前に分かっていたが、日本のオーガナイザーからは私のところに案内は来なかった。ニコラ・ジョリーの娘でありルネサンス・デ・ザペラシオンの事務局であるヴィルジニーに、「セミナーの通訳である私が入れなくてどうするのか」とメールして、やっと招待状をもらったぐらいだ。そのぐらい、限られた人しかこのイベントに参加できなかった。当初の目的は、多くの人に本当のビオディナミワインとはどういうものなのかを知らしめる、というものだったから、残念ではある。開催が告知されてすぐに申し込むような人はすでにルネサンス・デ・ザペラシオンを知っている。彼らのワインのファンでもある。その人たちに対して生産者がワインをふるまうだけではファンサービスでしかない。本当は知らない人に知らせるほうが大事なのだ。

 

とはいえ、開催を喜ぶべきだ。これだけ珠玉の名品ばかりが集まる試飲会も滅多にない。さすが、ルネサンス・デ・ザペラシオン。200本ほど飲んだ中でのベスト6と次点を下に載せる。エミディオ・ペぺは97年が最高。しかし五万を超える価格はちょっと、、、。写真の他にも秀作がありすぎて無理矢理感は否めないが。言わずもがなだからニコラ・ジョリーのクーレ・ド・セラン2017年は含めていない。スケール感、立体感、存在感がすごい。何度も言うが、2014年以降のクーレ・ド・セランは以前とは違う。それはこの試飲会でテイスティングした方々は分かったはず。ニコラ・ジョリーが言っている理屈とワインの味がきちんとリンクしている。なんだか分からないが結果はすごいというワインは数多くあれど、あれだけの理論体系を作ってそれを具現化しているという点が、1932年ワールドシリーズ第3戦のかのベーブ・ルースの予告ホームランのような意味で、またエスコフィエのように、別格的なのだ。

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今回の新発見は、ムノトー・サロンのレ・シャンドニエール。ノーマル版もいいが、写真のオー・スジェというアンフォラ・オレンジワインが凄すぎ。アンフォラとかオレンジワインとかの手段とスタイルが前面に出て完成度の低いワインが多い中で(ルネサンス・デ・ザペラシオンの中でさえ)、そういうことに全く気をとられずに純粋にワインの中に引き込まれていく。今まで飲んだムノトー・サロン中、段違いに最高だ。

 

サンソニエールに関して、いいニュースをラシーヌの合田さんから聞いた。フィロキセラのいない砂地の畑を買って、あの伝説的なヴィーニュ・フランセーズ・アン・フールを5年後に復活させるそうだ。2006年までのシスト土壌とは異なる味になるにしても、それでもアン・フールが存在するだけで、どれだけ世の中のためになることか。

 

ビオディナミだけの試飲会だから、ビオディナミであることは前提であって、通常の試飲会なら感じられる農薬ワインに対する差別点や、ビオディナミの優位性はない。とすると、生産者の能力とテロワールの比較になる。ルネサンス・デ・ザペラシオンのメンバーは能力に関する選抜を経ているわけで、ヘタな生産者は基本的にはいない。これが皮肉なところで、試飲会で浮かび上がるのは、ビオディナミでも生産者でもなく、グラン・クリュ(比喩的な意味も含めて)であるか否かなのだ。クーレ・ド・セランやサンソニエールやぺぺ、またアルテンベルグ・ド・ベルグビーテンやヘングストがなぜそんなに素晴らしいワインなのか。ようは、グラン・クリュだからだ。クーレ・ド・セランとサンソニエール(畑はボンヌゾー)のブースはロワール生産者コーナーにあり、周りはアンジュー、アンジュー村名付き、トゥーレーヌ村名付き。トゥーレーヌ村名付きワインとして素晴らしいというのと、絶対的に素晴らしいというのは違う。いかなる非グラン・クリュ・ロワールワインも、クーレ・ド・セランとボンヌゾーの前ではかすむ。

 

単純に消費者的立場から言えば、ルネサンス・デ・ザペラシオンのワインは、お買い得なグラン・クリュを買うのが一番満足度が高い、ということになる。この観点からしてお買い得おすすめワインは、やはりニコラ・ジョリー(ヴュー・クロで充分、サヴニエール自体がグラン・クリュだ)とサンソニエールである。

 

実のところ、いまひとつのワイナリーもなくはない。新世界のビオディナミワインは概して完成度が低い。某ワイナリーについて二コラ・ジョリーは私に意見を求めてきたから、「レベルが低い、本当のビオディナミの味がしない」と言ったら、「私もそう思う。来年もこの調子なら除名かも」と。除名しなければならないワイナリーを入れてしまう審査方法も問題だろう。おしなべてレベルが高いのはフランス。ルネサンス・デ・ザペラシオンはフランスの組織なのだと言えばそれまでだ。どうしてこうなるかといえば、コミュニケーション不足ゆえである。ようは国をまたいだ、ないし地域をまたいだ生産者同士の腹を割った意見交換がない。互助的な活動もない。本来ならビオディナミ運動は全体として高めあい、力を合わせて促進し、世の中に対して影響力をもっていかなければいかない。だからグループの全体会合では喧々諤々の議論がなされてしかるべきだがそうでもない。しかしあるラーメン店が他のラーメン店に秘訣を教えるだろうか。偉大なビオディナミ生産者であろうと人間は人間、組織は組織。我々の周囲に見られるもろもろの状況と大差があろうはずもない。しかしそうだと言って何もしないのはよくない。なんとかすべき、とニコラ・ジョリーにずっと言っているのだが、彼もまた人間なのだ。

 

会場直後、11時からニコラ・ジョリーのセミナー、「ビオディナミとは何か」。私は通訳の大任を仰せつかった。9時半に大使館で打ち合わせ、と言われ、自分としては大変に早起きして行ったのだが、ニコラ・ジョリーはあちこちで参加生産者と立ち話していて、打ち合わせなど出来ない。最後の30分は質疑応答ということぐらいしか決められず。つまり出たとこ勝負。通訳する身としてはつらい状況だ。普通のワインプレゼンテーションなら簡単な語彙で私ごときでも出来るのだが、ビオディナミの哲学の話なのだからなおさら難しい。

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大事なポイントは、1、ワインは個別的な土地の特徴を表現するものであり、セラーで作るものではない。飲みては総体としてのワインを要素分解的ではなく全的統合体として味わい、個別的土地の特徴すなわちアペラシオンを看取しなければならない。2、ビオディナミとは、物質的現象世界の背後にあるフォースのバランスをワインに体現させること。

 

ニコラ・ジョリーはセミナーの感想として、「参加者が、よく理解出来た、と言っていた。そう言われるのは珍しい」。それは良かった。事前に、いつもみたく各論技術論に走るな、本質論から逸れるな、とクギを刺しておいたのがよかったのか、適当に意訳したのがわかり易かったのかも。しかし意訳するには元々の彼の考えをそれなりに知っていないといけない。そこは長年の付き合いとメールでの議論のおかげだ。

 

 

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