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2019.11.22

ボージョレ・ヌーヴォー2019

ボージョレ・ヌーヴォー2019の記者会見に紛れ込ませていただいた。年々ボージョレ・ヌーヴォーの売上は下がり、昨対で18年はマイナス7パーセント、17年はマイナス8パーセント。今年もマイナスだろう。それでもボージョレ・ヌーヴォー全体の4分の1、輸出の半分を日本が占めている以上は、ボージョレ委員会としてもPR活動を続けていくしかない。誰もが、往年のボージョレ・ヌーヴォー・ブームは異常だと思うはず。あれが未来永劫に続くわけがない。ではどこが最適な水平飛行ラインなのかの見極めが難しい。

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彼らは解禁前夜から解禁日午前3時まで渋谷でイベントを行なっていたそうだ。ハロウィン的イベントを目指して若者を対象とする以外に正しい戦略はないだろう。アルコールを飲まなくなってきた若者にはボージョレ・ヌーヴォーは最適な入口であり、ワイン全体の前線なわけで、個人的には渋谷系バカ騒ぎが好きではなくとも、戦略的重要性はありすぎるぐらいにある。

 

2019年は霜や雹で収量半減の年。夏はイレギュラー。収穫前に好天。つまりインディアンサマーヴィンテージ。ゆえにタンニンが柔らかく酸がなく果実味は濃い。大変に美味しい、ヌーヴォーとして理想的キャラクター。想像以上の出来だ。夏の渇水が強ければ低地の粘土石灰土壌のノーマル・ボージョレ・ヌーヴォーがいいが、今年は砂地のボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォーが、薄くも固くも酸っぱくもなく、しなやかでジューシーでよい。そうではないワインは、早摘みか、無理して抽出したか、だろう。この記者会見で試飲したワインの中では写真の二本がいい。ボージョレ委員会会長ドミニク・ピロンのワインはさすがに一番美味しかった。会長がまずいワインでは誰も信用しない。

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私はオーストリア的な鮮度感のあるワインが好きなので、また短いマセラシオンの赤がいいと思うので、当然ヌーヴォーは、その観点から好きだ。出来立て特有のエネルギーは、料理でもワインでも変わりない。いかにバカ騒ぎから身を置いて飲むか。そうすればボージョレ・ヌーヴォーのワインとしての魅力を新たに発見するだろう。

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会長ほか関係者とはずいぶん長く話しこんだ。

・収穫日は?

「9月半ば。ノーマルな収穫日。地球温暖化は現時点ではボージョレにはブラスで、青さがなくタンニンは甘く酸は穏やかになった」。

・フルーティさが望まれるボージョレで全房発酵は何故?

「ヌーヴォーでは除梗し、発酵期間は5日から7日と短く、フルーティに仕上げる。通常のボージョレでは全房発酵するが、熟していれば果梗は苦くない。熟していない年では味を見て部分的に除梗する」。

・ボージョレとボージョレ・ヴィラージュの違いは?

「ボージョレは粘土石灰質土壌、ボージョレ・ヴィラージュは花崗岩質砂質土壌」。

・あなたはモルゴンの生産者だが、モルゴンは場所によってシスト、火成岩、深成岩、石灰岩といろいろ。単一土壌で別々のキュヴェを造る人もいるが、あなたは?

「あちこちに畑を所有していて、それぞれ別々に仕込み、あとでブレンド。いろいろな土壌があって複雑な味になるのがモルゴンの特徴だから」。

・ボージョレのオーガニック比率は?

「2、3%ぐらいか」。

・それは少なすぎる。

「どこと比較しているのか?」

・プロヴァンス。

「気候が違うではないか」。

・それはそうだが2、3%はいくらなんでも少ない。ボージョレは自然豊かな土地だ。その自然を保護し、働く人にも害がない農業をするのは当然だ。

「そういう方向には着実に向かっているし、若い世代は特にそうだが、旧世代を説得するのが難しい」。

・ボージョレの問題は分かっている。ゴブレだ。トラクターによる雑草の漉き込みができないから除草剤に頼る。もちろんすべて手作業ではコストがかかる。ゴブレでオーガニックが理想だとしても、現実にはふたつの選択肢がある。ゴブレで除草剤か、グイヨで除草剤なしか、だ。

「ボージョレのAOCはグイヨを禁止している」。

・では除草剤は不可避なのか。それは絶望的だ。

「いやコルドンは許可されるようになった」。

・それでいいではないか。コルドンにしてトラクターを入れられるようにする。

「自分の畑でも平地は除草剤不使用だが、急斜面では使っている。ゴブレをコルドンに仕立て直すにはものすごく時間がかかるが、徐々に変えているところだ。しかしオーガニックワインは皆同じ味になってしまうから好きではない」。

・え?まさか。逆だろう。もしかしてあなたは亜硫酸無添加ワインのことを言っているのか?

「そうそう、亜硫酸無添加ワイン」。

・あなたのような立場の人が亜硫酸無添加ワインとオーガニックワインを混同するようではまずい。確かに前者は皆同じような味になる危険があるから安易には勧めない。しかし日本の輸入元は亜硫酸無添加にしろと要求して、生産者は困っているのでは?

「そうだ」。

・いつになったらクレマン・ド・ボージョレAOPが出来るのか?

「クレマン・ド・ブルゴーニュとして販売されているワインの40%がボージョレのブドウ。ブルゴーニュのネゴスにとってボージョレは必要」。

・そうやってブルゴーニュの植民地になっている状況をどう思うか。

「もちろん自主性をしっかり確立していくつもりだが、時間がかかる」。

・クリュ・ボージョレはお買い得な高品質ワインの代表。地域名ブルゴーニュより安いが、当然ずっと品質がよい。なぜ地域名ブルゴーニュのシェアを取る努力をしないのか。

「以前日本で、高級フレンチレストランでソムリエたちに参加してもらい、クリュ・ボージョレのプロモーションをした。その場では素晴らしいという意見だったがそのあと売れなかった」。

・それはそうだろう、クリュ・ボージョレの売り先は高級レストランではない。高級レストランにおけるワインは意味が違う。高額ブランドであることが重要だ。おいしいまずいだけの話ではない。中国と同じだ。中国の高級ワインを飲んだか。高いこと自体が目的なのだ。

「ああ、スクリーミング・イーグルの二匹目のドジョウ」。

・クリュ・ボージョレは実質価値のワインだ。パリの普通のビストロでクリュ・ボージョレを置いていないほうが珍しいぐらいではないか。ボージョレはフランスの美食の中心リヨンのワインではないか。クリュ・ボージョレがふさわしいのはフランス国内と同じくビストロだ。どれほどクリュ・ボージョレが食の楽しみを増すのか証明していかないといけない。10のクリュで大半のフランス料理はカバーできる。ではどのクリュがどのような料理に合うのか。

「ひとつひとつのワインとひとつひとつの料理を合わせるような考えは非現実的だ。食卓に一本あれば楽しくなるワイン、として認識してもらうべきだろう」。

・それはボージョレ・ヌーヴォーの戦略であって、クリュではない。一般消費者はそのような難しい話には反応しないとしても、レストランは正しいワインを正しい料理に対して提供するのが仕事ではないか。多くの生産地域が一対一対応のペアリングをイベントで訴求するが、確かにそれは間違いだ。そのような料理は二度と再現できない。私が言っているのは、もっとざっくりとしたルールだ。少なくともメインディッシュは鶏肉なのか豚肉なのか牛肉なのか決まっている。鶏肉にはシルーブル、豚肉にはレニエ、牛肉にはムーラン・ナ・ヴァン、鹿肉にはコート・ド・ブルイイ、そうだろう?我々には常識でも実際に日本で誰がそれを理解しているのか?

「鹿肉はそんなに食べないだろう」。

・いや、食べてもらわないと困る。いま日本では鹿が増えすぎて人間の畑を荒らす。どんどん食べないと!

「日本はボージョレ・ヌーヴォーのような例外を除いてコンシューマー主導マーケットではなくサプライヤー主導マーケットだ。消費者の自主性もないし、レストランにもない。圧倒的に輸入元主導、問屋主導、レストランは与えられたものを売るだけ、消費者は売られたものを買うだけであって、何が欲しいかを主張しない。日本人は誰もが圧倒的なワインの知識を持っている。世界最高レベルの知識だ。すべて知っているのに、知らないふりをして何も言わない。不思議だ。しかし輸入元にアプローチしてもクリュ・ボージョレはいらないと言われる。どこに向けて予算を使うべきなのか。

・それを私は聞きたい。

H市の人口は約10万。しかしH市の業務卸は2軒しかなく、その2軒であまたのレストランをカバーしている。ならばその2軒を味方につけるようにすればいい」。

H市?それはまたずいぶんマイナーな話だ。日本のワイン市場の7割は首都圏と大阪圏だろう。

「ワイン全体として見れば7割はそのふたつの市場。しかしフランスワインだけが日本全国にくまなく市場をもつ。それがフランスワインの強みなのであって、予算を東京と大阪にのみ投下するのは戦略的に間違いだ」。

・そこまで分かっているなら、やれ。

「ボージョレ委員会予算は9割がヌーヴォー用なのだ」。

・残り1割でもクリュのPRをやらなければこれからどうなる?未来は明るくはない。

「ワイン市場規模の拡大が見えない日本にあっては顧客の奪い合いしかない」。

・では地域名ブルゴーニュやコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュから客を奪え。ボージョレは軽やかで樽っぽくなくタンニンやアルコールが強くないワインを望む現代的嗜好にもとから合致している。パリのビストロ必須の基本ワインである。美食の中心リヨンのワインである。既に名前が知られている。それ以上なにを望むのかというぐらいアドバンテージがあるではないか。

 

 こうしてあっというまに1時間半経った。いかにガイヤックが面白いか、いかにフロントンがソーシス・ド・トゥールーズに合うか、といったどうでもいい雑談もあったが。そのあいだ議論に加わる他のジャーナリスト(何十人もいらした)は皆無。私など大した頭脳も知識も経験もないわけで、本当なら私なんぞと話すより他の方々のほうが彼らの役にたつ意見を言えるはず。そもそも私はフランス語ができないが、他の方々はできる。しかし、いみじくも皮肉めいて言われているとおり、「日本人は知っていて知らないふりをする」。冷酷だからか、それともプライドが高すぎるのか、私には分からん。せっかくの機会なのにもったいない。そのまま流れ解散。「みなボージョレには関心がないようだ」と言うと、「どうもそのようだ、考えたくもないが」。

 

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