« プロワイン・チャイナ | トップページ | ピーロート・ル・グランド・テイスティング »

2019.11.17

ブラジル、サルトン社のワイン

チリ、アルゼンチン、オーストラリア、南アフリカ、ブラジル、ニュージーランド。南半球におけるワイン生産量順位。今日会ったブラジルを代表する巨大生産者、サルトンの輸出マネージャーからそう聞いた。私ならずとも、あれ、と思うだろう。ブラジルが5位を占めていることを。そんなワイン大国だったのか。更に驚くのは、日本がサルトンの第5位の輸出先なこと。いったいどこにそんな大量のブラジルワインがあるのか。聞けばミシュラン三つ星などの高級レストランらしい。既に先端的なソムリエはブラジルワインに重要な役割を与えているようだ。

Photo_20191207192001

▲左がカンパンヤ・ガウシャ地区のタレント。右がセラ・ガウシャ地区のフラワーズ・ブランコ。

 

チリにはカルメネール、アルゼンチンにはマルベックというアイコン品種がある。固有品種があること自体は好ましいが、それがアイコンになるのは必ずしも良いことではない。とは言え簡便即席のコミュニケーション手段が求められる現代では商売にそれが必要なのは分かる。ブラジルにはそのようなアイコン品種はない。ゆえにスパークリングワインというスタイルをアイコン化しようとしているらしい。そしてサルトンはスパークリングワイン生産量の40%を担う。ブラジルでスパークリングワインとはイメージが湧かない。我々にとってブラジルはアマゾンであり、カーニバルであり、暑い国である。しかしワイン産地の中心、ブラジル最南リオ・グランデ・ド・スル地区は南緯30度と、オーストラリアや南アフリカの主要産地と同じ。さらに東北部セラ・ガウシャは標高650メートル。それならシャルドネやピノのスパークリングワインは可能だろう。

ひとつ重要な点は、年間降水量が1388ミリ(リオ・グランデ・ド・スル地区西南部カンパンヤ・ガウシャの数値)と多いことだ。ただし雨季は冬で、夏から秋にかけては乾燥している。新世界ワインの大半が灌漑している畑で出来ることを思えば、これは大きな差別点となる。無灌漑ならではの緻密な構造と、日本に匹敵する降水量ゆえのしっとり感のバランスがブラジルワインの個性のひとつだと言える。

サルトンのワインはどれも日本の権威あるコンペティションでゴールド、プラチナ、ダブルゴールド等々を受賞している。その中でサクラアワード2019ダブル・ゴールド受賞のボルドー系ブレンド(カベルネ・ソーヴィニヨン50、メルロ30、タナ20)、タレント(1万円)と、日本で飲もう最高のワイン2018で愛好家部門プラチナ受賞、専門家部門シルバー受賞のマルヴァージア・マスカットの等分ブレンド、フラワーズ・ブランコ(1900円)を試飲させていただいた。卓越した味覚を持つ方々が揃って絶賛するワインだから、私にとってもテイスティングの勉強になる。前者はカンパンヤ・ガウシャ産。ここは標高は低めで気温は高い砂質土壌の平地の畑ゆえ、赤ワイン生産の本拠地。いかにも砂質土壌の平地の個性。ブラジルだからシュラスコに合わせる赤ワイン、と言いたくなりそうだが、もちろん砂質の平地では塊肉に合わないので注意したい。同じことは多くのカリフォルニアやチリのワインにも該当することだが、日本ではイメージ先行で、ついつい皆新世界の赤ワインを見ると、焼いた肉に、と言ってしまう。しかしブラジルワインは特に、想像以上に繊細さを備えたワインである。

私は高級ワインの味に疎いせいか、安価なフラワーズ・ブランコが気に入った。畑はセラ・ガウシャを特徴づける玄武岩土壌の斜面。勢いのよい上昇力のある香り、はじけるようなミネラル感と酸、よどみのない流れ、余韻の長さと安定感。セラ・ガウシャがいかに優れたテロワールなのかが一目瞭然だ。暑苦しい過剰な華美さがない点、味のフォーカスが定まっている点、中心の垂直線が明快な点等々、美点は枚挙にいとまがない。特に夏に飲みたいワインとしてお勧めしたいし、レバノンやベトナムで見られるような、香りが強く酸がしっかりして粘りのない、重心の高い料理にぴったりだろう。

カンパンヤとセラを比較すれば、私からすれば後者が優れたテロワールに思える。しかしサルトンの高額赤ワインは前者の畑。不思議だ。なぜセラでプレミアム・ピノ・ノワール、プレミアム・シラー、プレミアム・ブラウフレンキッシュを造らないのだろうか。カンパンヤでは品質向上の余地はそれほど残っていないと思うが、セラのポテンシャルはまだ半分しか表現されていないはずだ。

物珍しい受け狙いワインとしてブラジルを見て欲しくない。これからは確実にブラジルワインは我々全員にとって重要な選択肢のひとつになる。

 

« プロワイン・チャイナ | トップページ | ピーロート・ル・グランド・テイスティング »

試飲会等」カテゴリの記事