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2019.11.28

ドメーヌ・ド・ラ・ベギュード当主、ギヨーム・タリ来日セミナー

バンドールを語る上では不可欠の有名生産者。しかし、バンドールの代表、と言っては語弊がある。三畳紀基本、あとは白亜紀の地質のバンドールにあって、標高400メートルの高地に位置するラ・ベギュードの畑の大半は珍しくもジュラ紀の 石灰岩。土の色は例外的に赤っぽい。しかしここはバンドールになくてはならない、先端的かつ品質最高レベルのドメーヌだ。その当主ギヨーム・タリが来日して試飲会、セミナーを開催した。

 

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ギヨーム・タリにはドメーヌでずいぶん前に会った。ランチまでご馳走になった。敷地は500ヘクタール。建物は中世の小村落跡全体であり、黄金比で作られた旧教会をセラーにしている。ブドウは棒仕立て。伸びた新梢を途中から下に曲げる、まるでモーゼルのような形。ないし、棒仕立てのまま畝全体にハイ・ワイヤーを渡し、そこに新梢先端を這わせる。いずれにせよ夏期剪定なし。手間はかかるし、杭は定期的に打ち直す必要があり、費用もかさむ。しかし通常の垣根より品質が良いと言う。葉を切らないから光合成量が多い、と説明するが、それだけではないだろう。同条件でコルドンとゴブレの味を比較したことがある。後者の方が広がりやふくよかさがあった。あのワイヤーに身体全体が磔にされたような垣根に不自然さを感じないほうがおかしい。もちろん昔はどこでも棒仕立てだった。彼らはその伝統を守る、いや再発見した貴重な存在だ。そしてその利点、エキストラエネルギー感と空気感でも呼ぶべき特徴は、確かにワインから感じられる。バンドールのみならず多くの生産者が棒仕立て密植に戻って欲しい。

労賃がかさむ、人手がいない、と言うから、「バンドールの海の向こうから安い労働力が手に入るのでは?」と聞くと、「確かに海の向こうから沢山の人が来る。しかしフランスでは同一労働同一賃金の法則が厳格に実施される。人間の仕事の間に上下の差別があってはならない。フランスの例のデモンストレーションもその法則の徹底化を要求している。賃金が高いから外から沢山人が来るとも言える。だとしたら同一賃金を外国の未熟練労働力に払うのはワイナリーにとって二重の困難だ」。「それを言うなら、ミシュラン星付きレストランは全員に正当な賃金を払っているのか。未払い労働力に甘えるフランス料理店のシステムは是正されるべきだ」。「うーむ、あれは勉強させてもらうという理由で自主的に働いているわけで」。「それは建前。きれいごと」。まあ本題とは関係ない話だが。

 

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バンドールの主要品種はムールヴェードル。ラ・ベギュードでは122種類のムールヴェードルを集めて畑に植えている。「苗木は買ったことがない。他の人たちがうちに買いに来る」。少しずつ異なるブドウが複雑性、ディテールの豊かさを生み出す。畑も広大な敷地に点在し、ジュラ紀のみならず三畳紀の地質からのブドウをもブレンドすることで、これまた複雑性、ディテールの豊かさを生み出す。力強いとはいえ奥行きに欠ける普通のバンドールと比較すれば、この特徴は誰の目にも明らかになる。「単一品種、単一土壌ワイン流行りだが、私はブレンドによる複雑が好き」と言うと、「私もそう思うからそうしている」。それは言うは易し行うは難し。下手は乱雑で水平的なワインを、つまり要素が殺しあうようなワインを作りがちだ。ラ・ベギュードのバンドール赤2016年を飲んでみる。なんとフォーカスが定まり構成が整っていることか。「ボルドー的」と表現すると、「そう、ピシッと垂直的」と誇らしげだ。さすがタリ家はシャトー・ジスクールの長年のオーナーだっただけある。どこかボルドー的な味わいなのは、血がなせる技だろう。

常に議論の的となるのがバンドールの樽熟成18か月というAOPの規定だ。正直、彼のワインでさえ樽熟成がそこまで必要なのか疑問だ。長期樽熟成は果実味を減じるし、余計なタンニンを付加してしまう。元々の素材が最高なら、そのものを真っ直ぐに出したらどうなるのか興味がある。「バンドールこそ歴史的に見てもアンフォラ熟成が相応しい」と言うと、「私もその規定に反対で、熟成期間はそのまま熟成容器は自由にすべきだとINAOに働きかけてみたが、彼らは頑固だ。アンフォラ熟成は認められない」。「そうですか?私はアンフォラ熟成されたバンドールをあるドメーヌで見ましたよ」。「ああ、Lさんか」。しかしバンドール委員会会長が自ら規定違反の確信犯になるわけにはいかない。

 

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バンドールは伝統的に赤ワイン産地であってロゼワイン産地ではない。しかしプロヴァンス=ロゼという観念は消費者のみならずプロの間でも根強い。広大なプロヴァンスの全てが同じだと思ってはいけない。それは世界的な誤解であり、「今やバンドールの生産量の7割以上、いや8割近くがロゼ」だと言う。さすがにラ・ベギュードは半分が赤ワイン。とはいえロゼがまずいわけではない。薄くピンク色をした水ブラスアルコールでしかないプロヴァンスの安価低質大量生産ロゼは、一部のニュージーランド・ソーヴィニヨン・ブランと並んで人をバカにしたワイン。それに慣れてそれを基準にしている人には、ここのロゼは衝撃的なほど濃密で実体感がある。色も濃いが、これで直接圧搾法とは信じがたい。極低収量ゆえだ。

姿形は上品。しかし三畳紀のバンドールと異なり、しっとり冷たい気配ではなく、ジュラ紀らしい暖かい力強さを内面に秘める。そのコントラストの魅力は、ラ・ベギュード独自の個性である。鴨料理と合わせて楽しんで欲しい。

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