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2019.12.02

イヴニング・ランドとサンディのワインメーカー、サシ・ムーアマン来日セミナー

今年出会ったアメリカのワインの中でも最も印象に残るのが、オレゴン、イオラ・アミティのドメーヌ、イヴニング・ランド。そしてカリフォルニア、サンタ・リタ・ヒルズのネゴシアン、サンディ。両者のワインメーカーを務めるサシ・ムーアマン(本名はムサシ。母親は日本人)が来日し、ワインジャーナリスト向けのセミナーを行った。

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サンタ・リタ・ヒルズは北半分が砂質土壌、南半分がダイアトム土壌。当然後者のほうが緻密で複雑で余韻が長く、個人的にはよいと思う。サンディが使うのはダイアトム土壌のみ。ベーシックなシャルドネもピノもブドウの半分は、サンディやイヴニング・ランドと同じオーナーでサシがワインメーカーを務めるプレミアム・ワイナリー、ドメーヌ・ド・ラ・コートの格落ち、残り半分は買いブドウ。サンタ・リタ・ヒルズはブルゴーニュ品種にとってはカリフォルニアの中でも最上の地域だから、ベーシックと言っても基礎的レベルが高い。

圧巻はかの有名なサンフォード&ベネディクト畑のピノ・ノワールとシャルドネ。1972年に自根で植えられたサンタ・リタ・ヒルズ最高樹齢のブドウ。そして適度な粘土と石灰岩と円形劇場的地形が通常のサンタ・リタ・ヒルズとは違う厚み、スケール感、下半身の座り、強いミネラル感を生む。私は昔からサンフォード&ベネディクトのファンだが、サンディが造るワインは、独特の気品と緻密さと奥行きがある。いかにもな紋切り型イメージのむっちりフルーティなカリフォルニア・ピノを前提して飲んだら、この冷涼でタイトな構造と透明感あるくっきりとした酸(総酸10グラム、pH3.0と、シャンパーニュのヴァン・クレールと並んで最も酸の高いピノ!しかし熟した果実味があるからそこまでの酸とは思えない)としなやかなタンニンに衝撃を受けるだろう。しかしそれこそ夏はブルゴーニュより涼しく、冷風が吹き、朝には霧に覆われる、ハングタイム110日から120日に達する(ゆえに果梗が熟して全房発酵しても青臭さが皆無)サンタ・リタ・ヒルズの特徴なのだ。サンディは畑ごとのキャラクターを生かし、垂直的品質分類ではなく水平的バリエーションで商品構成するのがコンセプトのワイナリーなので、どの畑のワインも同じ値段。つまりは〝グラン・クリュ〟であるサンフォード&ベネディクト畑も他と同じ値段。建前はともかく、サンフォード&ベネディクト畑の実力を知っているなら、こんなに有り難い話はない。試飲したのは2016年だが、2018年からはオーガニックだと聞いた。これからさらに美味しくなるということだ!

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オレゴンのイヴニング・ランドは標高200メートルほどの玄武岩土壌の畑。高い土壌pHのサンタ・リタ・ヒルズに対して、こちらの土壌pHは恐ろしく低く4.5。高いか低いかだとブドウの窒素吸収が阻害され、困難な状況で酵母が働くことで複雑性が出てくるとサシは言う。また彼のシャルドネに特徴的なガンスモークの香りは、酵母が不足する窒素ではなく硫黄を食べることで生まれるとか。「ではなぜピノだとその香りが出てこないか」と聞くと、小さな樽の中で酸素がない状態で発酵されるシャルドネと異なり、ピノの発酵は上面開放桶で酸素が供給され、その酸素がガンスモークの香り成分分子を別の物質に変化させるからだ、と。いずれにせよ、あのガンスモークの香り(ドメーヌ・ドーヴネイやコシュ・デュリのムルソーにも似る。そういえばイヴニング・ランドは創立当初はドミニク・ラフォンが関わっていたワイナリーだ)は肥料まみれになっていない優れた土の証左なのだ。

イヴニング・ランドではこれからピノをシャルドネに改植したり、新しい畑にはシャルドネを植え、ピノとシャルドネの比率を7対3から半々にまで持っていくらしい。しかし個人的にはピノのほうがずっといいワインだと思っている。なぜならピノのほうがスケールが大きく、調和がとれ、特に下半身がしっかりして、余韻が長いからだ。そう言うと、「ほとんどのソムリエはシャルドネを絶賛する」と。ふーむ。確かにオレゴンのシャルドネにはたいしたものがないから、それを思えば彼のワインははるかによいのだが。。。私にとっては彼のピノ・ノワールの区画限定トップキュヴェ、ラ・スルスは今まで飲んだオレゴンの中でも最高のワインのひとつ。さすがビオディナミ(2007年から) 。アーシーさと黒系果実とザクロと黒系スパイスの香りに、厚みのある果実味とベルベット的なタンニンと酸はいかにもオレゴンだが、太くしっかりしたミネラルの構造があり、かつ田舎風味にならずにスッとした抜けのよさもある。しかしオレゴンはハングタイムが90日と短く、夏はカリフォルニアより暑いから、メリハリを出すのが難しいらしい。「サンタ・リタ・ヒルズでは果実味と酸のコントラストが自然と得られるのに対して、酸がソフトなオレゴンでは香りと果実味を上手に対比させていく技術が必要」だと。その技術もさることながら、それぞれの産地のそれぞれの魅力をかくも美しい形で描くセンスが素晴らしい。味わいは優しく、温かく、理知的すぎず(これが難しい。多くのカリフォルニアは左脳的な味がする)、控えめながらも芯がある。この美点が、オーナーはインド人、サシは日本人ハーフであることと無縁だと言えるだろうか。

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