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2021年1月の記事

2021.01.05

2020年度のベストワイン

2020年にテイスティングした、最も印象的なワインを20本選んだ。他にもいろいろと候補はあるのだが、写真のために、あくまで手元に瓶が残っているものから選んだ。

おいしいものはおいしい。そこにバイアスはない。教条主義的、原理主義的な予断を含んだ態度でワインを飲むと、せっかくそこにあるというのに宝が見えてこない。とはいえチョイスのうちほとんどはビオディナミやオーガニック(認証あるなしにかかわらず)を採用している。それは誰にとっても今や基本だろう。

選んだワインを振り返ってみると、エネルギー感、張り、広がりがあるもの、自然の美しさが立ち現れてくるもの、造り手の気持ちが乗り移っているもの、全要素が整合性をもって(モワレ模様感のなさ)向こうまで見渡せる晴明さを備えているもの、といった共通点はあると思う。客観的によいワインだとしても、左脳本位的冷淡さは嫌いだし、思いに技がついていかないのももどかしいし、土地の味がしないのは論外だ。

2020年に繰り返し言っていたのは、完熟していないブドウからは最上のワインは、いかに優れた土地で卓越した技術があったとしても、生まれようがないということ。ひとことで言うなら、反・早摘みワイン。Zoomセミナーの講師としてお招きした、ニコラ・ジョリー、ミシェル・シャプティエ、オリヴィエ・フンブレヒト、ジャン・ミシェル・ダイス、仲田晃司、ジェラール・ベルトラン、チェレスティーノ・ガスパーリ、ジャン・マリー・ギュファンといった方々も、当然ながら同じ主張をされていた。それが当たり前でないのがいまのワインの問題なのだ。

 

1、Chateau d’Yquem  Sauternes  2017

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すごすぎるほどすごいのだが、すごいことを忘れてしまうほど、ただただワインの美しい世界に没頭できる幸せ。完璧、というのはこういうワインに対して使うべき言葉だ。磨き上げられた微細なディティール感、ピュアな果実味、びしっと筋の通った垂直的な形、ビビッドな酸、等々、素晴らしい理由を挙げていればきりがないが、すごいのは要素ではなく、全体の高度な調和だ。以前のイケムより遥かにフレッシュで、今飲んで美味しい(もちろん何十年も熟成するだろうが)。甘さやパワーではなく、純度と気品とフォーカスを求めるなら、2017年はソーテルヌにとって本当に偉大なヴィンテージだ。

 

2、Denis Montanar   Verduzzo 2012

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次元が異なるエネルギー感。通常の表現ではその別格の魅力を表現することが不可能なぐらいの、経験したことのない深々とした味わい。これほど自然と生産者と直結した気持ちになれる、造りこまれたのではなくおのずから現出したかのような生々しいワインはめったにない。ビオディナミの亜硫酸無添加のアンバーワインと説明してしまうと、「ああ、流行りのタイプね」と安直な理解をされそうだが、実際のワインはその予想を気持ちよく裏切る完成度。ヴェルドゥッツォ品種の本当のポテンシャルを初めて知った。同じ生産者のレフォスコのロゼ、2011年の官能性も素晴らしく、どちらを選ぶか悩んだ。

 

3、Fermier  El Mar Susurro de la Tierra  2019

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ここ何年かのフェルミエの品質向上は顕著で、以前の理知的で繊細であっても躍動感や立体感に不足したもどかしさは過去のものになった。樹齢が上がってきたという理由もあろうが、造り手自身の練達、そして思想的な変化が決定的な理由だろう。それに関しては私も少しは貢献できたと自負している。この野生酵母発酵、亜硫酸無添加の新作は、フェルミエにとって、そして新潟コーストにとって、明らかなブレークスルーとなる傑作。退屈な予定調和感、冷え冷えとした技術先行感、理屈っぽいナチュラル演技感が皆無で、堂々として厚みがあり、大地から盛り上がるようなエネルギーに心身が熱く満たされる。

 

4、Oddero   Barolo Rocche di Castiglione  2015

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言わずと知れたバローロ最高の畑のひとつ、ロッケ・ディ・カスティリオーネがどれほど別格的なのかがよく分かる。多くの人がバローロに対して抱くイメージとは違い、ごりごりするタンニンやあからさまな強さはなく、すっきりと細やかな味わいとキュンとした酸とふわーっと広がる気品ある香りは、心乱されるほど美しい。ブラインドならブルゴーニュのグラン・クリュと言う人もいるだろう。同等の陶酔的充足を与えてくれるワインは世界にそうは多くないという文脈で見れば、これは驚くほどお買い得なワインだ。なぜ2015年、と訝しがるだろうか。確かにストラクチャーが緩い(ゆえにバローロに期待するキャラクターに合わない)ゆえに低評価のヴィンテージ。しかしこの年の朗らかさ、裏表のなさ、柔らかさ、香りの外向性がロッケの魅力をむしろ高める。バローロに対する一面的な理解から脱却するためにもこのワインは必須だ。

 

5、St. Antony  Puttenthal GG Riesling   2018

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私にとってリースリング最上の畑のひとつは昔からプッテンタールなのだが、残念ながら以前は農薬味のワインばかりだった。しかしこのワイナリーは最近ビオディナミを採用。ついに、ついに、ついに、プッテンタールの実力が全開となった。この強靭な上にも強靭なミネラル感、ぶれない太い骨格、粘りと流れのスムースさ、純度と複雑さの両立。自らを持て余すほどの力がありながらも気品を放射する真のGGリースリング。繊細だとか優美だとかの形容詞でリースリングを評するのは、リースリングの恐ろしさへの無知を露呈するのみ。

 

6、Domaine Matha  Marcillac Rose Vignou  2018

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フランス最高のブドウ品種のひとつでありながら、最も知名度の低いといえるのがフェール・セルヴァドゥー。そしてこの品種最上の産地が山奥にあるマルシヤック(ここではこの品種をマンソワと呼ぶ)。気温が低かった昔はタンニンが熟さなかったのか、また農薬ワインばかりだったから、えぐくて青いワインが多かった。気候変動はマルシヤックにはプラスに働き、この生産者のようにオーガニックも徐々に増えてきたから、最近は本当においしい。驚かされたのは市場でまったくと言っていいほど見かけないロゼで、この品種らしい筋の通った硬質なミネラル感と酸が際立つ。それにしてもマルシヤックはいまだ不当に安い。内容ではなく名前を買う人(残念ながら日本の大勢のワイン通)にとって、無名のマルシヤックなどなんの価値もないからだろう。

 

7、Cascina Tavijn  VdT Vino Rosso Teresa   2015

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モンフェッラートの希少な地場品種ルケの。実質オーガニック亜硫酸無添加微甘口赤ワイン。ルケの魅惑的な甘い香りと分厚い質感の濃密な果実味と強いタンニンが絶妙な甘さ(ほぼ辛口と言っていいぐらい)に包まれて、官能的な飲み心地をもたらす唯一無二の個性。サラミやゴルゴンゾーラ・ドルチェと天国的な相性で、やめられないおいしさ。飲み方を心得ていれば他に得難い満足を与えてくれる、家庭のセラーにこそ勧めたい傑作。

 

8、Domaine de Lafage  Coteaux du Quercy La Suite  2018

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パリでソムリエをしている知人と、今注目の産地はどこか、という話をしていて、ふたりの答えは同じ、コトー・デュ・ケルシー。カオールの南にあるこの比較的新しいAOPは面積が290ヘクタール、年間生産量8000ヘクトリットルしかないため、知名度は低いが、ジュラ紀の粘土石灰質土壌に植えられたカベルネ・フラン主体にそれと相補的なマルベックをブレンドしたこのオーガニックの傑作を飲めば、ここが偉大なテロワールだと一発で分かるはずだ。緻密で堅牢で垂直的で高貴な、オーゾンヌ型の味。個人的にはグラン・ヴァン型のワインにとってコトー・デュ・ケルシーは南西地方最良のアペラシオンのひとつだと思う。ただそれだけに、ざっくりこってりして素朴な南西地方料理と野趣に富んだ南西地方ワインの紋切りビストロ的相性を求めるなら不向き。ゆえに登場する機会が現実的には皆無に近いという不幸。だが味が分かる人にとっては、こんなにお買い得なワインもない。

 

9、Domaine Maurice Schoech Alsace Grand Cru Kaefferkopf Contemplation  2018

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近世アルザスで最上のワインのひとつと評されながら、単一品種全盛の現代にあってはいまひとつの味でしかなく、07年のグラン・クリュ昇格にも首をかしげるしかなかったケッフェルコフ。しかしゲヴュルツトラミネールとリースリングとピノ・グリの伝統的な混醸であるこのオーガニックワインは、ケッフェルコフはやはりグラン・クリュにふさわしい堂々たる存在感と気品を備えた畑であると証明する。いままでも2品種混醸は飲んだことがあるが、3品種混醸は次元の違う複雑さだ。彼らの混醸ランゲンも圧巻の出来だし、他にはフルシュテンタム、シュロスベルク、マンブールと珠玉のグラン・クリュを所有する注目の若手だ。値段も安い。しかし日本ではこうした優れたグラン・クリュの個性を素直に表現した普通のオーガニックワインというのは需要がないようなので、例によって、欲しいならばドメーヌに行くしかない。

 

10、Ghostwriter  Santa Cruz County Pinot Noir  2017

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ナチュラル志向の現代カリフォルニアを代表する生産者のひとり。サンタ・クルーズの硬質なミネラル感とちょっと冷たく緻密な果実味と伸びのある香りの個性が好きな私としては、そのサンタ・クルーズらしさとピノ・ノワールの個性が相乗効果をもたらすこのワインを嫌うはずもない。譬えて言うなら、1993年のブルゴーニュが好きな人向け。これを飲むと、今のカリフォルニアがいかに進化しているかよく分かる。昔より早摘みの味だが、フランスと異なり、昔が遅すぎたのであって、今が正しい。だから早摘み味が大嫌いな私も、カリフォルニアのピノの早摘み傾向には賛成だ。カリフォルニアのピノとしてはお買い得なのもうれしい。

 

11、Domaine Michel Magnien  Morey-St.-Denis 1er Cru Climats d’Or  2016

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私は昔からブルゴーニュの1級畑は混醸すべきと主張しているが、尊敬するビオディナミ生産者であるフレデリック・マニャンは、その伝統の方法を復活させた。このやり方は、一部の例外を除いて単一畑ではもっさりして単調なワインになりやすい(それはそれでまずいわけではないが)モレには特に効果的で、適度に色が混じり重なり合う油彩のごときモレ1級の個性を何倍にも魅力的に表現する。重心が低く、粘りがあり、土や黒系スパイスや黒トリュフや色の濃いドライフラワーの香り。ワイルドさを秘めたタンニンに、分厚い果実味。アンフォラ熟成ならではのやわらかさと安定感。ビーフシチューが食べたくなる!モレ1級畑を広範囲に数多く所有するマニャンだからできるワインだ。細分化の時代は早く終わって欲しい。これからは細分化して理解したテロワールの個性を相乗効果的に生かす総合化の時代だ。そのほうがワインもおいしくなり、食卓での有用性も増すし、販売サイドとしても何十何百ものブルゴーニュ1級を売り分け売り切る苦労から解放されて三方よし。と思うのだが、実際はそうではないようで、日本のブルゴーニュワインファンはひとつひとつの畑の微細な違いを楽しむのが購入の目的だからブレンドは買わない、とある人に言われた。日本のブルゴーニュファンが何十万人いるのかわからないが、シェゾ―とシャリエールとクロ・ボウレとモン・リュイザンとミランドとファコニエールとクロ・ソルベとシャフォーとルショの個性を理解してそれぞれ適所適材で使いこなす人がそんなにいるとは、さすが。しかし我々一般人にはそれは恐ろしく敷居が高い。それに、結果がおいしくなければ意味がないではないかと、素朴に思う。

 

12、Karim Vionnet  Chiroubles  2018

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チャーミングでしなやかにフルーティなシルーブルは、自分にとってはボジョレーらしいボジョレー。素直においしければ、頑張って皆にすごーいと褒められるワインを造る必要もないし、まして、ブルゴーニュみたい、と賞されるワインを理想とすべきでもない。ボジョレーはボジョレーでしか得られない魅力的な世界がある。とはいえシルーブルは大変に標高が高く、昔は熟さずに青さが目立った。MC法で果梗が熟していなければどういう味になるか言うまでもない。暑い2018年は、完熟したシルーブルがどれほど魅惑的なのかを知らしめる最上のヴィンテージ。とはいえ乾燥した年だと砂質のシルーブルでは渇水ストレスゆえに苦みが出やすいものだが、このワインにそのネガティブな要素はまったく感じない。現代的にナチュラルで、垢ぬけて、ピュアで、快活なエネルギーのある、明るく心地よいワイン。つくねタレの焼き鳥に最高。

 

13、Chateau Closiot   Le C de Sec   2018

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天才ジャン・マリー・ギュファンがバルザックに新しく購入したワイナリーの、実質初ヴィンテージ(2017年は霜で壊滅)。イケムのイグレックと同じく、遅摘みブドウ(セミヨン主体のボルドー・ブレンド)の辛口。ロワールもどきの現代ボルドー白ワインが大嫌いな彼と私にとって、あるべきボルドーの白とはこういうスタイルであり、こういう味。ボルドーでは例外的にMLF、ゆえにSO2添加も少なく、無濾過。これの何がいけないのか。コクがあり、複雑で、ミネラリーで、質感は優美にまろやかで、酸はソフトかつ力があり、ギュファンらしい粘りと甘さが魅力的。ボルドーで買うべき現実的な価格の辛口白は、ソーテルヌのGと、このバルザックのC。ここを基準点とすれば道は誤らないし、ボルドー白が本来ならばどれほど役に立つおいしいワインなのか(現状は本当に悲惨だ)も理解できる。

 

14、Gravner Ribolla 2010

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グラヴナーの最高傑作。この集中力のある理知的かつ堅牢な、冷たいと言えるほどに突き詰められた味は、グラヴナーでしかなしえない。いまやオスラヴィアのみならずフリウリの各地でアンバーワインは造られ、グラヴナーが西洋で初めて使用したクヴェヴリは世界各地でポピュラーになってはいるものの、いまだグラヴナーの透徹した境地に達するワインはない。最初の立ち位置が違うから比較もできない。ポンカ土壌であるとかリボッラであるとかビオディナミであるとか醸し発酵であるとかはまったく意識にのぼってこない、抽象的な美的また精神的世界。おいしいとかすごいというより、私はむしろ過酷で痛々しいと感じた。グラヴナーのむき出しの人間性が、何も身にまとうものなく、裸で直立して、寒風にさらされているかのようだからだ。バスキアの絵をメアリー・ブーン画廊で見た時の感覚を久しぶりに思い出した。ワインに興味があるなら、一定の勉強(試験勉強に非ず)ののちに誰もが経験すべきひとつの極北。ただし生きたワインゆえに周辺環境(飲み手の心のありようを含む)には恐ろしく敏感で、あるべき味へと整備するのは至難の業。邪念がある人、相性が悪い人が同じ部屋にいるだけでアウト。室内の全員がグラヴナーを尊敬し、彼を理解しようと努力し、心身ともにワインの真善美に捧げているような環境で、集中して飲んで欲しい。これは大いに飲み喰い歌い喋るジローラモ的イタリアなノリのレストランで飲むべきワインではない。そもそも産地であるゴリツィア県は“イタリア”なのか。

 

15、Domaine Zind-Humbrecht Alsace Clos Windsbuhl Gewurztraminer 2016

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自分にとってはアルザス最上の畑のひとつ。モノポールであることが災いして現行制度上はグラン・クリュになりようがなかった(申請には村の栽培者の総意による推挙が必要)が、本来ならばここがグラン・クリュでなければどうすると言えるぐらいの由緒正しい、ハプスブルク家の畑。標高が高く、畑の上は森だから、地球温暖化にあっては以前にも増してこの涼しい畑の優位性が高まってきた。これだけ飲むと、あまりにバランスがよく、あまりに優美であるがゆえに目立たないかも知れないが、ツィント・フンブレヒトが造る一連のグラン・クリュのゲヴュルツトラミネールの中にこれを含めて飲んでみるといい。このワインのレベルの違う品位、細やかさ、開かれた(畑の地形どおりの)のびやかさが理解できるはずだ。ゲヴュルツ最上の畑は、スポーレン、キルシュベルグ・ド・バール、クロ・ヴィンスビュールだ。無意味な遠回りをしている暇があったら、まずは基本の一本としてこのワインを飲むべし。当然のようにこのワインはオーストリアの味がする。その意味が飲んだ瞬間にわからないなら、飲む以前にすべき勉強がある。

 

16、Lou Dumont   Bourgoge Passe-Tout-Grains  2017

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今まで飲んだPTGの中で最良。なぜPTGでこんなに気品があるのか、こんなに精緻で、複雑かつミネラリーな味なのか。PTGは下層民用下品ワインだなどと思っているなら大間違いで、PTGもまぎれもなくブルゴーニュなのだと分かる。いかなるディティールもおろそかにしない真摯な姿勢が伝わり、飲めば飲むほどその完成度に感服することになる。地球温暖化によって昔は熟さなかったガメイがしっかりといい個性を寄与してくれるようになったのもポイントだ。2017年のピュアさ、繊細さが、この生産者の個性をさらに生かす。ブルゴーニュは一年に一度しか飲めない価格のワインばかりではない。さりげない日常にこうした上質でお買い得なブルゴーニュが寄り添うことのありがたみを想って欲しい。

 

17、Domaine des 13 Lunes  Abymes  2018

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サヴォワのチーズにとって、またサヴォワのフォンデュにとって最良の伴侶がアビーム。ジャケール品種は表面的には地味だが、その実は繊細でディティール感に富み、ワイン単体では派手なアルテッスやベルジュロンの影に隠れて人気がなくとも、料理と合わせればジャケールこそがサヴォワの基本なのだと分かるはずだ。ジャケールにとって最良の畑のひとつがアビーム。その美点である酸と粘りは往々にしてえぐさと泥臭さになりがちなのだが、この若手生産者のビオディナミワインはポジティブな明るいエネルギーに溢れ、2018年の温暖なキャラクターと相まって、今まで経験したことのない洗練された快楽性を実現している。単刀直入に言って、現代サヴォワ白ワイン最上の作品。

 

18、Zyme  Valpolicella  2018

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混植混醸ワインであるヴァルポリチェッラは、現代の視点から再評価されねばならないイタリア赤ワインの代表。さらっとして軽やかで上品。まさにヴェネトな、都会的性格。ジーメの創業者・醸造家であるガスパーリ氏は膨大な知識と経験、卓越した技術の持ち主であり、大変にエネルギッシュな起業家だが、このワインはあくまで中庸なバランスで、ある意味、無色透明。ピカソ晩年の技術を極めた上での一筆書きみたいな、と思わせてしまうところがすごい。その実、大変に複雑(さすが混植混醸)で、いろいろな料理にさりげなく合う。つまりレストランにとっても家庭にとっても基本のワインだ。技を極める方向性でワインを造るなら、この無為自然レベルの名人芸になるまで修練しないといけない。

 

19、Santa Caterina   Liguria di Lavante Poggi al Bosco  2017

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穏やかでまろやかな深み。リグーリア海沿いの粘土質土壌に植えられた地場品種アルバローラを醸し発酵してアンフォラ熟成させたこのワインは、味のしっかりした甲殻類に対して驚くほどの相性を見せる。個性が強いワインではあるが、その個性がいやみにならず、自然なバランスで身体に広がっていく感覚が見事。ごま油で揚げた天ぷらを天つゆで食べるなら、まずはこのワインを想起すべき。試してみれば、誰しもこのワインの虜になるだろう。イタリアワインの常だが、飲まれるべき文脈がわからないと、存在理由が薄らぐ。これをよくある最近のナチュラルワインのカテゴリーに入れるのではなく、天ぷら用ワインというカテゴリーに入れた時に、どれほどありがたいワインなのかが分かるのだ。

 

20、M. Chapoutier  Luberon La Ciboise   2017

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眩しい陽光と乾いた空気と野生のハーブの香りを孕んだ爽やかな風、まさに南仏の気配を伝える傑作。シャプティエの単一畑エルミタージュ白をここで選んでもよかっただろうが、あえてこの千円台の安価なワインを最上の家庭用ワインの一本として勧めたい。トマト、オリーヴオイル、バジル、ガーリック、とくれば、フランスワインの中ではまずこのリュベロンを思い出して欲しい。南ローヌに含まれる産地とはいえリュベロンの性格は垢ぬけてクールなプロヴァンス。立地的に見てもそう捉えるべき。買いブドウでも契約農家には除草剤を使わせず、極力オーガニック栽培を要求するシャプティエのメゾンのワインは、忘れられがちだがどれも素晴らしい出来だ。ミシェル・シャプティエ自身の繊細さ、完全主義ぶり、そして積極的なエネルギー感は、ドメーヌものだけに感じられるのではない。ただし、白。シャプティエは不思議と白ワインのほうが土地の個性をストレートに感じさせて好きだ。

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