試飲会等

2019.12.13

テラヴェール イタリアワイン試飲会

激しく玉石混交。イタリアらしい。多くは早摘みで似たような味。うーむ、テラヴェール取り扱い生産者に限らず早摘み強迫観念病で困ったものだ。早摘みでは土地の味が出ない。本来土地の味を表現するためのビオディナミなりオーガニックなりが、いつのまにか造りのスタイルという表層的な記号にとってかわられ、それもSO2量という物理データの話になり、それが少なければナチュラルだと単純化され、少なくするためにpHを下げ、そのために早摘みせざるを得ず、結果、どれも同じ味。百者百様の自然の味を鑑賞しわけることが大切なはずなのに、同じいかにもなスタイルの味を皆で賞賛。ワイナリーの自画自賛のセリフが紙面を踊れど、結果が同じ表層的スタイルに終始しては意味がない。とはいえ反早摘みを主張する人はいないに等しいから、事態は進行するのみ。そもそもあちこちのビオディナミワイン輸入元は、テロワールではなく生産者が大事と言う。ビオディナミがテロワールのためでなく生産者のエゴのためだと言うのか。

話が逸れたが、しかし、今回の試飲会でも、いいワインは本当にいい。

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まずはジョコリのキャンティ。トレッビアーノやマルヴァジアを含む地場7品種の一部混醸、一部ブレンド。セメントタンクと古樽熟成。軽やかでディテールに富み、鮮度が高く、抜けがいい。理想的キャンティ。高くてまずいクラシコが氾濫する現在、これこそが救い。私はずっと黒白混ぜろと言い続けているが、やっとこうしたワインが普通になってきた。

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トスカーナの山中で放棄された長年無農薬の畑を手入れし直し、ビオディナミで作られるサゴナのマルヴァジア、プリミ・パッシのミネラル豊かな地酒感も素晴らしい。カッコつけた金満トスカーナや無理したファッションビオに辟易している人にとって、これは泣けてくるほど昔の朴訥なイタリアの美意識が残る。

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ツィダリッヒのマルヴァジア・レーテ。厳格なカルソらしいミネラルを軸としつつ、マルヴァジアの色気と緻密さと気品を加え、醸し発酵でコクや弾力性を出した見事な完成度。カルソというと皆ヴィトフスカの話しかしないのはもったいない。正直私はヴィトフスカがそんなに偉大な品種だとは思わない。このエリアの地場品種ならテラーノのほうが好みだし、マルヴァジアのほうがずっと高貴ではないか。余韻が違う。まあ日本のイタリアワインファンにヴィトフスカは大した品種ではないと言ったら夜道は歩けないかも知れないが、そういう人には、トリエステはオーストリアに戻るべきだと言って火に油を注ぎたい。この前トリエステに行った時に、街並を見ながら頭の中でヴィトフスカとマルヴァジアの味を思い浮かべ、どちらが似合うか考えていた。つまりはどちらがオーストリアっぽいか、だ。ま、夜中にぐだぐだやるにはいい話のネタだとは思う。ところで値段は今や9200円。

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イタリア国境から900メートルのところにあるオレンジワインの生産者、スロヴェニアのクリネッツ。ガルデリン(品種はピノ・グリージョ)の厚みとポジディブなパワー感は食欲を増す。ヴェルドゥッツ(品種はヴェルドゥッツォ)2003はひたすらにすごい。白だが強烈なタンニンを持つ品種ゆえ、ここまで熟成できるし、熟成すると暴力性が精神的エネルギーに転化し、包容力と気品が出てくる。しかし19800円。勧めることに気がひけるぐらい高い。

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イ・クリヴィのフリウラーノ・ブラッツアンはいかにもコッリオな重厚感。しかしミネラルの躍動感とキビキビした酸があって重たくならない。よく考えられたワインだ。この生産者はコッリオとオリエンターリの丁度接点のところにあり、両アペラシオンのワインを造るが、私はコッリオの底支え感や温かみが好きだ。

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エミリア・ロマーニャのヴィッラ・パピアーノがアンフォラ発酵させるアルバーナのオレンジワイン、テッラ。アルバーナの構造の確かさ、風格を感じさせ、クセなく、完成度が高い。

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パラッツォーネの5品種ブレンドのオルヴィエートは、相変わらずの安定感。ある意味普通のワインだが、このさりげない多面性が食卓の上のワインとして極めて重要。日本料理店にも是非。フラスカティとオルヴィエートの有用性は再認識されるべき。今は単一品種ワインばかりが多すぎる。

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マテオ・コレッジャのロエロのしなやかさ、上品さは相変わらず。これは定番だろう。

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オーガニック協同組合カッシーナ・イウリのベーシックなバルベーラの素直さ、伸びやかさ。バルベーラはこういうタンニンが弱く、肩肘張らないワインのほうが好き。

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バローロ系ではブリッコ・ボスキス2015の隙のない構成美と充実感に魅了された。他のバローロ、バルバレスコは今回は不調。モンプリヴァートさえも、だ。2013年が多いから仕方ない。

発泡ワインでは、ラ・カウドリーナのアスティ・スプマンテは、普通に上質。無理なく、いかにも、アスティ。それでいい。パネトーネと一緒に家族親族集まって飲むのに相応しいか、が評価基準だ。

帰り際、「昨日、田中さんが部屋の環境が悪いと言っていたから今日は処置した」と言われた。確かに抑圧感がない。昨日も今日も根の日だからその違いではない。やれば出来るなら常にやろう。

 

2019.12.12

テラヴェール フランスワイン試飲会

テラヴェールのフランスワイン試飲会。ビオディナミワインが沢山。しかし若手の多くは早摘み味。ブドウが完熟していなければせっかくのビオディナミも意味が薄い。亜硫酸を減らすために無理矢理pHを下げようとするのはやめてほしい。とはいえ大半の人は酸と亜硫酸量を見て評価するから仕方ない。

早摘み味ではないワインを選ぶと、おすすめワインは写真のアイテム。撮り忘れたシャンパーニュ、ドラピエのノン・ドゼ、サン・スーフルも。

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シャンパーニュはエルヴェ・ジェスタンの造るルクレール・ブリアンが圧巻。ダイナミックで太いミネラル感があり、余韻がリズミカル。リードギターやフルートやハイハットみたいなワインは沢山あるが、ジェスタンのワインにはきちんとベースギターとバスドラムが効いている。いったんそのことに気づくと他が表層的に思える。写真はベーシックなキュベだが、これがいい。

 

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クラマンのリルベールの低ガス圧(4気圧)ワイン、ペルルは、クラシックなブラン・ド・ブラン中最良のワインのひとつ。昔はもっと一般的だった低ガス圧。今では4人しか造らない。通常のシャンパーニュよりずっとナチュラルな味がする。クラマンの品よく柔らかいふくよかさを増してくれるのがいい。

 

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ロワールでは、ブルーノ・チョフィ(ヴィルジニー・ジョリーのパートナーでもある)が引退したシャトー・ラ・トゥール・グリーズの独特な微甘口スパークリング製法を引き継いだZe Bulle Zero Pointe が素晴らしい。さすがニコラ・ジョリーの実質的娘婿にしてマーク・アンジェリの片腕(一時は後継者とみなされた)、つまり、アンジュー二大巨頭の背後には彼がいる。シャトー・ラ・トゥール・グリーズ時代よりさらに美味しく、高密度。そして安い。クーレ・ド・セランも彼がヴィルジニーと関係を始めた2014年以降は確実に味が違って美味しくなった。それがブルーノの影響だとしたら、彼は次元が違う天才なのだろう。

 

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ジュラは昔から好きなモンブルジョのレトワールの独自の個性がいい。シャトー・シャロンより厚みがあり、ダイナミック。老舗にして押しも押されぬレトワールの代表ドメーヌだが、着実に品質が向上している。

 

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アルボワは全体としては個人的には味が暗くて好きではないが、ドメーヌ・ド・ラ・パントのオレンジワインの完成度には驚かされた。すごいパワー。しかし洗練されている。これで初ヴィンテージとは信じがたい。しっかりビオディナミ味。このドメーヌを現在の偉大な地位に高めたのも(昔は普通の味だった)、ここで十年醸造長を務めたブルーノ・チョフィ。

 

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ブルゴーニュではコンブランシアンのアントワンヌ・リエナルトのバレルセレクト、アンファゼが見事。ビオディナミ、低収量、全房発酵、短いマセラシオン、瓶詰めまでの亜硫酸無添加と、典型的現代ブルゴーニュ。しかし早摘みではない。

 

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ボージョレではチャーリー・テヴネのレニエ。軽い土壌のレニエらしいチャーミングなフルーティさに、傑出した厚みと滑らかさ。

 

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コンドリュー屈指の生産者、クロ・ド・ラ・ボネットのIGPのヴィオニエとシラーは、到底IGPレベルの味ではない。コンドリューとコート・ロティのキャラクターを常識的価格で欲するなら、これ。さらっとした造りがむしろテロワールとブドウの質をよく伝える。

 

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タヴェル最上のビオディナミ生産者バラジウ・デ・ヴォシエールの赤ワインは相変わらず突き抜けた個性とエネルギー感。亜硫酸無添加のよいところだけ感じる。

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コルシカを代表するビオディナミ生産者、コンテ・アバトゥッチは、ベーシックキュベ(ファウスティーノ・ルージュ)でもさすがの出来。素直さの中の風格とディテール感。無理無く力強い。

しかしテラヴェールの素晴らしいワインは、困ったことに試飲会では十全には本領発揮しない。試飲会場の会議室がいまひとつ。会議室は会議室、ということ。同じワインでもうちで飲むと美味しいのはテラヴェールの取締役が認めている。いつも言っているが、ビオディナミワインは生き物なので場と人の影響を大きく受ける。残念ながらそこまでワインは傍若無人ではないし、自律的にいかなる環境にも対応して不変の自我を主張するわけでもない。試飲環境はある程度は制御可能なことなのだから、しっかり配慮しないとワインが可愛そうだ。とはいえプロなら、ましてテラヴェールの試飲会に来るようなビオディナミワインの専門家なら、本来はどんな味かは推測できるはずだ。

2019.12.10

ネイティブ・グレープ・オデッセイ

EUが農作物をプロモーションするイベント。その名も「地場品種の旅」という試飲会が青山アカデミー・デュ・ヴァンで行われた。

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素晴らしいテーマ。EU諸国には地場ブドウ品種が何千もある。カベルネやシャルドネといった国際品種がほとんどの新世界ワインに対抗するには、地場品種に光を当てるのが一番だ。

新世界であっても、いまどきカリフォルニアやチリのカベルネ、シャルドネ、ピノ、ニュージーランドのソーヴィニヨンやピノで頭が固まっている人は、シーラカンスやアンモナイトの仲間だと思われ、ホモ・サピエンスとはみなされない。地場品種最低数百の使いこなしは、ワインファン全員にとっての常識である。

とはいえ、このイベント予算はEUのみが支出しているのではなく、参加産地なりワイナリーなりが金銭負担する。とすると、予算捻出の余力があるメジャー産地しか舞台に立てず、本当にサポートが必要なマイナー国や産地の地場品種には光が当たらない。さらに、一ブランド当たり二種類のワインしか出品できない規定も問題だ。いろいろな品種を作っていても、それだと例えばランゲならネッビオーロとバルベーラしか登場しない可能性が高く、本来の目的からはズレてしまう。実際にそうなってしまっている。なぜこの場でバローロとブルネッロが沢山出てくるのか?その話はここでせずともよいし、ネッビオーロとサンジョベーゼはもはやネイティブグレープとは言えないぐらい準国際品種ではないか。プーリアも、この州にはプリミティーヴォしかないのかと思わせる偏りかた。Pampanuto、Francavidda、Impigno、Verdecaといったプーリア地場品種のワインを飲んだことがない私としては、ここで勉強できると期待していたが。

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最も印象に残ったワインは、Farro のLe Cigliate。カルデラに植えられた、火山灰土壌の自根のファランギーナ。すごいミネラル。火山灰の上昇力と自根の下降力のコントラストの高い調和が素晴らしい。これは経験すべき。厚切り豚肉生姜焼き的味。

意外と言ったら失礼だが、あのイニエスタがこんなに誠実な地酒だとは知らなかった。大スターの名前で売ろうとするコンテンポラリー・インダストリアル・ワインかと勝手に思っていた。これはイニエスタ家もともとの畑のボバル。カッコつけよう、上手く作ろう、というあざとさ皆無の、適度にざっくりした温かい味わいがいい。

絶対的品質ではパルッソのバローロ・ブッシアはさすが。ブッシアの骨格の確かさ、緻密さ、力強さ、形の整いかたの前では沈黙の後の感嘆しかない。しかしそんな常識をいまさら言われても皆リアクションに困るだろう。

絶滅の危機から復活したカラブリアのマリオッコは樹齢がそこそこ高くなり、以前のようにタンニンが目立つが中身が薄く余韻が短いといったことがなくなり、本来のポテンシャルが見えてきた。ギリシャ系黒ブドウ的なざっくり感がいい。他にはルケの壮麗なバラの香りと高密度な味わい、スケール感、際立った個性に魅了された。これはすごい。レバー料理に合わせるようだ。ブラケット・ダックイは中甘口赤ワインとして他では得難い存在。華やかでいて実体感があり、余韻も長い。デザートワインとして、また食前酒として、もっと評価されるべき。

安価なワインではFeudi del Vescovoのアリアニコ・デル・ヴルチュレと、グレコ・フィアノのブレンドが見事。小売1600円。普通のトラットリアにぴったりの、無理のない、クセはなくともきちんと土地と品種を感じさせる味わいと、料理客単価に相応しい価格。料理3000円台の数多いトラットリアならワインも売価3000円台でないと。普通のイタリア料理店に、こうした安価で素直な地場品種ワインがいろいろ揃っていることが、日本のイタリア食文化向上のためには大事だ。いや、イタリア料理店だけではない。普通の焼鳥店にアリアニコ、普通の天ぷら店にグレコ・フィアノが置かれる状況(もちろんこれは話の流れからの一例で、品種の候補は何百とある)が望まれる。そうなることがこのEUプロモーションの目的なはずだし、それは正しい。

2019.12.09

深川市松屋 試飲会

自作のワインプレイスメントベース1ダースを深川市松屋さんに納入しに行ったら、ちょうど試飲販売をしていた。いくつか飲んだ中でのおすすめは、写真のアレッサンドロ・ヴィオロが造るグリッロのオレンジワイン、シンフォニア・ビアンコ。オーガニック。いかにも現代の若手らしい行儀のよさとクリーン&クリアな風味を基調としつつ、ローカルな個性(栗の樽!昔はシチリアにはよくあった)と、オレンジワインならではの構造、粘り、腰の座りがある。明るいエネルギーが感じられるのもよい。聞けばこの年は当主の娘が誕生し、特別に気合が入ったようだ。酸化風味とかもし発酵を一緒にしている人はこの現代的オレンジワインを飲んで欲しい。オレンジワインの進化が実感できる。

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もうひとつ、アッラ・コスティエラのロッソもいい。ヴェネト地元のトラットリアでカラフで出てくるような、無理のない、自然体の味。実際に中身は量り売りワイン。それを特別に瓶詰めしてもらったという。よく自分はタンクから直接手詰めして持ち帰る。その味が好きなのだが、それと同じ。日本ではなかなかこういった完全地元ワインには出会えない。さりげなくビオディナミ。それが2000円とは嬉しい。こういうワインこそ最高の家庭用になる。

しかしこれが分かる人ばかりではない。あるところで実際に聞いたが、つまらない、飲んだ気がしない、と。ゴリゴリ農薬ガッツリ抽出ゴッテリ樽掛けワインを、飲みごたがある、いかにも赤ワインを飲んだ気がする、と言うのだ。さて、どう返せばいいのか。バカヤロウおととい来やがれ、か。そういう人が味を分かるようになるためには、まずは味の素を食生活から完全排除することだ。排除、という冷酷な響きの語は、都知事のように使うのではなく、ここで使うべきものだ。

話はまだ続く。上記のワインは飲みやすいが、ビオディナミらしいのか? 宇宙のエネルギーを瓶に閉じ込めているか?そこがこれからの課題だ。自分にスッとワインが入ってくることを良しとする風潮がこの十年。農薬や添加物へのアンチテーゼとして、まずは身体レベルで違和感があるか否かに着目するのは正しい。とはいえ視点を変えればそれは自分がワインより上に立つ考え方であり、そこでのワインは既存の自我とその認識の枠組みを自動的に肯定する飲料でしかなくなる。ワインが指し示す世界に自分が飲み込まれていくような感覚を与えてくれるワインが、本当にいいワインだ。

 

2019.11.22

ボージョレ・ヌーヴォー2019

ボージョレ・ヌーヴォー2019の記者会見に紛れ込ませていただいた。年々ボージョレ・ヌーヴォーの売上は下がり、昨対で18年はマイナス7パーセント、17年はマイナス8パーセント。今年もマイナスだろう。それでもボージョレ・ヌーヴォー全体の4分の1、輸出の半分を日本が占めている以上は、ボージョレ委員会としてもPR活動を続けていくしかない。誰もが、往年のボージョレ・ヌーヴォー・ブームは異常だと思うはず。あれが未来永劫に続くわけがない。ではどこが最適な水平飛行ラインなのかの見極めが難しい。

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彼らは解禁前夜から解禁日午前3時まで渋谷でイベントを行なっていたそうだ。ハロウィン的イベントを目指して若者を対象とする以外に正しい戦略はないだろう。アルコールを飲まなくなってきた若者にはボージョレ・ヌーヴォーは最適な入口であり、ワイン全体の前線なわけで、個人的には渋谷系バカ騒ぎが好きではなくとも、戦略的重要性はありすぎるぐらいにある。

 

2019年は霜や雹で収量半減の年。夏はイレギュラー。収穫前に好天。つまりインディアンサマーヴィンテージ。ゆえにタンニンが柔らかく酸がなく果実味は濃い。大変に美味しい、ヌーヴォーとして理想的キャラクター。想像以上の出来だ。夏の渇水が強ければ低地の粘土石灰土壌のノーマル・ボージョレ・ヌーヴォーがいいが、今年は砂地のボージョレ・ヴィラージュ・ヌーヴォーが、薄くも固くも酸っぱくもなく、しなやかでジューシーでよい。そうではないワインは、早摘みか、無理して抽出したか、だろう。この記者会見で試飲したワインの中では写真の二本がいい。ボージョレ委員会会長ドミニク・ピロンのワインはさすがに一番美味しかった。会長がまずいワインでは誰も信用しない。

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私はオーストリア的な鮮度感のあるワインが好きなので、また短いマセラシオンの赤がいいと思うので、当然ヌーヴォーは、その観点から好きだ。出来立て特有のエネルギーは、料理でもワインでも変わりない。いかにバカ騒ぎから身を置いて飲むか。そうすればボージョレ・ヌーヴォーのワインとしての魅力を新たに発見するだろう。

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会長ほか関係者とはずいぶん長く話しこんだ。

・収穫日は?

「9月半ば。ノーマルな収穫日。地球温暖化は現時点ではボージョレにはブラスで、青さがなくタンニンは甘く酸は穏やかになった」。

・フルーティさが望まれるボージョレで全房発酵は何故?

「ヌーヴォーでは除梗し、発酵期間は5日から7日と短く、フルーティに仕上げる。通常のボージョレでは全房発酵するが、熟していれば果梗は苦くない。熟していない年では味を見て部分的に除梗する」。

・ボージョレとボージョレ・ヴィラージュの違いは?

「ボージョレは粘土石灰質土壌、ボージョレ・ヴィラージュは花崗岩質砂質土壌」。

・あなたはモルゴンの生産者だが、モルゴンは場所によってシスト、火成岩、深成岩、石灰岩といろいろ。単一土壌で別々のキュヴェを造る人もいるが、あなたは?

「あちこちに畑を所有していて、それぞれ別々に仕込み、あとでブレンド。いろいろな土壌があって複雑な味になるのがモルゴンの特徴だから」。

・ボージョレのオーガニック比率は?

「2、3%ぐらいか」。

・それは少なすぎる。

「どこと比較しているのか?」

・プロヴァンス。

「気候が違うではないか」。

・それはそうだが2、3%はいくらなんでも少ない。ボージョレは自然豊かな土地だ。その自然を保護し、働く人にも害がない農業をするのは当然だ。

「そういう方向には着実に向かっているし、若い世代は特にそうだが、旧世代を説得するのが難しい」。

・ボージョレの問題は分かっている。ゴブレだ。トラクターによる雑草の漉き込みができないから除草剤に頼る。もちろんすべて手作業ではコストがかかる。ゴブレでオーガニックが理想だとしても、現実にはふたつの選択肢がある。ゴブレで除草剤か、グイヨで除草剤なしか、だ。

「ボージョレのAOCはグイヨを禁止している」。

・では除草剤は不可避なのか。それは絶望的だ。

「いやコルドンは許可されるようになった」。

・それでいいではないか。コルドンにしてトラクターを入れられるようにする。

「自分の畑でも平地は除草剤不使用だが、急斜面では使っている。ゴブレをコルドンに仕立て直すにはものすごく時間がかかるが、徐々に変えているところだ。しかしオーガニックワインは皆同じ味になってしまうから好きではない」。

・え?まさか。逆だろう。もしかしてあなたは亜硫酸無添加ワインのことを言っているのか?

「そうそう、亜硫酸無添加ワイン」。

・あなたのような立場の人が亜硫酸無添加ワインとオーガニックワインを混同するようではまずい。確かに前者は皆同じような味になる危険があるから安易には勧めない。しかし日本の輸入元は亜硫酸無添加にしろと要求して、生産者は困っているのでは?

「そうだ」。

・いつになったらクレマン・ド・ボージョレAOPが出来るのか?

「クレマン・ド・ブルゴーニュとして販売されているワインの40%がボージョレのブドウ。ブルゴーニュのネゴスにとってボージョレは必要」。

・そうやってブルゴーニュの植民地になっている状況をどう思うか。

「もちろん自主性をしっかり確立していくつもりだが、時間がかかる」。

・クリュ・ボージョレはお買い得な高品質ワインの代表。地域名ブルゴーニュより安いが、当然ずっと品質がよい。なぜ地域名ブルゴーニュのシェアを取る努力をしないのか。

「以前日本で、高級フレンチレストランでソムリエたちに参加してもらい、クリュ・ボージョレのプロモーションをした。その場では素晴らしいという意見だったがそのあと売れなかった」。

・それはそうだろう、クリュ・ボージョレの売り先は高級レストランではない。高級レストランにおけるワインは意味が違う。高額ブランドであることが重要だ。おいしいまずいだけの話ではない。中国と同じだ。中国の高級ワインを飲んだか。高いこと自体が目的なのだ。

「ああ、スクリーミング・イーグルの二匹目のドジョウ」。

・クリュ・ボージョレは実質価値のワインだ。パリの普通のビストロでクリュ・ボージョレを置いていないほうが珍しいぐらいではないか。ボージョレはフランスの美食の中心リヨンのワインではないか。クリュ・ボージョレがふさわしいのはフランス国内と同じくビストロだ。どれほどクリュ・ボージョレが食の楽しみを増すのか証明していかないといけない。10のクリュで大半のフランス料理はカバーできる。ではどのクリュがどのような料理に合うのか。

「ひとつひとつのワインとひとつひとつの料理を合わせるような考えは非現実的だ。食卓に一本あれば楽しくなるワイン、として認識してもらうべきだろう」。

・それはボージョレ・ヌーヴォーの戦略であって、クリュではない。一般消費者はそのような難しい話には反応しないとしても、レストランは正しいワインを正しい料理に対して提供するのが仕事ではないか。多くの生産地域が一対一対応のペアリングをイベントで訴求するが、確かにそれは間違いだ。そのような料理は二度と再現できない。私が言っているのは、もっとざっくりとしたルールだ。少なくともメインディッシュは鶏肉なのか豚肉なのか牛肉なのか決まっている。鶏肉にはシルーブル、豚肉にはレニエ、牛肉にはムーラン・ナ・ヴァン、鹿肉にはコート・ド・ブルイイ、そうだろう?我々には常識でも実際に日本で誰がそれを理解しているのか?

「鹿肉はそんなに食べないだろう」。

・いや、食べてもらわないと困る。いま日本では鹿が増えすぎて人間の畑を荒らす。どんどん食べないと!

「日本はボージョレ・ヌーヴォーのような例外を除いてコンシューマー主導マーケットではなくサプライヤー主導マーケットだ。消費者の自主性もないし、レストランにもない。圧倒的に輸入元主導、問屋主導、レストランは与えられたものを売るだけ、消費者は売られたものを買うだけであって、何が欲しいかを主張しない。日本人は誰もが圧倒的なワインの知識を持っている。世界最高レベルの知識だ。すべて知っているのに、知らないふりをして何も言わない。不思議だ。しかし輸入元にアプローチしてもクリュ・ボージョレはいらないと言われる。どこに向けて予算を使うべきなのか。

・それを私は聞きたい。

H市の人口は約10万。しかしH市の業務卸は2軒しかなく、その2軒であまたのレストランをカバーしている。ならばその2軒を味方につけるようにすればいい」。

H市?それはまたずいぶんマイナーな話だ。日本のワイン市場の7割は首都圏と大阪圏だろう。

「ワイン全体として見れば7割はそのふたつの市場。しかしフランスワインだけが日本全国にくまなく市場をもつ。それがフランスワインの強みなのであって、予算を東京と大阪にのみ投下するのは戦略的に間違いだ」。

・そこまで分かっているなら、やれ。

「ボージョレ委員会予算は9割がヌーヴォー用なのだ」。

・残り1割でもクリュのPRをやらなければこれからどうなる?未来は明るくはない。

「ワイン市場規模の拡大が見えない日本にあっては顧客の奪い合いしかない」。

・では地域名ブルゴーニュやコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュから客を奪え。ボージョレは軽やかで樽っぽくなくタンニンやアルコールが強くないワインを望む現代的嗜好にもとから合致している。パリのビストロ必須の基本ワインである。美食の中心リヨンのワインである。既に名前が知られている。それ以上なにを望むのかというぐらいアドバンテージがあるではないか。

 

 こうしてあっというまに1時間半経った。いかにガイヤックが面白いか、いかにフロントンがソーシス・ド・トゥールーズに合うか、といったどうでもいい雑談もあったが。そのあいだ議論に加わる他のジャーナリスト(何十人もいらした)は皆無。私など大した頭脳も知識も経験もないわけで、本当なら私なんぞと話すより他の方々のほうが彼らの役にたつ意見を言えるはず。そもそも私はフランス語ができないが、他の方々はできる。しかし、いみじくも皮肉めいて言われているとおり、「日本人は知っていて知らないふりをする」。冷酷だからか、それともプライドが高すぎるのか、私には分からん。せっかくの機会なのにもったいない。そのまま流れ解散。「みなボージョレには関心がないようだ」と言うと、「どうもそのようだ、考えたくもないが」。

 

2019.11.21

未輸入フランスワイン試飲会

通な味のワイン、フランスワイン好きのためのフランスワイン、つまり肩肘張らないフランスの普通の街場レストランに似合いそうなワインは、フランス大使館商務部が行うこのような試飲会にある。この言葉だけで、日本がかかえる問題を伝えたつもりだ

写真のワインが気に入った。どれもそれぞれのアペラシオンの個性をきちんと伝える、基本の味。消費者はこれらのワインを飲んで産地のイメージを正しく持つべき。しかしそういうワインほど輸入されない。私は周囲のプロ中のプロがどういう感想を語り合っているか耳をそばだてていた。いいんだけどこういうのは売れない、と何度も聞いた。日本は安いか、クセのあるビオか、メジャー品種か、売り文句満載か、のワインの国なのか。普通や基本が不在のまま珍奇に走れば、産地アイデンティティばかりか食文化が破壊される。タピオカ入りではないあんみつはいらない、チーズの入っていない明石焼は売れない、アボカド入りではない海苔巻きはだめ、と言われたらどうする?

 

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写真のロゼはプロヴァンスでは珍しく重心が低い。クロ・デュ・タンプル型。当然この味でなければ多くの魚介類に合わない。しかし日本は、プロヴァンスロゼ=薄い酸っぱい重心高い、を良しとするようで、どれもそうだ。で、ブイヤベース等と一緒に飲んでまずいと言う。なぜ美味しくて料理に合うワインを、変な類型への忠誠から自由に、選べないのか。いまや日本のプロは薄くて酸っぱいワインしか良いと言わない。それを彼ら彼女らは、エレガント、きれい、酸がいい、と言う。ウンザリだ。

 

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カオールは写真一番左がテラス2、残りがテラス3。10本ほどある中で、まずテラス3だけ試飲したいと言うと、何故3かと聞かれた。しかし3が平均して美味しいのは常識。3のボディ感と厚みと適度な骨格と重心中央が、和牛焼肉にぴったり。もちろんそこに4のミネラル感が加わると高級な味わいになって一番いいし、赤身熟成牛肉ステーキ的になるが、4はなかなかない。流行りの9は重心が高く硬くなかなか上下の立体感が出ないから、シンプルな鴨のグリル以外に料理がすぐには思いつかない。2はサッパリシンプル、土が軽い味でチキン的だった。

 

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Lavauというネゴシアンの一連の南ローヌはキャラクターが明確で良い。ムッチリしつつ酸がリズミカルなラストー、第三紀と白亜紀のブレンド(たぶん)でボリューム感と緊密さのバランスがよいジゴンダス、シラー比率が高くメリハリがあるヴァケラス、アペラシオン西部の典型的な味わいのシャトーヌフ。ドメーヌ・レ・グラン・ボワのラストーもゆったりして温かく、いかにも。冬になるとラストーの味噌味の鍋物っぽさがますます恋しい。ドメーヌ・ド・フヌイエのボーム・ド・ヴニーズは特徴的な華やかな香りと引き締まったミネラルのコントラスト、冷たさと流麗さがたまらなく魅惑的。優れた内容と知名度の落差が南ローヌで最も大きいアペラシオンだ。クロ・デ・カゾーのヴァケラスとジゴンダスは素直な性格で、それぞれの個性がはっきり。そして7ユーロ、9ユーロと大変にお買い得。前者にはラムもも肉ロースト、後者には鴨。これぞ普通のフランス料理のための正しく普通な、ごちゃごちゃ理屈のいらないワインだ。

 

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シャトー・ガイヤールのモルゴンは除梗タイプなのでフルーティ、かつ花崗岩なのでソフト。フルーリーに近い。イレギュラーとはいえ、こういうモルゴンもいい。そもそもフンワリタイプの畑のボージョレは全房発酵すべきか疑問だ。これまた完璧にビストロ味。勝手に頭の中で食卓の風景が描かれる試飲会だった。

 

プレミアムチリワイン試飲会

チリワインは三つの類型に分かれる。ひとつは安い大量生産ワイン。ひとつはマイポの高額カベルネを代表とするアイコン・ボルドー系。もうひとつは南部マウレやイタタの地場品種や地中海品種の無灌漑ワインである。

今回は2番目と3番目のカテゴリーのワインの試飲会。ワインはどれもハイレベル。自根ワインはやはり美味しい。チリ=スーパーマーケットワインというイメージが強すぎて損をしている。プレミアムチリワインは世界のどんな高級ワインにも比肩しうる偉大なワインだ。

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写真は、中でも優れていたもの。こうして久しぶりに飲むと、第2カテゴリーの代表たるドン・メルチョー、カサ・レアル、レ・ディスが、数多あるチリのカベルネの中でいかに傑出しているかが分かる。それぞれ、悠揚とした風格、繊細なディテールとミネラル感、ミニ・ラフィットとしか言いようのない高貴さが素晴らしい。今回は特にレ・ディスの作りの上手さと隙のない完成度に感銘を受けた。これで五千円とは安い。上質なカベルネを望むならまずはこれを買っておこう。

 

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注目は第3カテゴリー、マウレやイタタのパイス、カリニャン、サンソーだ。この話は何度もしてきたから皆さんにはお分かりいただいているはず。自根、無灌漑のナチュラルさは、それに一度気付くと他の作り込んだワインが飲めない。カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ソーヴィニヨンと比べて、味に無理がなく、スムーズに広がり、ビビッド。なぜ大半の人はメジャー品種ワインを買うのか。メジャー品種名のみを記憶し、味わいや料理との相性を品種名と結びつけているからだ。記憶している十程度の品種のワインしか買おうとしない。マウレのカリニャンの栽培面積比率はたった1パーセント。シャルドネみたいな、マウレの産地アイデンティティ確立の上では正直重要ではない品種が7、ソーヴィニヨンが14。表層的ワイン教育がもたらす品種中心主義はこうして世界のワインを歪ませる。品種名を買うのではなく美味しく個性のあるワインを買え、というのはそんなにおかしな主張か?マウレのカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロがまずいとは言わないし(ちなみにカベルネ・フランはなかなか見込みあり。細やかで上品)、数多の北方灌漑徹底依存地域のアントレ・コルディヘラス地区より良いとは思うが、それでもパイス、カリニャン(写真中、VIGNOとラベルに書いてある)、サンソーとは比較にならない。

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マウレ地区は北のクリコ・ヴァレーと南のマウレ・ヴァレーに分かれる。細かい話は今はいい。マウレの生産者、イレーネ・パイパのセミナーでは、質問時間に大変に役に立つ情報が得られた。冬季降雨と土壌保水性のバランスが良く、灌漑なしで栽培ができ、灌漑以前の歴史的な土地のことを、チリではセカーノと呼ぶこと。そしてセカーノの中心となるエリアは、マウレ27834ヘクタール中5438ヘクタールを占めるカウケネスであること。つまり、無灌漑ワインが欲しければ、カウケネス村に行け、だ。相変わらず質問時間すべてを私が独占してしまった。皆さんマウレに興味がないのか?いまマウレ(イタタやビオビオも含むが)に興味がないならチリワインに興味がないと言うに等しい。

自分にとってチリ最上のワインはセカーノの道端で売っている農家製ピペーニョだ。パイパさんに、ピペーニョの残糖について聞くと、発酵途中で売るから発酵し続けて泡が出ると。それがいい、と私が言うと、怪訝な顔をされた。工業メンタリティから脱して自然な味わいの魅力に自ら気付かないと、そこにある宝石が泥にまみれたままになる。もったいない。

今回のおすすめは、コイレのイタタのサンソーとミュスカに、ブションのパイス・サルバヘ。いや、これらは何時もおすすめ。考えられないほど安くて美味しい!

 

2019.11.19

ハンガリーワイン試飲会

東京プリンスホテルで行われたハンガリーワイン試飲会。おすすめは写真のワイン。ケクフランコシュは当然素晴らしい。オーストリアのブラウフレンキッシュよりさらっと流す感じで、これはこれで魅力的だ。微甘口でソフトで、重心が低く、かつ火山性と石灰(ここには珍しく石灰がある)のミネラルを豊富に備えたハールシュレヴェリュは、特にその2400円という値段を思えば、特におすすめしたい。甘口は写真のエデーシュ・サモロドニの2016年(写真は2017。間違えた)が良い。デカンター97点は決してウソではない。生産者に値段を聞くと8414円(妙に半端な数字は、現地価格17900フォリントを換算したものだろう)。サモロドニでこの値段(輸入されたらいくらに?)とは高くなったものだが仕方ない。なんと言っても畑はガッチリしたベチェックと酸が軽やかで繊細なキライの二つの最上のクリュ。この組み合わせは最強だ。

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しかしハンガリーは他の産地と比べて若干進歩が遅くないだろうか?よく分からないカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロが多すぎる。テロワールのポテンシャルはローマ帝国だって知っていたのに、それが十全に生かされているとは言いがたい。テロワールだけではワインにならず、そこに正しい品種を植え、正しい造りをし、正しいマーケティングをして正しい顧客に届けねば、せっかくの偉大すぎるほど偉大なテロワールが無駄になる。例えばヴィラニーのカベルネ・フランが素晴らしいのは常識だ(今回ももっとプッシュすべきだと思った)が、この品種の歴史は聞けば最近のことらしく、それ以前はブレンドだったと。本当にボルドー品種の単一品種ワインでいいのだろうか。それが本当にハンガリーの赤ワインの未来を担うのか。東欧諸国はいまどこも大変に頑張っている。このままではハンガリーは置き去りにされる危険がある。そして相変わらず、トカイの甘口ばかりが目立つ。トカイの甘口がいいのは分かっているが、出品されていたアスーは24000円だった。市場は極めて小さい。そこだけにハンガリー全体の名声を依存させていいわけがない。知ってのとおり私は昔からフルミントファン、ブラウフレンキッシュファンだ。だからこそハンガリーの歩みの遅さにもどかしい思いをしている。

ボルドー、ユニオン・デ・グラン・クリュ、2016年ヴィンテージ試飲会

2016年はボルドーでは文句なく偉大な年。たぶん将来にわたって語られるだろうぐらい傑出したヴィンテージ。以下の解説を見てのとおりだ。

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しかしワインは二つに分かれる。垂直性、立体感、力感があるもの、ペタっと水平的でエネルギーの弱いもの。ほぼ全てのワインを飲んで、前者は以下の写真のもの。基本的に、写真のワイン(プラス、ランゴア・バルトン)中から選び、あとはアペラシオンと格付け相応だと思えば良し。

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高密度、堅牢、ダイナミックなヴィンテージであり、集中型。この年で偉大なワインを作れないならいつ作るのかと思うが、それでも多くはフラット、シンプル、高重心。守りに入って無難なワインを作っているシャトー、大企業病に罹患しているシャトー、いまだに農薬味のするシャトー、そして早摘みシャトー。特に近年の早摘み病は2016年のような暑い年にこそ顕著。しかし多くの人はそれを、エレガント、きれい、酸の白痴三語で褒める。彼ら彼女ら人間の顔をしたターミネーターの包囲の中、残された健全な味覚を持つ人類に告ぐ。今この三語を組み合わせて使う人がいたら敵だと思え。垂直性、立体感、拡張力、包容力、浸透力、躍動感、下半身の安定感といった言葉を使う人がいたら味方だ。しかし味方の数は極めて少ない。

簡単な結論を言えば、
ベスト赤 Durfort-Vivans
ベスト白 Carbonnieux
ベスト甘口 Bastard-Lamontagne
この三つは必ず買っておこう。ついにデメテール認証を取得したデュルフォール・ヴィヴァンスは圧倒的。

早摘みターミネーターはどのワイン産地にもいるが、ボルドーにはもうひとつの巨大な敵がいる。ケバい酒好きブランド主義者である。この異星人の集団にはMIBの武器が必要となるため専門家に退治をお願いしたい。この異星人は概して過去と現在の区別がつかないので、現在のボルドーが十年前とはいかに本質的なレベルが異なるかが認識出来ず、昔記憶したブランド名の消費のみに終始する退行主義者である。この本質的違いを生み出しているのが除草剤の廃止、オーガニック化であることは言うまでもない。あの薬くさいエッジ感、えぐみ、固さは、現在のボルドーでは激減している。おかげで飲み口がよく、これだけ量を飲んでも気分が悪くならない。本来ボルドーは、テロワールから考えて、優しく温かくしっとりして馴染みのよい、ゆえに暮らしに寄り添うワインである。それを奇形化してボルドーが真価真髄を体現することを妨げているのは消費者の思い込み、押し付け、幻想である。ところがこの幻想が個人のアイデンティティの一部になっている以上、彼ら彼女らはなかなか幻想を振り切ろうとはしない。幻想を払拭したところにニルヴァーナがあるというのに!

入場した時に偶然、ボルドーのシャトー関係者と会ったので一緒に何種類かテイスティングした。その方の関係シャトーのワインを飲んで、どう思うか聞いてみた。「これではだめです」。「水平的で立体感がないのが分かるでしょう。こんなことでは恥ずかしい」。「それは分かっていて今テコ入れしています」。「しかし何をテコ入れするかが問題だ。理想の味のビジョンがなければ向上できない。ワインは建築であって、最終的な建築のためにそれぞれふさわしい要素がある。よいパーツを作ってそれらを組み合わせたらよい建築になるのか?既にパーツの質はよい。最大の問題はビジョンの欠如だ」。有名シャトーのワインを有名だからだと言ってヨイショしていないで、ダメなところをどうすればよくできるか考えて欲しい。毎度のことだが、彼ら彼女ら何百万人の専門家、ワイン通は、分かっているのに、なぜ言わない?そこに愛はあるんか?おかみさん!

それにしてもこの試飲会は大変に人気。600人限定、招待客向け。もちろん招待されていなかったのだが、オーガナイザーの方を知っていたのでお願いして入れてもらった。ありがたい。

イタリア、スローワイン試飲会

今年はなんでこんなにイタリアワイン試飲会があるのか。一回に何十人が来日し、それが毎月あるのだから、集合イベントと個別イベント合わせてゆうに年間千回のイベントか。今の日本はイタリアワインが売れて仕方ないようだから、彼らもますます積極的になる。いいことだ。数万、数十万種類の選択肢がある。ただし三千の品種と数え切れないアペラシオンとヴィンテージと造りを理解して日本に溢れる数万のイタリアワインから最適なワインを適材適所で選ぶには、ひたすら試飲し、何十年間も勉強するしかない。だからワインは楽しい!

今日はスローワインとイル・ヴィーニ・デル・ピエモンテ共催の試飲会が表参道ザ・ストリングスで行なわれた。ただ美味しいだけでなく、環境、歴史文化、伝統といった価値を重視したワインを選びのがスローワインだから、出展60余ワイナリーの多くはオーガニックかそれに準ずる栽培。結果として、通常の試飲会を遥かに上回る平均品質。彼らの選択眼は基本的に正しい。

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百本近くをテイスティングして特に印象的だったワインが写真のもの。なぜかトスカーナのレベルが低い。たくさん出品されていたが多くは早摘み味。中で最も印象的だったのはリエチネ。昔のボルドースタイルから随分と変わり、とてもナチュラル。エノロゴのカルロ・フェリーニがいない間に醸造責任者がのびのび作ったリエチネ・ディ・リエチネは、技術的な未熟さ(VAの多さ)はあるものの、ワイン自体の自由なエネルギーを発露させるままにする方向性は正しい。カルロが戻ってこれからどうなるか楽しみだ。

 

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写真のバローロ二本は、それぞれのクリュの個性がよくわかる。フンワリした表層の滑らかさ、優しさの中にがっしりしたダークなパワーと鉄っぽさを秘めるAurelio Aettimoのロッケ・デッラヌンツィアータ、かっちりと滲みのない構成と疎密のむらのない充実度のスタイリッシュなFranco Conternoのブッシア。ロッケ・デッラヌンツィアータを最後に飲んだのは十年近く前、ブッシアは五年前だが、テロワールが変わるわけではないのだから、記憶の中の味わいと当然ながらそっくりだった。いつかピエモンテでのバローロの試飲会には行ってみたいものだ。もちろんバローロもいいが、値段の大差を考えると、Anna Maria AbbonaのLanghe Nebbioloが特に気に入った。チャーミングな赤系果実と花の香りにまろやかな酸。ふわっとした広がりがいい。バローロは、というか多くの樽熟成ワインは内向きの力が強くなりすぎてスケール感・気配の広がり感が出ない。

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プロセッコはValdobbiadeneのBorgoluce、ConeglianoのBaldi、AsoloのCase Paolinがそれぞれの土地のキャラクター、つまりすっきりとした垂直性と流れのよどみのなさ、ふくよかな広がり感と適度な骨格、緊張感のある硬質なミネラルと酸、といった個性を大変によく表現している。ワインだけで飲んでいると、個人的にはAsoloの拒絶的なかっこよさが結構好きだが、これだけの硬質さに対しては砂肝の焼き鳥以外、正直なんの役に立てればいいのかは悩む。プロセッコが通常登場する文脈においては、つまり前菜、つまみ系の小ポーションの比較的柔らかい料理に対してはConeglianoが一番適合性があるだろう。Baldiは今年からオーガニック認証がおりる、注目の生産者だ。畑は斜面。そこがポイントだ。それにしてもプロセッコは、プロセッコという名前にあぐらをかいたワインが多すぎて困る。本来は実に繊細で上品で細やかなディティールのあるワインだが、農薬に依存していてはディティールが出てこないからただの軽い泡でしかなくなる。オーガニックであることは前提だ(BorgoluceとCase Paolinはオーガニック)。

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フリウリではコッリオのRobert Princicのマルヴァージアがよかった。というか、最近マルヴァージアの出来がどこでもよい。昔はこの品種は不愛想で固くて本来備えている華がなかなか出てこなかったが、地球温暖化ゆえによく熟すようになったのか、以前よりふくよかさが出てきて酸のバランスも向上。それでもアルコールはフリウラーノのようには高くならない。

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エミリア・ロマーニャではCantina della VoltaのLambrusco di Sorbara Trentasei 2014のビビッドな酸とミネラルを軸とした精悍な辛口の味わいが気に入った。そしてI Sabbioniのベーシックなステンレス熟成のサンジョベーゼ、I Voli Dei Gruccioni 2016。ワイナリー名から分かるとおり、砂質土壌。しなやかでチャーミングで軽やか。飲んだ瞬間、「ああ、ロマーニャのサンジョベーゼ!なんとスムースで上品な味!」と言うと、オーナーの女性は「でしょう?トスカーナとは違うでしょう?」と。その通りであって、トスカーナ=サンジョベーゼであってもサンジョベーゼ=トスカーナでは決してない。LurettaのGutturnio Superiore 2016も素晴らしい。バルベーラとボナルダのブレンドであるこのDOCのワインは、単体で飲んでいるとやたらにごつく感じる。バルベーラは酸が強いし、ボナルダはタンニンの粒が大きい。オーナーは「Gutturnioを知っているのか、小さなDOCだし無名だ」と言うから、「大好きですよ。行ったこともあります」と言うと、オーナーは「それは珍しい」。「このワインのよさは、単体だとワイルドなのですが、脂肪の多い食品と合わせるとこのごつさが脂肪と噛み合わさっておいしくなること。イタリアワインは料理が分からないと理解できない」。「それがイタリアワインだ。Gutturnioはサラミやチーズと合わせるワインだし、それを前提としている」。

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プーリアのAmastuolaのPrimitivo Lamarossa 2015 は、よいテロワールの味がするプリミティーヴォ。この品種がジャミーでシンプルと思ったら間違い。ここは石灰岩の山のふもとで、ワインはしっかり石灰の味がする。

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アブルッツォはValori、Tenuta Masiangelo両者ともにモンテプルチアーノもいいが、さらにペコリーノがよかった。ペコリーノは魚料理には必須。酸っぱすぎず、適度なグラもあるから、脂ののった日本の魚にはぴったりだろう。正直、昔はペコリーノの表層性が好きではなかった。というか、マルケで成功したからアブルッツォに移入された、ある意味で外来種だから、ワインに深みが欠如していた。今では落としどころが分かってきたようだ。

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シチリアのTenuta di CastellaroのNero Ossidianoはコリント・ネーロ品種の赤ワイン。黒系果実と黒系スパイスの香りで、タンニンは強いもののまろやかで、質感に厚みがあり、けっこう神経質さのあるネロ・ダヴォラやネレッロ・マスカレーゼよりアジア的寛容さがあって親しみやすい。ギリシャやトルコにもある品種だが、追求する価値がある。

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今回のベストを選ぶなら、ピエモンテ、La Colomberaのティモラッソ品種のワイン、Il Montino 2017だ。イタリアの白はすっきりさっぱり固いものが多く、重厚な冬のメインディッシュ向きではないが、これはリッチで腰が落ち着いて、熟成チーズやクリーム系ソースの料理向き。シャルドネと似たところもあり、しかしシャルドネより親しみがあって香りが華やか。もっと知られるべきワインだ。

 

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