ワインセミナー

2019.12.12

シャンボール・ミュジニー ドメーヌ・ユドロ・バイエ当主来日セミナー

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元空軍エンジニアだけあって細部に至るまで遺漏なく緻密、しなやかでいて十分な凝縮感があり、行儀のよい味でいながら冷たさとは無縁で、人肌の温かさを漂わせるワイン。シャンボールの人気ドメーヌ、ユドロ・バイエ当主ドミニク・ル・グエン氏が来日し、アカデミー・デュ・ヴァン青山校でセミナーを行った。

コトー・ブルギニヨン、ブルゴーニュ・ルージュ、オート・コート・ド・ニュイ赤(珍しくもシャンボール村のオート・コート、生産者は二人のみ)、同白、シャンボール・ミュジニーVV、一級レ・シャルムの2017年を試飲。どのワインもクリアな果実味。完全除梗、種より果皮のタンニンを重視したルモンタージュ、控えめな新樽使用といった醸造。グイヨ・サンプルのバゲットを通常の倍の80センチにまで伸ばし、果房間のスペースを取って風通しを良くし、カビ害を防ぐ工夫も、そこに一役買っているだろう。栽培はシャンボール村の多くの生産者と同じく除草剤・殺虫剤不使用。シャンボール村は生産者の仲がよく、16人全員団結して環境保全に取り組んでいるそうだ。ル・グエン氏はラグビー選手だったし、彼の長男はパラ・ラグビーのフランス代表選手だから、ここで使うべきはOne Teamという流行りの言葉だ。環境問題へのあるべき姿勢はそれしかない。彼はさらに努力して国が定めるHVEレベル3を近々取得予定。これからさらに美味しくなるだろう。

レ・シャルムが魅惑的なのは当然として、今回印象的だったのはブルゴーニュ・ルージュ。珍しく重心が低く、厚みがあり、適度にざっくりとして、しかし品が良く、家庭用にぴったり。底魚にも合うだろう。鶏肉用、マグロ用のブルゴーニュ赤は山とあれど、豚肉用、白身魚用は少ないだけに、このワインの有用性は覚えておきたい。この品質で3900円(希望小売)とはありがたい。

2017年は開花が3、4日という極めて短期間で終わった、典型的な集中型。ミルランダージュもなく、香りはフローラルでチャーミング。シャンボールにはぴったりのヴィンテージだ。

 

2019.12.02

イヴニング・ランドとサンディのワインメーカー、サシ・ムーアマン来日セミナー

今年出会ったアメリカのワインの中でも最も印象に残るのが、オレゴン、イオラ・アミティのドメーヌ、イヴニング・ランド。そしてカリフォルニア、サンタ・リタ・ヒルズのネゴシアン、サンディ。両者のワインメーカーを務めるサシ・ムーアマン(本名はムサシ。母親は日本人)が来日し、ワインジャーナリスト向けのセミナーを行った。

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サンタ・リタ・ヒルズは北半分が砂質土壌、南半分がダイアトム土壌。当然後者のほうが緻密で複雑で余韻が長く、個人的にはよいと思う。サンディが使うのはダイアトム土壌のみ。ベーシックなシャルドネもピノもブドウの半分は、サンディやイヴニング・ランドと同じオーナーでサシがワインメーカーを務めるプレミアム・ワイナリー、ドメーヌ・ド・ラ・コートの格落ち、残り半分は買いブドウ。サンタ・リタ・ヒルズはブルゴーニュ品種にとってはカリフォルニアの中でも最上の地域だから、ベーシックと言っても基礎的レベルが高い。

圧巻はかの有名なサンフォード&ベネディクト畑のピノ・ノワールとシャルドネ。1972年に自根で植えられたサンタ・リタ・ヒルズ最高樹齢のブドウ。そして適度な粘土と石灰岩と円形劇場的地形が通常のサンタ・リタ・ヒルズとは違う厚み、スケール感、下半身の座り、強いミネラル感を生む。私は昔からサンフォード&ベネディクトのファンだが、サンディが造るワインは、独特の気品と緻密さと奥行きがある。いかにもな紋切り型イメージのむっちりフルーティなカリフォルニア・ピノを前提して飲んだら、この冷涼でタイトな構造と透明感あるくっきりとした酸(総酸10グラム、pH3.0と、シャンパーニュのヴァン・クレールと並んで最も酸の高いピノ!しかし熟した果実味があるからそこまでの酸とは思えない)としなやかなタンニンに衝撃を受けるだろう。しかしそれこそ夏はブルゴーニュより涼しく、冷風が吹き、朝には霧に覆われる、ハングタイム110日から120日に達する(ゆえに果梗が熟して全房発酵しても青臭さが皆無)サンタ・リタ・ヒルズの特徴なのだ。サンディは畑ごとのキャラクターを生かし、垂直的品質分類ではなく水平的バリエーションで商品構成するのがコンセプトのワイナリーなので、どの畑のワインも同じ値段。つまりは〝グラン・クリュ〟であるサンフォード&ベネディクト畑も他と同じ値段。建前はともかく、サンフォード&ベネディクト畑の実力を知っているなら、こんなに有り難い話はない。試飲したのは2016年だが、2018年からはオーガニックだと聞いた。これからさらに美味しくなるということだ!

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オレゴンのイヴニング・ランドは標高200メートルほどの玄武岩土壌の畑。高い土壌pHのサンタ・リタ・ヒルズに対して、こちらの土壌pHは恐ろしく低く4.5。高いか低いかだとブドウの窒素吸収が阻害され、困難な状況で酵母が働くことで複雑性が出てくるとサシは言う。また彼のシャルドネに特徴的なガンスモークの香りは、酵母が不足する窒素ではなく硫黄を食べることで生まれるとか。「ではなぜピノだとその香りが出てこないか」と聞くと、小さな樽の中で酸素がない状態で発酵されるシャルドネと異なり、ピノの発酵は上面開放桶で酸素が供給され、その酸素がガンスモークの香り成分分子を別の物質に変化させるからだ、と。いずれにせよ、あのガンスモークの香り(ドメーヌ・ドーヴネイやコシュ・デュリのムルソーにも似る。そういえばイヴニング・ランドは創立当初はドミニク・ラフォンが関わっていたワイナリーだ)は肥料まみれになっていない優れた土の証左なのだ。

イヴニング・ランドではこれからピノをシャルドネに改植したり、新しい畑にはシャルドネを植え、ピノとシャルドネの比率を7対3から半々にまで持っていくらしい。しかし個人的にはピノのほうがずっといいワインだと思っている。なぜならピノのほうがスケールが大きく、調和がとれ、特に下半身がしっかりして、余韻が長いからだ。そう言うと、「ほとんどのソムリエはシャルドネを絶賛する」と。ふーむ。確かにオレゴンのシャルドネにはたいしたものがないから、それを思えば彼のワインははるかによいのだが。。。私にとっては彼のピノ・ノワールの区画限定トップキュヴェ、ラ・スルスは今まで飲んだオレゴンの中でも最高のワインのひとつ。さすがビオディナミ(2007年から) 。アーシーさと黒系果実とザクロと黒系スパイスの香りに、厚みのある果実味とベルベット的なタンニンと酸はいかにもオレゴンだが、太くしっかりしたミネラルの構造があり、かつ田舎風味にならずにスッとした抜けのよさもある。しかしオレゴンはハングタイムが90日と短く、夏はカリフォルニアより暑いから、メリハリを出すのが難しいらしい。「サンタ・リタ・ヒルズでは果実味と酸のコントラストが自然と得られるのに対して、酸がソフトなオレゴンでは香りと果実味を上手に対比させていく技術が必要」だと。その技術もさることながら、それぞれの産地のそれぞれの魅力をかくも美しい形で描くセンスが素晴らしい。味わいは優しく、温かく、理知的すぎず(これが難しい。多くのカリフォルニアは左脳的な味がする)、控えめながらも芯がある。この美点が、オーナーはインド人、サシは日本人ハーフであることと無縁だと言えるだろうか。

2019.11.28

ドメーヌ・ド・ラ・ベギュード当主、ギヨーム・タリ来日セミナー

バンドールを語る上では不可欠の有名生産者。しかし、バンドールの代表、と言っては語弊がある。三畳紀基本、あとは白亜紀の地質のバンドールにあって、標高400メートルの高地に位置するラ・ベギュードの畑の大半は珍しくもジュラ紀の 石灰岩。土の色は例外的に赤っぽい。しかしここはバンドールになくてはならない、先端的かつ品質最高レベルのドメーヌだ。その当主ギヨーム・タリが来日して試飲会、セミナーを開催した。

 

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ギヨーム・タリにはドメーヌでずいぶん前に会った。ランチまでご馳走になった。敷地は500ヘクタール。建物は中世の小村落跡全体であり、黄金比で作られた旧教会をセラーにしている。ブドウは棒仕立て。伸びた新梢を途中から下に曲げる、まるでモーゼルのような形。ないし、棒仕立てのまま畝全体にハイ・ワイヤーを渡し、そこに新梢先端を這わせる。いずれにせよ夏期剪定なし。手間はかかるし、杭は定期的に打ち直す必要があり、費用もかさむ。しかし通常の垣根より品質が良いと言う。葉を切らないから光合成量が多い、と説明するが、それだけではないだろう。同条件でコルドンとゴブレの味を比較したことがある。後者の方が広がりやふくよかさがあった。あのワイヤーに身体全体が磔にされたような垣根に不自然さを感じないほうがおかしい。もちろん昔はどこでも棒仕立てだった。彼らはその伝統を守る、いや再発見した貴重な存在だ。そしてその利点、エキストラエネルギー感と空気感でも呼ぶべき特徴は、確かにワインから感じられる。バンドールのみならず多くの生産者が棒仕立て密植に戻って欲しい。

労賃がかさむ、人手がいない、と言うから、「バンドールの海の向こうから安い労働力が手に入るのでは?」と聞くと、「確かに海の向こうから沢山の人が来る。しかしフランスでは同一労働同一賃金の法則が厳格に実施される。人間の仕事の間に上下の差別があってはならない。フランスの例のデモンストレーションもその法則の徹底化を要求している。賃金が高いから外から沢山人が来るとも言える。だとしたら同一賃金を外国の未熟練労働力に払うのはワイナリーにとって二重の困難だ」。「それを言うなら、ミシュラン星付きレストランは全員に正当な賃金を払っているのか。未払い労働力に甘えるフランス料理店のシステムは是正されるべきだ」。「うーむ、あれは勉強させてもらうという理由で自主的に働いているわけで」。「それは建前。きれいごと」。まあ本題とは関係ない話だが。

 

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バンドールの主要品種はムールヴェードル。ラ・ベギュードでは122種類のムールヴェードルを集めて畑に植えている。「苗木は買ったことがない。他の人たちがうちに買いに来る」。少しずつ異なるブドウが複雑性、ディテールの豊かさを生み出す。畑も広大な敷地に点在し、ジュラ紀のみならず三畳紀の地質からのブドウをもブレンドすることで、これまた複雑性、ディテールの豊かさを生み出す。力強いとはいえ奥行きに欠ける普通のバンドールと比較すれば、この特徴は誰の目にも明らかになる。「単一品種、単一土壌ワイン流行りだが、私はブレンドによる複雑が好き」と言うと、「私もそう思うからそうしている」。それは言うは易し行うは難し。下手は乱雑で水平的なワインを、つまり要素が殺しあうようなワインを作りがちだ。ラ・ベギュードのバンドール赤2016年を飲んでみる。なんとフォーカスが定まり構成が整っていることか。「ボルドー的」と表現すると、「そう、ピシッと垂直的」と誇らしげだ。さすがタリ家はシャトー・ジスクールの長年のオーナーだっただけある。どこかボルドー的な味わいなのは、血がなせる技だろう。

常に議論の的となるのがバンドールの樽熟成18か月というAOPの規定だ。正直、彼のワインでさえ樽熟成がそこまで必要なのか疑問だ。長期樽熟成は果実味を減じるし、余計なタンニンを付加してしまう。元々の素材が最高なら、そのものを真っ直ぐに出したらどうなるのか興味がある。「バンドールこそ歴史的に見てもアンフォラ熟成が相応しい」と言うと、「私もその規定に反対で、熟成期間はそのまま熟成容器は自由にすべきだとINAOに働きかけてみたが、彼らは頑固だ。アンフォラ熟成は認められない」。「そうですか?私はアンフォラ熟成されたバンドールをあるドメーヌで見ましたよ」。「ああ、Lさんか」。しかしバンドール委員会会長が自ら規定違反の確信犯になるわけにはいかない。

 

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バンドールは伝統的に赤ワイン産地であってロゼワイン産地ではない。しかしプロヴァンス=ロゼという観念は消費者のみならずプロの間でも根強い。広大なプロヴァンスの全てが同じだと思ってはいけない。それは世界的な誤解であり、「今やバンドールの生産量の7割以上、いや8割近くがロゼ」だと言う。さすがにラ・ベギュードは半分が赤ワイン。とはいえロゼがまずいわけではない。薄くピンク色をした水ブラスアルコールでしかないプロヴァンスの安価低質大量生産ロゼは、一部のニュージーランド・ソーヴィニヨン・ブランと並んで人をバカにしたワイン。それに慣れてそれを基準にしている人には、ここのロゼは衝撃的なほど濃密で実体感がある。色も濃いが、これで直接圧搾法とは信じがたい。極低収量ゆえだ。

姿形は上品。しかし三畳紀のバンドールと異なり、しっとり冷たい気配ではなく、ジュラ紀らしい暖かい力強さを内面に秘める。そのコントラストの魅力は、ラ・ベギュード独自の個性である。鴨料理と合わせて楽しんで欲しい。

2019.11.15

『スウィート・ボルドー』のテイスティング・セミナー

ボルドーは伝統的に甘口ワインの産地である、と忘れてはいないか。1855年の格付けで最上位はイケムだと、一級は赤だけはないと。しかしソーテルヌとバルザックだけが甘口ではない。実は中甘口ワインの素晴らしい産地がいくつもある。私が好きなボルドー、ボルドーでしか得られない独特の個性の精華が、それら甘口マイナーアペラシオンである。しかし甘口は生産量の1%に過ぎず、積極的にPRしてこなかった(するだけのお金もなく、生産者もややあきらめ気味だった)。今回、彼らはスウィート・ボルドーと銘打って積極的な活動を始めた。これで少しは認知もされる。ボルドー中甘口ワインファンとして、こんなにうれしいことはない。

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甘口ワインは、特に極甘口であるソーテルヌやバルザック以外は、デザートワインという役割のみに終始するわけではない。食中酒としての個性。それが今回のイベントの主眼である。甘さは滑らかさ、流速の遅さである。ワインの甘さに対応する甘さが(同調的相性)、もしくは塩辛さが(対比的相性)が料理にあれば、スウィート・ボルドーは驚きに満ちた美食の満足をもたらす。

使いこなしにおける重要な着眼点は土壌である。砂礫質なのか、粘土石灰質なのか。これで質感、酸、重心が決まる。フォーカスが緩くソフトで酸が低く上方定位する前者と、その逆の(重心はそれほど下がらないのだが、相対的には)後者である。ボルドー・シューペリュール、グラーヴ・シューペリュールが前者の代表だし、サン・クロワ・デュ・モンとルーピアックが後者の典型といえる。

今回は一期一会的クリエイティブ和食との相性が提示されたが、毎度言うように、創作料理はその場では美味しいかも知れないが再現性がなく、一般家庭での応用につながらない。こんな豪華な会場でなくていいから普通の場所で普通の料理とどれほどスウィート・ボルドーが合うのかを証明して欲しかった。私は知っているからいいし、私の記事を読んでいる人も分かっているからいい。しかし会場を見渡すと一般誌の若い女性の記者多数。彼女らにはサン・クロワ・デュ・モン、セロン、ルーピアック、カディアック、プルミエール・コート・ド・ボルドー、コート・ド・ボルドー・サン・マケール等々それぞれがどういう一般的料理になぜ合うのかといった点をかみ砕いて伝えつつ実際に証明して見せないといけない。後日聞いたところでは、日本サイドではそう思っていたらしいが、フランスサイドでゴージャスにしたかったと。そういう発想そのものがかっこわるい。

2019.10.06

グルナッシュ・マスタークラス

グルナッシュはこれからますます注目すべき品種。乾燥・高温に耐えるこの晩熟品種の特徴は、地球温暖化によって旧来の産地と品種の組み合わせに疑問符がつくようになってしまった現在、大きな可能性を約束する。そしてグルナッシュは飲む者に緊張を強いらず、タンニンが少なくふっくらソフトで酸が低い、極めてフードフレンドリーな、特に日本の家庭には必須の品種だ。

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ギャプランワインアカデミーで開催されたマスタークラスは、珍しくもグルナッシュに特化。講師は、『ヨーロッパ産ガルナッチャ/グルナッシュ・ファインワイン・プログラム』の副プロジェクトマネジャー、エリック・アラシル氏。初めて聞く名前の組織だが、EUの資金による、スペインのガルナッチャ・オリジェン協会とフランスのルーションワイン委員会両者の共同プロジェクトだ。

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参加アペラシオンを見ると、中世アラゴン王国とその従属国マヨルカ王国(首都はペルピニャン)の復活のようだ。確かにガルナッチャ、グルナッシュの栽培地はプロヴァンス伯領やサルディーニャ王国を含めてまさにアラゴン連合王国領域と相当程度重複する。しかし今回のプロジェクトに参加していない重要な産地がある。ガルナッチャといえば、エンポルダ、ペネデス、プリオラト等はどうした?つまりカタルーニャ君主国エリアだ。なぜ、と聞くと、「もちろん最初はカタルーニャを含めて計画していたが、途中から彼らは取りやめた」。うーむ、せっかくガルナッチャに光を当てようという素晴らしい企画なのに。栽培面積世界7位という大メジャー品種の割には一般消費者の認知が低いガルナッチャ・グルナッシュ。正当な地位のためにはこうしたEUによるPRが必要で、そのためにはカタルーニャ君主国の独善的な態度を改めてもらわないと。

ところで、プレゼンに使用された世界のグルナッシュ産地の地図の中にはもちろんオーストラリア(全世界中0・89パーセントでしかないが)も入る。しかしそのエリアの位置がへん。西オーストラリアの中央。人の住んでいないような場所。オーストラリアのグルナッシュ産地はバロッサやマクラーレン・ヴェールなのに。「ああ、わかってる。この地図は僕が作ったものではない。でも今まであちこちのマスタークラスでこの地図を使ってきて、この間違いを指摘したのは君だけだ」。バロッサのグルナッシュがどれほどおいしいのか知っていれば、ここで、ちょっと待ってくれ、と言うだろうに、ようは世界中、オーストラリアのグルナッシュに興味がある人は誰もいないということだ。悲しい。

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テイスティングしたのはすべてルーション。スペインはどこへ?講師がルーション人だから?興味深いことに、単一品種ワインは皆無。グルナッシュ単一品種ではまともなワインにならないと暗に示しているのか?それは間違いではない。白ならマカブー、赤ならカリニャンといった性格の異なる品種と合わさってコンプリートな構成のワインになるのは事実だ。単一品種ワイン以外認めようとしない日本で、グルナッシュと表記してあるワインがないに等しいことが、この品種をマイナーな地位に追いやる原因か。

概してルーションのグルナッシュはラングドックのグルナッシュより固くて酸が高くて重心が高い。南端の産地という先入観でルーションに接すると戸惑うことになる。表土が薄い斜面や標高の高さといった要因が考えられるだろう。アラシル氏は樹齢の高さ(畑の50%が樹齢50年超)も理由に挙げていた。しかしながら必ずしも昔からそういう重心の高い味だったわけではない。この十数年でスタイルが変わり、早摘み傾向が目立つ。酸の高さと香りの冷涼感とアルコールの低さを普遍的評価基準とするようではこの傾向は不可避だ。ゆえに早摘みとは無縁の酒精強化ワインと辛口ワインの質は、私の見方からすれば、生産地の意図とは逆に、むしろ開く。回りくどい表現になったが、今回テイスティングした酒精強化ワイン、特に最後のリヴザルト・アンブレは圧倒的。この生産者、ブリアルは、フランス最優秀協同組合に選ばれ、このワインは世界グルナッシュコンクール金賞を獲得したそうだが、それも当然に思える。酸量の計測値は世界最低レベルだと。しかしこのビビッドさ、酸の鮮やかさはどうだ。ここには何か真理がある。個人的には変な辛口志向に振らず、世界屈指の偉大なワインであるルーションの酒精強化ワインを積極的にPRした方が世の中のためになると思う。世界の酒精強化ワインの6割、フランスの8割が実はルーションなのだ。しかし普通のワインファンに代表的な酒精強化ワインの名前を挙げてくれと聞けば、シェリー、ポート、マデイラ、マルサラと、イギリス主導のワイン教育の成果が明らかな、実質イギリスワインの名前が並ぶだろう。この偏ったイデオロギーを正す方が先だ。リヴザルト・オー・ダージュと東坡肉を合わせて食べたい!

 

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今や畑の55%がビオディナミ、オーガニック、HVEだというルーション。テロワールも栽培も文句ない。私にとって問題点は二つある。ひとつは、北方産地のキャラクターを絶対視して南方産地にそれを無意識のうちに強要する風潮である。辛口でアルコール15度を恐れるな、それでもアルコールが上がり過ぎるなら、パレリャーダを2、3割混醸せよ。その前にパレリャーダをラングドック・ルーションの認可品種にすべく運動せよ。問題解決の道筋をざっくり言えばそうなる。もうひとつは、EUが自根ばかりか混植を禁止していることだ。日本の主流たる単一品種主義者は快哉を叫ぶだろうが、混植が伝統の南方産地にとって、それはワイン文化の破壊以外のなにものでもない。それに気づいている人はあまりに少ない。ワインの勉強とは、公的イデオロギーを無批判的に内面化して迷惑にもそれを無垢な素人に押し付けるためにするとでも思っているのか。違う。政治経済的思惑にまみれた公的イデオロギーが本当に正しいのかを自分で考え、判断するためにするのだ。

 

2019.07.14

サン・シニャン

 23を数えるラングドックのAOPの中でもとりわけ重要なアペラシオンがサン・シニャンだ。しなやかな上品さ、透明感、熟したまろやかなリッチさときめ細かさの高度な両立といった点で、サン・シニャンはラングドックのみならずあらゆるワインの中でも傑出している。もちろん私も個人的に大好きなワインだ。

 サン・シニャンは広い。13500ヘクタールのコルビエール、10000ヘクタールのラングドック(しかしこれは広域アペラシオンだ)、5000ヘクタールのミネルヴォワに続く、3300ヘクタールという広大な面積。ゆえにワインを見かける機会は比較的多い。ところがそれだけにサン・シニャンは、大量生産系産地なのか、それとも高級ワイン産地なのか、一般消費者にとっては分かりにくい立ち位置にある。

 もうひとつ、サン・シニャンの理解を難しくしている点は、その地質が一様ではないからだ。ラ・クラープならすべて白亜紀の石灰だし、フォージェールならすべてシスト。ところが広大なサン・シニャンは、山はシストや砂岩、そして麓は石灰岩。ジュラ紀か三畳紀か、といった同じ石灰岩の違いでさえ味わいに与える影響は大きいというのはアルザスやジゴンダスの例を見ればわかるとおりだが、数億年の時間差がある山側のオルドヴィス紀と麓側のミオセーンでは、同じアペラシオンでいいのかと不安になる。

 だから山側のベルルーとロックブリュンが独立したアペラシオン制定へと動いているのは理解できなくもない。サン・シニャン・ベルルーとサン・シニャン・ロックブリュンは確かに優れたワインであり、エリアが極めて限定され、すべてシスト土壌であるがゆえに、アイデンティティの確立はしやすい。品質的には両者は十分にクリュに値するし、実際に彼等はクリュを目指している。

 ここで問題なのだが、では石灰のサン・シニャンはシストのサン・シニャンに劣るのか。ベルルーとロックブリュンがクリュになれば、当然それ以外は劣位のアペラシオンだというメッセージになる。それは間違った誘導である。石灰岩のほうがシストよりはるかに多いラングドックでは、シスト優位などありえない考え方。これはサン・シニャンだけの話ではなく、全ラングドックへの価値尺度につながっていく話だ。そもそもサン・シニャンの三分の二は石灰岩なのだから、サン・シニャン全体会議なるものが仮にあったとしても、当然それは否決されるだろう。そして、これが最も重要な点で、石灰岩のサン・シニャンもシストのサン・シニャンもどちらも同じく高品質なのだ。

 ではサン・シニャンらしさというのは、シスト、砂岩、石灰岩の差を超えて、共通に存在するのか。それが今回の講座で確かめたかったことだ。結論は、存在する、だ。サン・シニャンはどれを飲んでも圧倒的な細やかさ、垂直性、流れのきれいさ、姿かたちの整いがある。その個性は数年前より今のほうが明確に、純粋に、表現されていると思う。久しく遠ざかっているなら、現在のサン・シニャンがどれほどのレベルに到達しているのか、試してほしい。生産者たちはさぼってはいない。

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 写真左から順に番号を振るなら、1本目はミネルヴォワ。サン・シニャンのすぐ西隣だ。この生産者は大変に頑張っていて、このワインも樽、タンク、アンフォラと容器を使い分けて複雑さを生み出している野心作だ。ミネルヴォワとしてはレベルが高いし、相応の値段もする。しかし2本目の安価なタンク熟成サン・シニャンと比較すると、参加された方々は全員、サン・シニャンは次元が違う、と言う。余韻や伸びやエレガンスが違う。ミネルヴォワも2本目のサン・シニャンも、イオセーンとミオセーンの違いはあれど第三紀石灰岩の土壌だが、両者はなにか根本的に違う。この2本目の素直さ、ピュアさは本当に素晴らしい。未輸入なのが残念だ。とはいえミネルヴォワはミネルヴォワの個性がしっかりあるので、それを楽しめばいい。たとえて言うならミネルヴォワは牛もも肉をあらびきにしたハンバーグのような味だし、サン・シニャンはラムのひれ肉のローストのような味だ。3本目は2本目と同じ生産者の、サン・シニャンのアペラシオンの外にある畑から。これはバッグ・イン・ボックスや量り売り用の、完全地元消費用超廉価ワイン(1リットル1.7ユーロ!)。沖積土壌らしい。それを私自身が瓶詰めした(もちろんただ詰めたわけではなく、それなりの処置をしてある)。それですら、ミネルヴォワよりも上質というか、サン・シニャンと共通する何かが確実にある。実際、このワインは値段を考えれば信じがたく優れたワインで、素直でおいしい。こんなレベルのワインが200円でできてしまうなら、ラングドックはどれほど恵まれた、素晴らしいポテンシャルをもった土地なのかと思う。

 4本目はロックブリュンのシストであり、5本目は砂岩。それでもサン・シニャンはサン・シニャン。2本目と4、5本目の違いは、1本目と2本目の違いよりはるかに小さい。つまり、サン・シニャンは、ひとつのアペラシオンとしてきちんと成立している。INAOおそるべし。地質・岩石の違いを上回る何かの要因がサン・シニャンにはあるということだ。しかし気候を調べたところで隣接するミネルヴォワやフォージェールと大した違いがあるはずもない。実に不思議だ。この滑らかさ、しなやかさは明らかに海の影響だと思うのだが。。。。

 最後に白2本。サン・シニャンは赤89%、ロゼ10%、白1%という生産比率だから、白は希少。日本で見かけることもない。白のほうが赤よりずっとパワフルで、ごつい。最後の白は珍しくもシスト、砂岩、石灰岩のワインのブレンド。確かに複雑だが、若干バラバラ感がある。それは解決できる範囲だと思う。その欠点を差し引いて考えるなら、単一地質にこだわる必要はまったくなく、むしろこのように3つの地質があること自体をサン・シニャンの特殊性、個性と考え、積極的にワイン造りに生かしたほうがいいと思える。最近はどこでも誰でもテロワール別キュヴェを複数造って商品構成するが、それだけではもったいない。

 

2019.03.28

ドメーヌ・ツィント・ウンブレヒト当主、オリヴィエ・ウンブレヒトのインタビュー

 アルザス最高の生産者のひとり、ドメーヌ・ツィント・ウンブレヒトの当主、オリヴィエ・ウンブレヒトが来日し、セミナーを開催した。その詳細なレポートは他のワインジャーナリストの方々が書かれるだろうから私の出番があるとも思えず、またセミナーの内容の大半はこれを読まれている方々には既知の事柄だろうから、それを書いても退屈させてしまい申し訳ない。だからここではオリヴィエのセミナー内容はほぼ省略して、彼への個人的なインタビューを書くことにする。

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                  ▲アルザスを牽引してきたオリヴィエも来年で引退、ドメーヌは

                   次世代に引き継がれる。

 

OH「発酵熟成はアルザスのオークの大樽で行う。もし樽の使用を禁じられたらワイン造りをやめるしかない。ステンレスタンクは好きではない。ステンレスは宇宙とのつながりがない。コンクリートタンクも好きではない。コンクリートの中には金属が入っているからだ」。

KT・金属がよくないなら、樽のフープも鉄ではありませんか。瓶に鉄線を巻いてワインを飲んでみるとひどい味になります。ならば樽のフープも悪影響を与えているとみなすべきでしょう。絶縁物質つまりナイロン等で樽を縛ることを考えたことはないのですか。

「ステンレスとコンクリート内部の鉄はファラデー・ケージとして機能する。飛行機や車に落雷しても感電しないのは飛行機や車が導電体の箱だからであって、その内部には電気力線が侵入しない。ファラデー・ケージは導電体表面で電荷が移動して外部からの電気を中和する。内部のワインのコロイドは電荷を帯びており、これもファラデー・ケージに引き寄せられ、コロイドが浮遊状態のままでワインはいつまでも白濁したままとなる。樽のフープはファラデー・ケージを形成するほど多くない。これはビオディナミとは関係なく純粋に物理学的な事柄だ」。

・樽の殺菌は火山の硫黄を使用するのですか。

「樽の殺菌は火山の自然の硫黄だが、ワインに添加するのは石油由来の液体。できれば自然の硫黄を使いたいが、中毒の危険を伴うし、ワインに対しては現実的なオペレーションとして難しい。最近ロワールで火山の硫黄を使いつつ適切量を添加する器具が発明された。それは酸素ボンベとバーナーを使って800度に硫黄を熱して気化させるのだが、酸素と火が同じ場所にあれば最悪の場合どうなるか」。

・爆発です。

「自分でも使いたくないし、従業員に使用させて事故が起きたら私は刑務所行きだ」。

・あなたのワインには石油由来の硫黄の影響を感じるのですが。

「それは長期の澱上熟成による還元だ。ランゲンの場合は土壌が火山性だからワインには硫黄の香りがする。ブドウの段階から既に硫黄の香りだ」。

・澱はファイン・リーなのですか、それともグロス・リーなのですか。

「グロス・リーでなければワインに栄養を与えられない。ファイン・リー上の熟成は風味を変えたり少し濁ったワインになったりするだけで、化粧でしかない」。

・アルザスでは多くの場合、ブドウの圧搾はドイツよりはるかに長い時間をかけますよね。12時間とか24時間とか。これはアルザスの伝統なのですか、それとも誰かが最近考えたことなのですか。

「それは私が1986年に考案したことだ。4時間、8時間、12時間と圧搾時間を変えていろいろと実験してみた。うちではいろいろなワインがあるから24時間にするには圧搾機械を増やさねばならず、そのスペースはない。長時間の圧搾をするとジュースがきれいになるからあとでフィルターを強くかけなくともよくなる。またワインのストラクチャーやボディーをもたらす成分は圧搾の終わりの時に出てくる。なぜドイツでは短時間圧搾なのかといえば収量が多すぎるからであって、ブドウを絞り切ってしまったら法的最大収量を上回る果汁が取れてしまう。だから彼らは短時間で軽くしか圧搾しない。結果、ああゆう味になる。同じ問題は現在ブルゴーニュでも見られる。軽やかな味になるかも知れないが熟成しない。軽い圧搾は発泡ワインにはいいが、スティルワインにはよくない。最近のブルゴーニュの早すぎる熟成は、私見では圧搾の問題なのだ。2003年のワインはリリース当時は酸がないから熟成しないと言われていた。しかし今飲むとどうだ?」

・素晴らしい熟成を見せています。今でもビビッドです。

「なぜなら2003年は収量が極めて少なく、誰もが過収量に陥ることなく、しっかり成分を引き出すことができたからだ。また、ブドウが完熟していなければ熟成のための成分は得られない。RVF誌が暑い年のワインという記事を作るために私もワインを供出したが、暑い年のほうが熟成するのだ。2010年を見てほしい。リリース当時は酸があって最高だと皆が言っていたが、今ではどうだ?」。

・失望させられることが多い。酸化が早い。私も近頃は暑いヴィンテージのほうが好きです。

2010年はブドウの成熟度が足りなかったからだ。だから私は完熟したブドウを収穫するのだが、アルコールっぽい味にはならない。ビオディナミによってブドウが自律的にバランスを調整する。ランゲンのゲヴュルツトラミネール2016年はアルコールが実は15度もあるが、そうは感じないだろう。ところで長時間圧搾はいいが、オレンジワインには反対だ。ゲヴュルツトラミネールを醸し発酵したら恐ろしく苦くて飲めたものではない。リースリングもそうだ」。

・ピノ・グリのオレンジワインは成功していると思いますが。

「確かに。それはピノ・グリの果皮が薄いからだ」。

・数日前に私は某グラン・クリュの会長とメールでやりとりしていて、これからそのグラン・クリュにはピノ・ノワールを含めるかそれとも複数品種のブレンドを含めるべきか、といった議論をしていました。そもそもなぜグラン・クリュは4つの品種までしか許されないのか。他の品種やスタイルをグラン・クリュに含めれば、落とされるのはだいたいのところミュスカです。栽培面積がもともと少なくて市場も小さい。とするとミュスカの伝統が滅びることになる。認可品種を増やせばいいだけのことでしょうに。

INAOというのは、これからピノ・ノワールを植えたいのですがいいでしょうか、といったお伺いを立てる相手ではない。申請するまでに、ピノ・ノワールがその畑で成功し、そのワインの質が既に評価の高いピノ・ノワールと比べて同レベルであることを長い時間かけて証明し、その結果を持参して初めて審査を受理される。変更しようとしたら、今まで認可されていた品種の中で売れていないものがあれば、なぜ売れないのか、植えるべきではないのではないか、と厳しく尋問される。7品種をグラン・クリュに含めるという申請をすることは原理的には可能だが、そのためには7品種すべてのワインがグラン・クリュにふさわしいと証明しなければならない」。

・つまりはビジネス的成功を収めているものがよい、という話ではありませんか。グラン・クリュか否かと売れるか売れないかとは別でしょう!

「いや、売上ではなく、評判が重視される。しかし売上の数値以外で評判を証明するのは難しい、、、。そもそも現在のINAOの方針は、増やすのではなく減らす方向だ。本当にその畑に合うとされている品種のみに絞ろうとしている。どこでもミュスカは植えてあるにせよ、ではどのグラン・クリュでもミュスカは成功するのか。ウィーベルスベルグにミュスカは必要ないだろう」。

・有名なビオディナミ生産者がウィーベルスベルグにミュスカを植えているではありませんか。なかなかおいしいと思いますが。

「ウィーベルスベルグのミュスカはくそだ。たとえばゴルデールのミュスカは最高だ。ゲヴュルツトラミネールも最高だ。しかしゴルデールのリースリングはくそだ、ピノ・グリもくそだ」。

・そうですか、グートが最上部に植えているピノ・グリはなかなかいいですよ。

「なかなかいいでは、グラン・クリュとしては不足なのだ。卓越していなければならない」。

・そんなことを言ったらモエンチベルグとかどうなるのですか。何か卓越していますか。

「え?UのほうかOのほうか」。

・粘土のほうですよ。

「それはグラン・クリュの中にでも上下はある。しかしその話をしたら私は殺される。それにグラン・クリュじたいを責めるよりその畑でワインを造る生産者をまず疑うべきだ」。

・モエンチベルグはビオディナミやオーガニックの生産者が多く所有しているではありませんか。

「ビオディナミならいいわけではない。ダメな生産者とは教科書的ビオディナミであって、人の言うことを聞くだけで自分で考えていない。もしモエンチベルグを有能な生産者の手に任せたら、果たして今のような品質かどうか」。

・あなたはピノ・ノワールに対して懐疑的で、ブルゴーニュの品種はブルゴーニュに任せておけばいいと言いますが、その論理ならリースリングはドイツに任せておけばいいということになりませんか。そもそもピノ・ノワールはブルゴーニュ品種というより修道院品種でしょう。だからクロスター・エバーバッハでもクロスター・ノイブルクでもピノ・ノワールを栽培してきた。

「君は12世紀の修道士に、アルザスに持ってきた黒ブドウが何かを直接聞いたのか。君は事実誤認をしている。彼らが導入したのはピノ・ノワールではない」。

・え?中世のシュタインクロッツは赤ワインで有名でしたが、あれはピノではないと。

「彼らが持ってきたのはガメイだ。シュタインクロッツはガメイのワインだった。我々が住むトゥルクハイムもガメイの産地だった」。

・それは初耳です。ならば再びガメイを植えればいいではありませんか。ガメイは悪い品種ではありません。

「そうだ、ガメイは悪くない。植えてもいいと思う。ただボージョレのガメイのせいで、世の中ガメイと聞くとまずいと思う。えー、ガメイですかあ、と皆に言われるだろうから商売にはならない。自分がガメイを植えるなら、ボージョレではなくコート・ロアネーズに生き残っている優れたガメイにする」。

・そうは言っても、キルシュベルグ・ド・バールのピノ・ノワールはブルゴーニュうんぬんと比較する必要なく素晴らしい品質です。結果が出るならいいではありませんか。

「だからキルシュベルグ・ド・バールのピノ・ノワールは近いうちにグラン・クリュになる」。

・濾過についてお聞きします。アルザスのワインは残糖があるから濾過はほぼ不可避です。しかし濾過すれば味がフラットになる。今日のテイスティングに出された2016年のランゲン・ゲヴュルツトラミネールは今まであなたが造ったランゲンの中でも最高傑作だと思いますが、06グラムしか残糖がなければ濾過の必要はありませんよね。

「ああ、あのワインは自分でも最高傑作だと思う。MLFをしているからなおさら濾過の必要はない。だからタンクの底の部分の濁った部分だけは板フィルターをかけたが、清澄度の高い部分はフィルターをバイパスした」。

・どうりであのワインがあんなに複雑でおいしいのですね。

「フィルターをかける際には圧力計を注視していなければならない。目が詰まってくると圧力計の針が急に跳ね上がる。それでもワインを通そうとするとストレスがかかってまずくなる。自分も濾過しないワインがいいと思うが、そうするとワインが少し濁るからあれこれ問題が、、、。無濾過で瓶詰めしたヴィンテージもある」。

・何年ですか。

1999年、2000年、2001年」。

・ああ、私が最高だと思うヴィンテージではありませんか。やっぱりそうだったのですね。再び無濾過に戻るべきですよ。

「コルクを抜いて泡が出てもいいなら」。

・私は大丈夫です。

 

2019.02.14

Jo Ahearneによるクロアチア、フヴァール島ワインのセミナー

 
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 イギリス人MWジョー・アハーンがクロアチアのフヴァールで造ったワインをテイスティングしつつ、フヴァールと主要品種プラヴァッツ・マリについて深く学ぶセミナーが、輸入元ヴァンドリーヴ主催により、南青山のキャプラン・ワイン・アカデミーで行われました。
 以前、日本橋浜町ワインサロンでもフヴァール島のワインについては現地取材をもとにご紹介しました。フヴァールは全長150キロの島ですが、人口は11000人しかおらず、未開の土地が広がっています。あるのはブドウ畑ぐらい。おなかがすいても食べるところさえ見当たらない(冬はどこも休み)。しかしそのワインは圧倒的です。日本橋浜町ワインサロンでお出しした過去すべてのワインの中でもベスト10に必ず入るほどです。

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▲フヴァールの畑を説明するジョー・アハーンさん。映っている写真は、畑から海を見下ろしたところ。転んだら天国行きです。

 フヴァールの気候は、最高気温30度、最低気温6度、日較差8から10度、日照時間はヨーロッパの島で最高となる2800時間、そして降水量700ミリ。南の海沿いは急斜面、北は平地で肥沃です。土壌は石灰岩か、ドロマイト。場所によって細かく石灰になったりドロマイトになったり。石灰岩は酸性水に溶けるので脆くなって根が深く入り、ドロマイトは溶けないので逆。石灰岩土壌のほうが陽イオン交換容量が大きく、ワインの酸も高くなる。ようするに石灰岩のほうがドロマイトより優れているようです。

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▲プラヴァッツ・マリとその親品種の歴史。プリミティーヴォがヴェネチア共和国滅亡の近くになって初めてイタリアに渡ったのが興味深い。それまではヴェネチアによって守られていたと考えるべきか。


 プラヴァッツ・マリは19世紀の終わりに生まれたCRLJENAK KASTELANSKIとDOBRICICの自然交配品種。CRLJENAK KASTELANSKIは18世紀半ばにイタリアに渡ってプリミティーヴォになり、19世紀半ばに(たぶんウィーン経由)アメリカに渡ってジンファンデルになりました。もともとの品種は病気でほぼ絶滅してしまい、今フヴァールに植えられているジンファンデルはアメリカから持ってきたものだそうです。プラヴァッツ・マリは意外と最近に誕生したのですね。

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▲プラヴァッツ・マリは色づきに相当なムラが出る品種。ゆえに下写真のように、収穫時には必ずレーズン状のブドウが混じる。

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 プラヴァッツ・マリとは青くて小さいという意味です。実際そういうブドウです。大変に興味深い点は、色づきが同時期に起こらないこと。写真を見ても分かるとおり、青い果粒もあれば緑の果粒もあります。これが収穫時期になっても緑だった果粒の成熟はそのまま遅れているため、収穫時には必ず未熟果、適熟果、過熟果がひと房の中にまじりあいます。レーズン状のブドウが2,3割の時点で収穫せよ、と地元では言われているそうです。それがワインになると、若干のえぐみを伴う強いタンニンとレーズンのようなこってりした風味がまじりあう不思議で複雑な味に。譬えて言うなら、ひとりゲミシュター・サッツ味。単一品種でもこの複雑さ、そして必ず表現される垂直性。それが好きな人は、プラヴァッツ・マリは世界屈指の素晴らしいブドウです。私ももちろんこの品種が大好きです。

 未熟果の種は緑色で、長くマセラシオンすればワインが強烈にエグくなるので、アハーンさんは調理用濾しザルで緑色の種をすくって除去するそうです。それをブルゴーニュでシャルドネ用に使われたジュピーユのオークの樽で熟成。ジュピーユはけばいヴァニラ香ではなく上品な個性で有名ですが、それをフヴァールで使うというセンスがいいと思います。伝統的なスラヴォニアの樽はあまり質がよくなく、トーストが強すぎるそうですが、優れた樽を発見したので、そちらも少し使用するようになったとのことです。
 揮発酸が多めの味が好きだそうで、欠陥として感知される閾値ぎりぎりのところで抑えつつ、意図してそういうワインに仕上げます。そうしないとプラヴァッツ・マリはシンプルな香りになってしまうそうです。ですから彼女のプラヴァッツ・マリ・サウスサイド2014は、昔のバローロや昔のブルネッロ的なキャラクターがあります。明らかにイタリアワインに近い。フヴァール島を含むクロアチアのダルマチアは、昔はヴェネチア共和国、そのあとオーストリアですが、彼女のプラヴァッツ・マリはオーストリアっぽくは一切ありません。
 「酸が大好き」だというだけあり、ロゼのロジーナ2017(ダルネクシャ品種)も、オレンジワインのワイルドスキンズ2017(クッチュ、ボグダヌシャ、ポシップのブレンド)も、テレンス・パトリック2016(ダルネクシャ主体、プラヴァッツ・マリ、メルロのブレンド)も、最近のワインっぽい早摘み味です。プラヴァッツ・マリ・サウスサイド2014はそこまで早摘みではない味ですが、それでも地元で飲むプラヴァッツ・マリと比べればずっと酸っぱい。地元の人にはやはり「酸っぱい」と言われるそうです。

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▲ピノ・ノワールに似た味に仕上げたテレンス・パトリックはフヴァールのサバのグリルにぴったり合うそう。


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▲左がアハーン・ヴィーノのプラヴァッツ・マリ2014、右がピーチー・キャニオンのパソ・ロブレスのベイリー・ジンファンデル2014。ジンファンデルのほうがなめらかだが水平的、プラヴァッツ・マリは風味の幅が広く垂直的。


 いかにも頭脳明晰なイギリス人がきちんと計算してイギリス人の嗜好に合わせて造ったワイン、といった趣。特にテレンス・パトリックは「ピノ・ノワール的なワインを造ろうと思った」そうで、その通りになっています。それも新世界のピノ・ノワールです。完成度は高いと思いますが、ここからフヴァールに入門したら、寿司をカリフォルニア・ロールから入門するようなものです。既にフヴァールに親しんでいる人なら、「ああ、こういう解釈もあるんだ」、「確かにここが問題で、こう解決したのか」、といった知的な楽しみが得られます。そういった意味では大変に高度なワインですが、経験値と知的好奇心の高いお客さんに向けたワインなのですから、それでいいのです。

 ちなみにセミナーは英語のみ。ロンドンっ子アハーンさんの早口のイギリス英語に追いつくのは私にとっては大変でした。教室の中のノリは通常とは異なり、私は最前列に座っていたのでなおさらなのですが、ふと海外にいるような気になりました。最近は日本でも英語のみでOKになったのかと、プラスの意味でもマイナスの意味でも感慨しきり。
 

2019.02.08

モンテリー, Domaine Monthelie-Douhart-Porcheretの五代目当主、カタルディーナ・リポさん来日セミナー

 モンテリーはブルゴーニュの中でも特筆すべきお買い得産地。知っている人は知っています。ブルゴーニュファンを自称していながらモンテリーに関する見識がないならモグリと言われます。ですからカタルディーナ・リポさんの長い日本滞在期間のあいだに行った数々のイベントは相当な盛況だったようす。知らない人は知らないままでいいです。モンテリーまで法外に高くなったらたまったものではありませんね!
 そしてこのドメーヌはモンテリーの中でも最上の一軒。オスピス・ド・ボーヌやルロワの醸造長を務めた名人、アンドレ・ポルシュレのドメーヌだったのですから、技術的洗練度が違います。モンテリーに地酒っぽさを求めるなら他にもたくさんありますが、完成度と上品さを求めるならここです。
 
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▲カタルディーナ・リポさん(右)と、パートナーのヴァンサン・モンフォールさん。モンフォールさんはベルギー人。彼のレストランでリポさんのワインを売っていたことから知り合ったそうだ。
 モンテリーはコート・ドールの村々の中で最大の日照量。ゆえにモンテリー=日照量最大=温かい味と思われがちですが、話はそう単純ではありません。日照量は村の中で計測されます。モンテリーの村は高台の開けた場所に位置しますから、確かに日の出から日の入りまで燦燦と照らされています。他の村より高いので、中世の戦争時にも敵兵の動きがよく見え、防御策を事前にとることができたため、他の村々のように破壊されることがなかったといいます。畑も、ヴォルネイの丘にある1級シャン・フュイヨとかは開けた地形ですが、多くの村名畑が位置する特徴的な南北に延びる狭い谷は、朝の光がないか、すぐに日陰になるか。決して日照が多いわけではありません。
 
 それでもモンテリーの村名白は概して温暖味。特にこのドメーヌは周囲より1週間遅くシャルドネを収穫するそうですから相当にトロピカルだとはいえ、他でもやはり温暖味。譬えて言うならプティ・シャブリの風味にも似ています。谷に堆積している真っ白な石灰の礫を見てもプティ・シャブリに似ていて、どう考えても一般的なコート・ド・ドールのジュラ紀中期の石灰岩ではありません。地形を考えてもオート・コートからの崩落礫なはず。そこを今回聞いてみると、やはりそうで、ジュラ紀後期とのことです。原地性ではないので、畑の土を掘っても岩盤には至らず、どこまでも礫が積もっているそうです。つまりは温かい土壌なわけで、ワインの味がそうなるのも当然です。岩がないので、石灰の風味があるのに構造が柔らかく芯がないという独特の味わいになります。それが個性的でいい。構造という点では新世界的。貴重な存在ですし、マリアージュ的には大変に役に立つのです。モンテリーは最小の村でいて白ブドウの栽培比率は12%しかないので、これこそ知る人ぞ知るワインです。

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▲モンテリー1級レ・デュレスの白ワイン。2016年の超低収量が味わいの凝縮度に反映されている傑作。
 1級レ・デュレスの白は反対に、典型的なコート・ド・ボーヌ。風味はよりレモン的で、酸に硬質さがあり、芯の堅牢さが特徴的。近隣のムルソーに似ているとよく言われますし、その通りですが、ムルソーよりきめ細かくしなやかだと思います。同じ畑の赤も素晴らしく、ヴォルネイ側のようにキメが粗くなく、細かく硬質な要素が隙間なく結合している姿に品があります。誰もがヴォルネイ側は女性的でエレガント、オーセイ側はマッチョと言います。私は反対です。ざっくりとして温かいヴォルネイ側と精緻でタイトなオーセイ側と言うべきです。白赤ともに、大変に優れたブルゴーニュです。他に気に入った赤は、ポマール1級シャンラン。ポマールはよく言われるようなごついワインではありません。特に1級シャンランは標高が高く、ヴォルネイと接している畑ですからすっきりと伸びやか、かつ安定感があります。形のきれいさはさすがポマール。よいテロワールならではの隙のない構成美が感じられます。
 
 今回のヴィンテージは2016年。この年は霜にやられて白の収量は通年の8割減。赤は3割減。ですから白の味わいの凝縮度は桁外れです。2003年のシャンパーニュのブラン・ド・ブランの味と似ていると言えばわかりやすいでしょうか。これほどの凝縮度が味わえる機会はめったにありません。
 
 希望を言うなら、ビオディナミにしてほしい。既に2018年からはHautes Valeurs Environnement認証レベル3。ならばそんなに難しくはないはず。ここなら、カッコつきビオワインではないビオディナミワインが造れるはずです。
 

2018.11.06

ラングドックワインセミナー

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11月日、明治記念館でラングドックワインの試飲会とセミナーが行われました。
 
ラングドックワイン委員会代表による総括的プレゼンと情野ソムリエによる8本のワインのテイスティングの後、十分ほど時間をもらって私もラングドックワインについて喋りました。最初はそんな予定はありませんでしたが、飛び入りです。
 
一応マスタークラスのはず。しかし実際のレベルは高校生だというのはわかっています。マスタークラスレベルというのはサンサチュルナンとサンジョルジュドルクの違いが分かるといったことでしょうが、そんな話が出来るようになるのはいつのことか。基本が分からないで第三紀の石灰岩がああだこうだと言っても仕方ない。というわけで、私は、「ラングドックワインのほとんどは赤。赤のほとんどはシラー、グルナッシュ、カリニャンないしムールヴェードルのブレンド。それらは譬えて言うなら、トスカーナのボルドーブレンドみたいなものだ」と言いました。「普通ラングドックというと、南ローヌとの連続性で捉えてしまう。ラングドックの地図だけ見るとそうなるのは仕方ない。しかしもう少し広い地図を見ると、ボルドー、スッドウエスト、ラングドックのマルペールとカバルデスの連続性がわかる。ところが日本ではマルペールとカバルデスが完全に忘れられており、それがラングドックのワインの理解を妨げ、ボルドーとの親近性を気付かなくさせる理由だ。ラングドックは基本的にボルドーと同じく芯がある四角いワインで、南ローヌのようにソフトな丸いワインではない」。
 
ラングドックは多様性のある産地。皆さんそう言いますが、それは南西もロワールも同じ。そう言ったところでラングドックワインの本質は分からず、どう使っていいか分からない。まずは乱暴かも知れないがザックリと特徴を掴む必要があります。各論より前に総論が必要なのはなんでも同じです。今回は無理矢理乱入して短時間だけ喋らせて頂きましたが、いつかしっかりみなさんにラングドックワインについて解説出来れば、と思います。
 
最後にラングドックワイン委員会の方が、「田中さんが一番好きなラングドックのアペラシオンは?」と聞くので、「クレーレット・デュ・ラングドック」。「誰か飲んだことある人はいますか?」とセミナーにご参加の方に聞くと、誰もいない。まだまだそんなものです。アディサン・ランシオの素晴らしさを皆さんと語り合えるようになりたい!私としては、ランシオなきラングドックはフロールなきジュラと同じ。確かにマイナーかも知れないが、これを忘れてはもぐりですし、もしそれが好きではないと言うなら、ラングドックワインファンとは呼び難い。ラングドックワインを飲めば飲むほど、その思いが強くなります。しかし日本には輸入されません。たぶん、ラングドックワインと聞いて私がイメージするものと、世の中ほぼすべての人がイメージするものとでは、相当な乖離があるでしょう。
ラングドックワインサイドとしては、ペイ・ドック、つまり単一国際品種ワイン産地という日本の消費者の観念を打破したい。より高価格ワインを訴求したい。ですから一生懸命クリュにフォーカスしているわけです。しかしクリュ・ラングドック(つまりテラス・デュ・ラルザックやラ・クラープ等)は日本ではなかなか理解されず、受容されません。ここをどう考えるのか。純粋にワインの品質を見れば、クリュでも4000円以内のワインが多いラングドックは、ヴィラージュ1万円のブルゴーニュより、はるかにお買い得です。しかし皆、本当に「純粋にワインの品質を見」ているのか。有名なもの、高価なものの威を借りてばかりのような気がします。先日ある安価なワインを揃えている店に行ったら、あるワインのPOPに、シャトー・マルゴーと並んで高く評価されるシャトー・パルメのオーナーが作ったボルドー、と書いてありました。それがどういう味なのかは二の次です。そもそもその店で買い物をする人にとって、シャトー・マルゴーだろうがシャトー・パルメだろうが関係ないはず。その意味を読んで分かることを前提とする店サイドもひどい。どんな意味でもひどい。そしてそれに消費者が反応するなら、いかに日本中ブランド志向なのか、ワイン消費=名詞消費なのか、をよく物語っています。そういう状況では、有名なもの、高価なものの威を借りることができないラングドックは売れないでしょう。
ラングドックは複雑で難しいと言われますが、20程度のアペラシオンを覚えれば十分。ブルゴーニュならば何百もの畑名とその味を覚えているのが普通ではないですか。だからラングドックに関しては、覚えられないのではなく、覚える気がないだけです。気がない人には何を言ってもしかたない。ただ、もったいないな、とは思います。アペラシオン名と品種名を覚え、そのキャラクターを大まかにつかんでおきさえすれば、ラングドックは大変にわかりやすく、選びやすい産地です。
 

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