「夏こそローヌワイン」試飲会
フランソワ・ヴィラール、ピエール・ガイヤール、ジャンヌ・ガイヤール、イヴ・キュイユロン、コンビエ、ジャン・ミシェル・ジュラン等、おなじみの名前のワインが一堂に会した試飲会が、7月6日、麻布十番のnakatoで行われました。
タイトルは、「夏こそローヌワイン」です。それは含蓄に富んだ命名です。ローヌといえば冬のジビエに向く重たいワインという印象が世の中に蔓延しています。それは間違いだと、私は思っています。ローヌはむしろ軽やかなワインです。違う表現をするなら、軽やかなタイプに仕上げているワインがおいしい産地です。
今回登場したワインのほとんどすべては北ローヌ産でした。シラーはまさに夏です。シラーの特徴は清涼感であり、重心が上なことです。シラーが冬だと思われがちなのは、昔のローヌにはブレタノミセスが目立つものが多く、その香りが熟成したジビエを連想させたからです。影響力のある人がブレタノミセス臭さをむしろ好んでいたことも理由でしょう。今でもそんなことを言っている人がいるとすれば、時代錯誤も甚だしいと思います。
現代の若手のナチュラルワイン系亜硫酸無添加タイプのローヌワインにもブレタノミセスが散見されます。それがいいと言う人が多いのが不思議です。人の趣味はそれぞれなので結構な話ですが、シラー=ジビエ=冬、という認識がいつまでも再生産される構図は問題であることには変わりありません。
nakatoの扱ってきたレ・ヴァン・ド・ヴィエンヌ3人のワインは、もともとブレタノミセスが感じられませんでした。近年では、最近の潮流どおりに、さらっとした力をためないクールな味わいになっていると思いますから、なおさら「冬」ではありません。昔は「ちょっと物足りない」と感じたことがあった控えめな主張も、私もそれなりに経験を積んだからか、「この程度の塩梅がいい」と思えるようになりました。
特に今回は安価なワインの出来が気に入りました。もともとローヌでよく経験するのは、安いほうがおいしい、という事実です。そこにはいくつかの理由があります。1、安いほうは新樽熟成しておらず、樽のえぐいタンニンがない。2、安いほうは抽出が軽く、空気感がよく出る。3、安いほうは樽熟成が短いせいか、またさまざまな理由でpHが低いからか(熟度が低いとか)、ブレタノミセスが少ない。4、安いほうが樹齢が低いブドウを使っており、より溌剌とした味わい。5、南ローヌの場合、高いワインはグルナッシュ比率が多すぎる。今回もコート・ロティは、確かにテロワールの力強さは感じるものの、ごりっとしたタンニンとべたっとした果実味で抜けが悪く、好きになれませんでした。
おすすめはクローズ・エルミタージュです。私は最近、クローズ・エルミタージュが大好きです。ひとつの理由は、逆説的ですが、よいテロワールではないからです。昔のローヌは涼しかったので日当たりのよい斜面が必要だったのでしょうけれど、今では平地で日当たりの悪いクローズ・エルミタージュのほうがアルコールが上がりすぎずにバランスがよくなるのではないかと思います。今では日当たりのよさは必ずしもプラスとは思えません。優れた畑で早く収穫してアルコールを下げると、結局は小さく神経質なワインになっておいしくありません。最近古典産地のワインを飲むと、そういうタイプが多くて欲求不満になります。もうひとつの理由は、クローズ・エルミタージュは基本的に花崗岩や片岩という北ローヌでは尊重される土壌ではなく、石灰やレスがあることです。これがよりフレッシュな酸や香りの軽やかさを生み出すと思います。それが夏にはぴったりです。
生産者としては、ピエール・ガイヤールの娘、ジャンヌ・ガイヤールの素直で明るい味わいが気に入りました。特によかったのはミュスカ2014年(2700円)です。北ローヌにミュスカとは大変に珍しいですが、これはミュスカファンなら買うべきワイン。北ローヌらしくミュスカを樽発酵・樽熟成するというのがポイントで、南仏の食前酒的ミュスカと異なり、メインディッシュに合うだけの構造やボディや複雑性を持っています。ミュスカは明らかに地中海品種です。より温かいところから来ました。それが北ローヌでこれだけバランスのよい味わいになるというのは、きっと危惧すべきことなのでしょう。
となると、もはや北ローヌがシラーの最上の産地だとは思っていけないのかもしれない。ポテンシャル的にはクリュ・ボージョレをシラーに植え替えればベストでしょう。ボージョレが売れないと嘆いていないで、さっさとシラーを認可品種にしてほしいと願います。
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