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2017.07.11

シャンパーニュ・フィリポナ テイスティング・ディナー

 1522年創業の老舗シャンパーニュ・メゾン、フィリポナの16代目オーナー、シャルル・フィリポナ氏が来日し、銀座の高級焼鳥店、Toriya Premium本店でテイスティング・ディナーを開催しました。今回は私田中克幸が司会進行役を仰せつかり、シャンパーニュの中でも独特の味わいをもつフィリポナについて、そしてその味わいの軸となるアイとマレイユ・シュール・アイについて少々お話させていただきました。

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 フィリポナの特徴をまとめるなら、

1、アイとマレイユ・シュール・アイという最も緊密でソリッドなミネラル感をもつクリュのブドウを基軸としていること。

2、ピノ・ノワール主体なこと。

3、ドザージュが少ないこと、とりわけベーシックなワインはノン・ドゼ。

4、門出のリキュールにフレッシュなワインを使うこと。

5、この8,9年は自社畑に除草剤不使用。

6、MLFを半分行うこと。

 でしょうか。

これらが合わさると、1、ストラクチャーが堅牢で、2、重心が高く華やかさがあって酸が低めで、3、べたつかずにテロワールとブドウの質のよさをストレートに表現し、4、ひねた風味がなくビビッドで外に向かうエネルギーがあり、5、ナチュラルな味わいで、6、ソフトすぎずハードすぎずの絶妙な質感の酸を備えたワイン、というフィリポナらしさになります。フィリポナは、食前酒というより、食中酒です。それはアイやマレイユのワインすべてに言えることですが。

 

 このようなシャンパーニュに何が合うかといえば、まずは地鶏の焼き鳥でしょう。特に今回は集中型ヴィンテージである2009年や2007年だったので、ますますそうなります。

そこで、軽やかでいて芯のしっかりとした涼し気なミネラル感のある比内地鶏を使った焼き鳥店、Toriya Premiumを会場に選ばせていただきました。

 基本的なところを復習するなら、焼き鳥は酸がない料理ですから、酸の強いワインは合いません。酸が強ければせっかくの鳥の脂の旨さを消して、ぱさついた味になってしまいます。フィリポナはすっきりさっぱりしていながら、酸がきつくないのがいいのです。また、一般に言われているのとは逆に、ピノ・ノワールのほうがシャルドネよりも重心が高く軽やかな味わい。今回出てきた鶏と鴨は、もちろんどちらも重心が高い。だからブラン・ド・ノワールやそれに類するタイプのワインが合うのです。

 

 正直、以前のフィリポナは決して好きではありませんでしたが、久しぶりに飲むと大きく変化していて驚きます。以前よりずっと抜けがよく、精密で、フレッシュで、ミネラリーで、余韻がクリアーに長いと思います。

やはり農薬削減は効果的です。自社畑では除草剤不使用。ただ、クロ・デ・ゴワセの場合は、あまりに急斜面でトラクターが入れないため、通常の化学的除草剤ではなく、植物由来の油を雑草の上に撒いて枯らす方法を取ります。契約畑(全体の3分の2を占めます)の農家にはサステイナブル農業やオーガニック農業を行う場合はブドウ買い取り価格を高く設定するという動機付けを行って、年々農薬使用量を下げています。

さらに醸造も変化しているようで、よりクリーンでフレッシュな方向性になっています。会場にはフィリポナの長年のファンの方々もいらっしゃいましたが、「以前はもっと酸化気味で質感が粗かった」と言っていました。

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 おいしかった組み合わせは、

1、ノン・ドゼと、モッツァレラのカプレーゼ。さっぱりしてキメが細かい味わい。スケール感は小さめのワインなので、肉というより、フレッシュな野菜やチーズがいい。

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2、ロゼと、ささみ塩わさび。ロゼはもっともソフトなので、レアに仕上げたささみのソフトさにぴったり。熟成が短いことによる味わいのフレッシュさも、ささみやわさびの方向性に合います。

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3、ブラン・ド・ノワール2009年と、レバーと手羽。このワインはグラン・クリュなので、パワーが違います。スケールも大きくグラもあります。レバーも手羽も、リッチで強く、かつ酸がおとなしいワインが合います。

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4、クロ・デ・ゴワセ2007年と、鴨。急斜面で表土がほとんどないクロ・デ・ゴワセ(フィリポナのモノポールの有名な畑)はグラがあまりなく、厳しい味が特徴。鴨の肉はじわーんと肉汁がにじみ出るわけではなく、筋肉質なので、そのような岩っぽい味のワインが合います。

 

 料理とワインがうまく合致すると、1+1=3になります。その楽しさを経験すると、後戻りはできません。ただ食って飲むだけの非知的・非創造的な消費は、ワインの趣味とは言えないものです。皆さんも是非、フィリポナのワインを焼き鳥やさんで試していただきたいと思います。

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