カリフォルニアの缶ワイン
最近カリフォルニアでは缶ワインに注目が集まっているそうだ。野球を見ながら、とか、キャンプとか、瓶が割れたら困る状況で気軽に缶ワイン。市場規模の将来的な拡大はすごいらしい。先日は缶ワインだけ300種類も集まったコンテストがあったらしい。
この缶ワインの中身はピノ・ノワール。同じワインの瓶入りバージョンをテイスティングしたが、なかなか美味しい。冷やして美味しい丸いタンニンと低い酸と濃厚な果実味。いかにもカリフォルニア。ワインだけではシンプルだと感じるが、鶏レバーのタレと合わせたら見事な相性。ワインが出しゃばらず、料理を素直に楽しめる。
この缶は900円。瓶は3000円。高いと言えば高いが、カリフォルニアワインファンにとっては安いと思われるはずだ。やはりカリフォルニアワインは今よく売れているらしい。客観的に見れば、このジューシーな果実味がドーンと来る酸のない味が日本人の味覚にフィットするというのは理解できる。今日会ったカリフォルニアの人も、「ワイン通やプロは酸酸に注目して酸っぱいワインを評価するが、一般消費者は酸は好きではない」と。同感だ。この乖離こそが日本におけるワイン文化にとって障害である。日本の料理のどこに高い酸があるというのか。私個人は、酸があってしかるべき産地や品種には酸がなければならず、そうでないなら酸がないのがいい、という極めてニュートラルな立ち位置だが、日本の料理(和食だけでなく広い意味で)には酸が低いワインのほうが合うという主張は、どれほど世の中のプロにバカにされようとも変えるつもりはない。今日のピノ・ノワールなど最良の証左である。
カリフォルニアでは今は非伝統品種ワインブームで、実際LAのワインショップに行っても腰を抜かすほどだ。若いソムリエの中にはマイナー品種ワインばかり売る人も多いらしい。しかし日本人はカベルネとシャルドネとピノしか欲しない、と聞いた。カリフォルニアにはあんなに多くの種類の素晴らしいワインが山のようにあるのに。カベルネとシャルドネとピノだけということは、結局異常に高いカルトワインか、安い品種ワイン、の両極端になっていく。中間価格帯でのバリエーションの広がりがなければガストロミー的にも面白くない。価格の上下でのバリエーションと横方向のバリエーションと、どちらが楽しいか。地球温暖化を考えても、もはや多くの産地はシャルドネやピノには暑すぎるのではないか。夏季降水量の少なさを見ても、カリニャン、グルナッシュ、ネロ・ダヴォラ、アリアニコ、ベルデホ、ブールブーランク、アシリアティコといった品種にこそ将来があるのではないか。世界で最もワインの知識がある日本人が、今でもカリフォルニア=カベルネ、シャルドネ、ピノと頑迷に思い込む理由が本当に理解出来ない。
カリフォルニアでは「欠陥ナチュラルワイン」ブームは下火になってきたらしい。いいことだ。アメリカ人はまずいものはまずいとはっきり言う。田舎の普通の人でも、だ。私は昔ミシガンやノース・カロライナの田舎でワインを売っていたのでそのことは身にしみて理解した。しかし欠陥ナチュラルワインと本当のビオディナミワインを混同する迷惑千万な人たちが日本のワイン市場のリーダーである以上は、日本では当分下火にはならないだろう。これは前にも書いたネタだが、イカれた自称ナチュラルワインについて「どこがいいのかわからない」と言ったら、「ワインの経験を積めばあなたにもわかるようになる」と、ある輸入元の若者に諭された。私は一生わからなくていい。
カリフォルニアワインとオーストラリアワインの違いは興味深い。カリフォルニア人気の理由が低い酸にあるなら、オーストラリアの不人気も理解できる。しつこく言うが、オーストラリアの補酸はやめて欲しい。イギリスは酸っぱいワインが好きだから、オーストラリアはまだイギリスの影響が強いということか。
ところで、カリフォルニアだけがアメリカワインではない。需要増大に対し生産も増大しているようだが、いい畑は限られるものだ。他州のワインにもそろそろ目を向けていい頃だろう。アメリカが好きならば、だ。アメリカではなくカリフォルニアが好き、というなら話は別。何がカリフォルニアを特権化するのか。おかしいと思わないか、カリフォルニアはひとつの州にすぎないが、チリワイン、オーストラリアワイン、ニュージーランドワイン、カリフォルニアワインという形で他国と同列に扱われる。カリフォルニアワインというならニューサウスウェールズワインというカテゴリーと併置すべきだし、オーストラリアワインというならアメリカワインと呼ぶべきだ。ある種の洗脳が功を奏している。まあトランプ大統領のアメリカと一緒にされたくないと民主党が強いカリフォルニア人が思うのは分かるが。