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2019年10月の記事

2019.10.31

ガンベロ・ロッソ トレ・ビッキエリ試飲会

六本木リッツ・カールトンで行われた試飲会は今年も大盛況。プロは今どきガンベロ・ロッソのトレ・ビッキエリに左右されないとは誰もが口々に言うことだが、こうしてイタリアの北から南まで百数十本ものワインを試飲できるのは有難い機会だし、確かに素っ頓狂なワインはなく、ある意味スタンダードな味のワインだから勉強になる。

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以下の写真は試飲した100本の中で好みだったもの。ドゥエマーニのカベルネ・フランやマージのアマローネやテルランのソーヴィニヨン・ブランあたりはもちろんトップのワインだが、いまさら言われても困るだろうから殿堂入りとして措くとして、ベスト3は、プーリアのフィアノ、プーリアのジンファンデル、オストレア・ヴェルナッチャ・ディ・サン・ジミニャーノ。今回はトスカーナは全般にサンジョベーゼよりヴェルナッチャの方が美味しかった。どういうわけか毎年、この試飲会で飲むキャンティ系ワインの味が好きではない。全体にあまりに固く、色気、空気感がない。ピエモンテもここでは絶望的。評価基準が分からない。それに比べて他州は納得できるものが多い。

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フェッリーネのブースにはジンファンデルと並んでプリミティーヴォ二種があったが、ジンファンデルとプリミティーヴォは似て非なる味なのが良くわかる。客観的にはプリミティーヴォの方が緻密で流麗で上品。しかしジンファンデルのハジけ感、リズム感がいい。陳腐な喩えでは、プリミティーヴォはクラシック、ジンファンデルはロック。きれいでそつないワインばかりでは退屈だし、実際そういうワインばかりが幅を利かせがち。それは集団でのワイン評価にはほぼ不可避。減点法になるからだ。輸入元は、「カリフォルニアのジンファンデルとは全然違うでしょう?」と言ったが、私は「いや、相当同じですよ、カリフォルニアのジンファンデルの方がプーリアに近づいたとも言える」と答えた。世の中、ジンファンデルに対して偏見だらけだ。ジンファンデルという言葉はもはや実体を離れて、ある種の味を示す記号と化している。ちなみにプリミティーヴォの二種はテラロッサと石灰、ジンファンデルは黒土の畑。石灰はスカした味で腰高。石灰ならいいわけではない。

 

2019.10.27

日本橋浜町ワインサロン講座 ジンファンデル

70年代のカベルネ、80年代のシャルドネ、90年代のメルロ、2000年代のピノ、と、カリフォルニアの流行りの変遷の後、この10年は伝統復興、マイナー品種、オーガニック、無灌漑、混植混醸といったキーワードで語れるだろう。いまだカベルネ、シャルドネ、ピノだけが、それも高得点系高額ワインがちやほやされる日本の状況は、時代遅れというか、情けないし、つまらない。試飲会に行ってもその三品種が幅を利かせ過ぎだ。ワインショップでも当然同じ。それが日本のニーズの反映なのだから。

現代的動向の中で再評価されるのがジンファンデルだ。伝統品種だし、多くの畑が混植だし、無灌漑だ。あれこれ世界のワインを経験し、多面的な見方を獲得したなら、カリフォルニアの基本はジンファンデルだと思うだろう。純粋に品質を見ても、特に同じ価格では、ジンファンデルのほうがカベルネやピノより余韻が長く複雑で立体的だと思えることは多い。

しかしジンファンデルならなんでも良いわけではない。平地の土系ワインはアルコールが目立って構造が緩くフレッシュさに欠ける。ジンファンデルは岩要素が必要だ。そのような分析的見方をすれば、ナパの平地のローム土壌のフログス・リープは、無灌漑オーガニックとはいえやはりフラットで短いと気付いてしまう。

そもそもジンファンデルを皆どう捉えているのか。アルコールが高くてジャミーでタンニンが強くて樽っぽい下品な品種、ないしちゃちなホワイトジンファンデルとでも思っているのではないか。そういうワインが多いのは事実だ。消費者がそう思っているならそういうワインばかりが輸入される。私はその手のジンファンデルは嫌いだ。しかしそれが正しい認識か、またそれが本質かどうかは別だ。事実上のジンファンデルと、理念的なジンファンデルの間に巨大な溝があると思える。

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ではどこのジンファンデルがいいのか。ここで注目すべきがパソ・ロブレスだ。カリフォルニア全産地中最高と言われる日較差(昼は暑いし、夜が信じがたく寒い!)、充分な降水量、そして白亜紀の石灰岩土壌。メリハリ、フレッシュさ、そして傑出したミネラル感。とはいえ101号線の西側にしか石灰岩はない。東は基本、ミオセーンの砂岩や沖積土壌の熱く乾燥した平地。行けば分かるが、西と東では風景が違いすぎるほど違う。というか、東はこの地域では普通の乾いた風景だが、西は緑豊かな丘陵でマコネみたいだ。この西側パソ・ロブレスこそジンファンデルの聖地である。

パソ・ロブレスは11の区域に分かれる。単一区域ワインのラベルにもそれが記されている。西側石灰岩区域は、アデライダとヤロークリーク。テンプルトンギャップとサンミゲルも一部は西側だが、地質的には新しいようだ。標高が高い小区域ヨークマウンテンはパソ・ロブレスではなく独立AVAだ。今回は、パソ・ロブレスとしては、西側あちこちのブレンドであるポロロ、ヤロークリークの超老舗ロッタとアデライダの比較的新しいピーチー・キャニヨンを出した。

ではどこのジンファンデルがいいのか。ここで注目すべきがパソ・ロブレスだ。カリフォルニア全産地中最高と言われる日較差(昼は暑いし、夜が信じがたく寒い!)、充分な降水量、そして白亜紀の石灰岩土壌。メリハリ、フレッシュさ、そして傑出したミネラル感。とはいえ101号線の西側にしか石灰岩はない。東は基本、ミオセーンの砂岩や沖積土壌の熱く乾燥した平地。行けば分かるが、西と東では風景が違いすぎるほど違う。というか、東はこの地域では普通の乾いた風景だが、西は緑豊かな丘陵でマコネみたいだ。この西側パソ・ロブレスこそジンファンデルの聖地である。

パソ・ロブレスは11の区域に分かれる。単一区域ワインのラベルにもそれが記されている。西側石灰岩区域は、アデライダとヤロークリーク。テンプルトンギャップとサンミゲルも一部は西側だが、地質的には新しいようだ。標高が高い小区域ヨークマウンテンはパソ・ロブレスではなく独立AVAだ。今回は、パソ・ロブレスとしては、西側あちこちのブレンドであるオポロ、ヤロークリークの超老舗ロッタとアデライダの比較的新しいピーチー・キャニヨンを出した。

圧倒的である。これを理解せずしてカリフォルニアを語るな、ましてジンファンデルについて勝手にネガティブなイメージを持つな、である。似ているワインはシノンやソーミュールかも知れない。つまりは白亜紀石灰岩の味であり、適度な降水量、斜面、冷涼気候の味だ。なんという品格、なんと整った佇まい。しかしオーガニック自社畑ムスタング・スプリング・ランチのピーチー・キャニヨンは日本に入ってこない。ほぼ会員用で、ワイナリーにもないと言われたが、そこをなんとかと頼んで、キャップシールを付けていない瓶を一本売ってもらった。私は最低限の常識としてピーチー・キャニヨンぐらいは知っていたからここを訪問したまでで、別にピーチー・キャニヨンでなくとも探せばこうした素晴らしいワインはいくつもあるはず。しかし探すべき場所を知らないならば探しようがない。アデライダとウィロークリークの名前は覚えておいて欲しい。さもないと店やレストランにあっても看過する。

ともあれ最近のカリフォルニアワインは昔と違う。昔を引きずった思い込みを上書きしないといけない。このジンファンデルの講座を最初に告知したのは6月だったか。以降毎月募集していたが申し込みゼロ人が続き、今回やっと4人の申し込みがあって開催出来た。お見えになった方は思ったはずだ、なんでこんなに素晴らしいワインに皆興味がないのだろう、と。私はこの講座のためだけにパソ・ロブレスに取材に行っているのだから、しょうもないワインなど出さない。

2019.10.06

グルナッシュ・マスタークラス

グルナッシュはこれからますます注目すべき品種。乾燥・高温に耐えるこの晩熟品種の特徴は、地球温暖化によって旧来の産地と品種の組み合わせに疑問符がつくようになってしまった現在、大きな可能性を約束する。そしてグルナッシュは飲む者に緊張を強いらず、タンニンが少なくふっくらソフトで酸が低い、極めてフードフレンドリーな、特に日本の家庭には必須の品種だ。

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ギャプランワインアカデミーで開催されたマスタークラスは、珍しくもグルナッシュに特化。講師は、『ヨーロッパ産ガルナッチャ/グルナッシュ・ファインワイン・プログラム』の副プロジェクトマネジャー、エリック・アラシル氏。初めて聞く名前の組織だが、EUの資金による、スペインのガルナッチャ・オリジェン協会とフランスのルーションワイン委員会両者の共同プロジェクトだ。

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参加アペラシオンを見ると、中世アラゴン王国とその従属国マヨルカ王国(首都はペルピニャン)の復活のようだ。確かにガルナッチャ、グルナッシュの栽培地はプロヴァンス伯領やサルディーニャ王国を含めてまさにアラゴン連合王国領域と相当程度重複する。しかし今回のプロジェクトに参加していない重要な産地がある。ガルナッチャといえば、エンポルダ、ペネデス、プリオラト等はどうした?つまりカタルーニャ君主国エリアだ。なぜ、と聞くと、「もちろん最初はカタルーニャを含めて計画していたが、途中から彼らは取りやめた」。うーむ、せっかくガルナッチャに光を当てようという素晴らしい企画なのに。栽培面積世界7位という大メジャー品種の割には一般消費者の認知が低いガルナッチャ・グルナッシュ。正当な地位のためにはこうしたEUによるPRが必要で、そのためにはカタルーニャ君主国の独善的な態度を改めてもらわないと。

ところで、プレゼンに使用された世界のグルナッシュ産地の地図の中にはもちろんオーストラリア(全世界中0・89パーセントでしかないが)も入る。しかしそのエリアの位置がへん。西オーストラリアの中央。人の住んでいないような場所。オーストラリアのグルナッシュ産地はバロッサやマクラーレン・ヴェールなのに。「ああ、わかってる。この地図は僕が作ったものではない。でも今まであちこちのマスタークラスでこの地図を使ってきて、この間違いを指摘したのは君だけだ」。バロッサのグルナッシュがどれほどおいしいのか知っていれば、ここで、ちょっと待ってくれ、と言うだろうに、ようは世界中、オーストラリアのグルナッシュに興味がある人は誰もいないということだ。悲しい。

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テイスティングしたのはすべてルーション。スペインはどこへ?講師がルーション人だから?興味深いことに、単一品種ワインは皆無。グルナッシュ単一品種ではまともなワインにならないと暗に示しているのか?それは間違いではない。白ならマカブー、赤ならカリニャンといった性格の異なる品種と合わさってコンプリートな構成のワインになるのは事実だ。単一品種ワイン以外認めようとしない日本で、グルナッシュと表記してあるワインがないに等しいことが、この品種をマイナーな地位に追いやる原因か。

概してルーションのグルナッシュはラングドックのグルナッシュより固くて酸が高くて重心が高い。南端の産地という先入観でルーションに接すると戸惑うことになる。表土が薄い斜面や標高の高さといった要因が考えられるだろう。アラシル氏は樹齢の高さ(畑の50%が樹齢50年超)も理由に挙げていた。しかしながら必ずしも昔からそういう重心の高い味だったわけではない。この十数年でスタイルが変わり、早摘み傾向が目立つ。酸の高さと香りの冷涼感とアルコールの低さを普遍的評価基準とするようではこの傾向は不可避だ。ゆえに早摘みとは無縁の酒精強化ワインと辛口ワインの質は、私の見方からすれば、生産地の意図とは逆に、むしろ開く。回りくどい表現になったが、今回テイスティングした酒精強化ワイン、特に最後のリヴザルト・アンブレは圧倒的。この生産者、ブリアルは、フランス最優秀協同組合に選ばれ、このワインは世界グルナッシュコンクール金賞を獲得したそうだが、それも当然に思える。酸量の計測値は世界最低レベルだと。しかしこのビビッドさ、酸の鮮やかさはどうだ。ここには何か真理がある。個人的には変な辛口志向に振らず、世界屈指の偉大なワインであるルーションの酒精強化ワインを積極的にPRした方が世の中のためになると思う。世界の酒精強化ワインの6割、フランスの8割が実はルーションなのだ。しかし普通のワインファンに代表的な酒精強化ワインの名前を挙げてくれと聞けば、シェリー、ポート、マデイラ、マルサラと、イギリス主導のワイン教育の成果が明らかな、実質イギリスワインの名前が並ぶだろう。この偏ったイデオロギーを正す方が先だ。リヴザルト・オー・ダージュと東坡肉を合わせて食べたい!

 

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今や畑の55%がビオディナミ、オーガニック、HVEだというルーション。テロワールも栽培も文句ない。私にとって問題点は二つある。ひとつは、北方産地のキャラクターを絶対視して南方産地にそれを無意識のうちに強要する風潮である。辛口でアルコール15度を恐れるな、それでもアルコールが上がり過ぎるなら、パレリャーダを2、3割混醸せよ。その前にパレリャーダをラングドック・ルーションの認可品種にすべく運動せよ。問題解決の道筋をざっくり言えばそうなる。もうひとつは、EUが自根ばかりか混植を禁止していることだ。日本の主流たる単一品種主義者は快哉を叫ぶだろうが、混植が伝統の南方産地にとって、それはワイン文化の破壊以外のなにものでもない。それに気づいている人はあまりに少ない。ワインの勉強とは、公的イデオロギーを無批判的に内面化して迷惑にもそれを無垢な素人に押し付けるためにするとでも思っているのか。違う。政治経済的思惑にまみれた公的イデオロギーが本当に正しいのかを自分で考え、判断するためにするのだ。

 

2019.10.02

牛肉赤ワイン煮用のワインについて

牛肉赤ワイン煮は水系調理の典型で口内味分布が拡散型だから、それに合わせてワインも拡散型にすべき、と考えるのは普通だ。肉の味だけを見れば確かに拡散だが、ワインまで拡散だと、食べた時に真ん中が弱くなる。シチューを食べる時によく注意すれば、大概の場合にその欠点に気づく。誰一人としてその話をしないが、料理用赤ワインはなんでも同じだと思っているのか。とはいえ集中型のワインでは肉の味の広がりの外縁部における肉とソースの一体感に欠ける。一長一短。この解決は簡単で、拡散型と集中型のふたつのワインを混ぜて使うことだ。

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赤ワイン煮は下方垂直性食材から下方垂直性食材まで多彩な要素からなる極めて垂直的な味なので、使用ワインは垂直的でなければならない。よくあるブフ・ブルギニヨンの失敗は、重心が高く水平的なワイン(ピノはそうなりがち)を使用することで、玉ねぎと人参に対する接点を失い、その下方向の味だけがワインとの一体感から遊離することだ。だからブルゴーニュワイン通がこの料理を作るときには無意識にもシャンベルタンやラトリシエールを使い、ルショットやモンリュイザン区画のクロドラロシュは使わないのは理に適う。

もうひとつの観点は岩ワインの重要性だ。土ワインだけでは焦点が定まらず、肉に対するソースの食い込みが足りない。つまりボルドーの中でも石灰岩のないサンジュリアンやオーメドックではダメで、サンテステフやサンテミリオン衛星地区の出番だ。同じくバロッサ・ヴァレーだけでは、いかにワイン単体では濃く感じられても適切な味構成のソースにはならず、イーデン・ヴァレーを加えねばならない。多くの飲食店で料理用にはコート・デュ・ローヌを使うようだが、クリュの一部以外のコート・デュ・ローヌは岩がないから、それは概して間違った選択になってしまう。フィトゥーやイルーレギーのような芯の強い岩ワインと適切にブレンドして使うべきだ。

結論としては、
1、集中型と拡散型の混合。
2、上から下までの垂直性。
3、土ワインと岩ワインの混合。

これは赤ワイン煮だけでなく赤ワインソースにも適合する。この基本的考えがわかっていれば、以下の質問には自分で答えられるはずだ。
1、メルロが拡散型でカベルネが集中型になったヴィンテージのボルドーは使えますか?
2、斜面の上から平地までの広い面積の畑のワインは使えますか?
それらはひとつのワインの中に多様な要素が含まれているのだから、一本でそのまま使える。逆に見るなら、近年の流行りの単一品種単一畑ワインは汎用性がなく料理には使いにくい。

今回の料理では、集中と拡散、そして上から下までの垂直性、土と岩に留意し、クリス・リングランドのバロッサ・ヴァレー・シラーズ(拡散)、ヘンチキのシリル(集中)、シャトー・カロン・セギュール(集中)を混ぜて使用した。順当な料理用ワインだろう。

過去何十年に渡って、牛肉赤ワイン煮に使う赤ワインはいかなるものであるべきかの考察と検証を続けてきた。ワインファンを目指すなら、このテーマについてしっかりした経験値と見解を持つことは必須だからだ。私は料理のプロではないので何十回しか実験していないが、フォンから引けば一回に完全にまる一日かかる。ただひとつの料理のひとつの要素でも、私のような凡人は何十日費やしてなんとか法則性が見えてくる。これでは100の料理を作るには100年の準備研究が必要になり、それは不可能だ。料理の神の声が聞こえる天才なら瞬時に全てを理解して一発で決められるかも知れないが、残念ながら私は声が聞こえない。すると、出来の悪い料理を100作るか、それとも自分で納得できるまでひとつの料理を何年かかけて作るか、という選択になる。しかし後者の場合、100人が別々の研究テーマを決めて探求し、得た結論をシェアすれば時間が一気に短縮される。そのためには料理に対して論理的なスタンスを取り、コミュニケーションを可能とする言語化の努力が前提となる。名辞的消費、流行、インスタ映えの追求のみが食への関心の中心的テーマではない。

 

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