ネイティブ・グレープ・オデッセイ
EUが農作物をプロモーションするイベント。その名も「地場品種の旅」という試飲会が青山アカデミー・デュ・ヴァンで行われた。
素晴らしいテーマ。EU諸国には地場ブドウ品種が何千もある。カベルネやシャルドネといった国際品種がほとんどの新世界ワインに対抗するには、地場品種に光を当てるのが一番だ。
新世界であっても、いまどきカリフォルニアやチリのカベルネ、シャルドネ、ピノ、ニュージーランドのソーヴィニヨンやピノで頭が固まっている人は、シーラカンスやアンモナイトの仲間だと思われ、ホモ・サピエンスとはみなされない。地場品種最低数百の使いこなしは、ワインファン全員にとっての常識である。
とはいえ、このイベント予算はEUのみが支出しているのではなく、参加産地なりワイナリーなりが金銭負担する。とすると、予算捻出の余力があるメジャー産地しか舞台に立てず、本当にサポートが必要なマイナー国や産地の地場品種には光が当たらない。さらに、一ブランド当たり二種類のワインしか出品できない規定も問題だ。いろいろな品種を作っていても、それだと例えばランゲならネッビオーロとバルベーラしか登場しない可能性が高く、本来の目的からはズレてしまう。実際にそうなってしまっている。なぜこの場でバローロとブルネッロが沢山出てくるのか?その話はここでせずともよいし、ネッビオーロとサンジョベーゼはもはやネイティブグレープとは言えないぐらい準国際品種ではないか。プーリアも、この州にはプリミティーヴォしかないのかと思わせる偏りかた。Pampanuto、Francavidda、Impigno、Verdecaといったプーリア地場品種のワインを飲んだことがない私としては、ここで勉強できると期待していたが。
最も印象に残ったワインは、Farro のLe Cigliate。カルデラに植えられた、火山灰土壌の自根のファランギーナ。すごいミネラル。火山灰の上昇力と自根の下降力のコントラストの高い調和が素晴らしい。これは経験すべき。厚切り豚肉生姜焼き的味。
意外と言ったら失礼だが、あのイニエスタがこんなに誠実な地酒だとは知らなかった。大スターの名前で売ろうとするコンテンポラリー・インダストリアル・ワインかと勝手に思っていた。これはイニエスタ家もともとの畑のボバル。カッコつけよう、上手く作ろう、というあざとさ皆無の、適度にざっくりした温かい味わいがいい。
絶対的品質ではパルッソのバローロ・ブッシアはさすが。ブッシアの骨格の確かさ、緻密さ、力強さ、形の整いかたの前では沈黙の後の感嘆しかない。しかしそんな常識をいまさら言われても皆リアクションに困るだろう。
絶滅の危機から復活したカラブリアのマリオッコは樹齢がそこそこ高くなり、以前のようにタンニンが目立つが中身が薄く余韻が短いといったことがなくなり、本来のポテンシャルが見えてきた。ギリシャ系黒ブドウ的なざっくり感がいい。他にはルケの壮麗なバラの香りと高密度な味わい、スケール感、際立った個性に魅了された。これはすごい。レバー料理に合わせるようだ。ブラケット・ダックイは中甘口赤ワインとして他では得難い存在。華やかでいて実体感があり、余韻も長い。デザートワインとして、また食前酒として、もっと評価されるべき。
安価なワインではFeudi del Vescovoのアリアニコ・デル・ヴルチュレと、グレコ・フィアノのブレンドが見事。小売1600円。普通のトラットリアにぴったりの、無理のない、クセはなくともきちんと土地と品種を感じさせる味わいと、料理客単価に相応しい価格。料理3000円台の数多いトラットリアならワインも売価3000円台でないと。普通のイタリア料理店に、こうした安価で素直な地場品種ワインがいろいろ揃っていることが、日本のイタリア食文化向上のためには大事だ。いや、イタリア料理店だけではない。普通の焼鳥店にアリアニコ、普通の天ぷら店にグレコ・フィアノが置かれる状況(もちろんこれは話の流れからの一例で、品種の候補は何百とある)が望まれる。そうなることがこのEUプロモーションの目的なはずだし、それは正しい。
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