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2020年1月の記事

2020.01.17

ビオディナミワイン用絵画の制作

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ワインは色にも形にも反応する。表現力が増す時もあればワインが死んでしまう時もある。ではどういう色でどういう形にしてワインのパフォーマンスを引き出すか。そう考え、ここのところビオディナミのセオリーを絵画に応用する方法を研究していた。

ワインバー&レストランMiyajiaraiから発注していただいたので、7枚組の油彩を制作した。同じワイン(シャトー・サン・ピエール、サン・ジュリアン、2004年と、ドメーヌ・ド・ラ・パントのオレンジワイン、サヴォール)で、ワインを絵に見せる前と見せたあとで味を比較。よりしなやか、のびやかで、ピュアで、細やかで、酸がビビッドで、大変に垂直的。当然ながら後者のビオディナミワインにはものすごい効果あり。コーヒーでも試してみたが、これまた同じ効果。えぐみがなくなり、酸がすっきり。自画自賛していてもしかたないが、自画自賛できないような絵では意味がない。ともあれ想定どおりの効果。制作に時間のかかる油彩は気持ちの入り方が半端ないので、そのぶん効果が大きいと思う。などと書いていると、理科系、自然派系双方のワイン関係者から「絵でワインの味が向上するわけがないだろう、ばか」と言われるが、批判は実際にワインを比較試飲してからお願いします! この効果が多くの場所で発揮されてほしいので、皆さまの発注お待ちしております!

 

 

2020.01.13

初心者講座 オレンジワイン

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いまやオレンジワインは日本に不可欠な存在。十年前にはマニア向けでも最近は普通に誰もが、「ワインは白にする?赤?それともオレンジ?」と言うようになった。しかしオレンジワインは玉石混淆の極み。流行りだから、と造るような覚悟なき生産者のワインは、オーガニックだろうがなんだろうがハズレ多し。白よりも赤よりも遥かにまずいワインの比率が高い。だから高度なワインファンは逆にオレンジワインと聞くと引いてしまうか、またか、とウンザリするぐらいの混沌とした状況だ。だから今回は、初心者の方々に向けて、ハズさないオレンジワインの選び方をお伝えした。
 
オレンジワインをいろいろな切り口から分類し、それぞれの有用性、意味を理解していただいた。
1、オレンジワインを造る動機分類 (伝統なのか、技術バリエーションのひとつなのか、商売なのか)
2、土壌分類 (軽い土か重い土か)
3、品種分類 (果皮が厚いか薄いか、芳香性があるか否か。また除梗の有無)
4、発酵容器分類 (タンクなのかクヴェヴリなのか。クヴェヴリの場合は地上置きか埋め込みか、またシールドありかなしか)
5、スタイル分類 (フレーバー型、ストラクチャー型、ボディー型)
こうした視点で分類できるようになれば、どんな土地のどんな品種のどんなつくりのオレンジワインを選べばいいか、各自で考えられるようになる。オレンジワインというだけで喜んだりありがたがったりする時代は過ぎた。
 
当たり前だが、美味しいオレンジワインは本当に美味しい。今回は最後三本、オスラヴィアのリボッラの完成度に感服し、スピッツァーベルクのグリューナーのかっこよさとアルボワのサヴァニャンの気品に心酔した。乱暴な結論を言うなら、皆が揃って評価したワインは、軽い土で果皮が薄くて味が弱いから醸し発酵にした、という味の補正型オレンジワインではなく、むしろ粘土・果皮厚のワインの個性を醸し発酵にしてさらに強めた、味のブースト型オレンジワイン。すき焼きはもともとこってりした松阪牛ロースを使うからおいしいということだ。
そして、別格の存在が、アワ・ワイン。これがあの偉大なソリコさんが癌でお亡くなりになる前の最後のヴィンテージ。健康だった頃のワインと比べたらエネルギー感がないが、それでも他とは次元が違う壮大なスケール感と深みと存在感。一生忘れてはならない味だった。

2020.01.07

ドン・メルチョー 2017年

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気合い充分な作品だ。チリのカベルネ・ソーヴィニヨン最高の産地、プエンテ・アルトの底力を堂々と伝えるワイン。1987年の登場以来、チリを代表するアイコン・ワインとして名高いドン・メルチョー。かつてはある種の粗削りな力強さが魅力だったが、このヴィンテージでは質感が緻密になり、高密度感と流麗さ、パワーと軽やかさを高度に両立する現代的かつ普遍的なグラン・ヴァンへと大きく進化している。特にタンニンの質的向上に関しては顕著であり、リッチな果実味と溶け合って豊かな飲み心地を堪能させてくれる。

以前コンチャ・イ・トロでさる重役に話を聞いた時、彼は隣人ふたりのワインよりドン・メルチョーの評価が低いことを嘆いていた。相対的低評価のひとつの明白な理由はあのザックリ感だと思っていた。個人的にはそれもまた作り込みすぎない良さだと捉えていたが、世の中の揚げ足取りが好きな人には絶好の減点対象だっただろう。もうひとつの理由は、ドン・メルチョーがコンチャ・イ・トロのワイン(それももはや最高価格品ではない)だからだろう。大手生産者のワインは、それが大手だという理由で斜めに見られるものだ。前者の直接的理由は2017年ヴィンテージで解決された。後者の偏見は、30周年を機にコンチャ・イ・トロからヴィーニャ・ドン・メルチョーとして独立したワイナリーになったことで是正されるだろう。「90点台後半をなかなか取れない」との彼の苛立ちもこれで終わりになったと願いたい。

それにしても姿形の美しいワインだ。重心が真ん中にあって丸くしなやかに広がりつつ、しっかりと垂直的構造を保つ。洗練度を増しつつも人工美に陥らないのは、グラン・クリュたるプエンテ・アルトの卓越性の証明。それを今まで経験したことのない完成度で表現したこのヴィンテージのドン・メルチョーは、チリの代表たる使命を充分に果たしている。とはいえ2017年ヴィンテージが最終着地点だとは思わない。さらなる躍動感や立体感のために、次はビオディナミ認証を目指してほしい。

このようなグラン・ヴァンには蛇足的情報かも知れないが、ドン・メルチョーは塊肉ステーキ用ワインではない。温暖かつ低収量の2017年らしい快楽的な果実の甘みと濃密さを見ればなおさら、最上の黒毛和牛(たぶん米沢牛。松坂、近江は概して重心がやや低い)ハンバーグの赤ワインソースと合わせてみたいと思わせる。よくスーパーでチリのカベルネ・ソーヴィニヨンの値札に「ハンバーグに合う」と書いてある。これはその通りであって、仮にハンバーグワイン選手権があれば確実にチリは優勝候補だ。しかしハンバーグはお手軽惣菜とは限らない。家で最高品質のハンバーグを作るとしたら、そこで飲むべきワインはドン・メルチョーだ。家では鴨のコンフィと合わせ、十分においしかったが、最良の相性とは言えなかった。その理由は明白で、ドン・メルチョーのほうが味の要素が多く、スケールも大きいからだ。つまり、古典的な粘度のある、複雑な味のソースが必要なのだ。

チリのカベルネ・ソーヴィニヨン=コンビニワインの定番というイメージが蔓延している現状では、このワインに積極的な関心を持てない愛好家が多いだろうと推測がつく。しかし先入観・偏見なく、よいワインをよいと評価できる人には、ドン・メルチョー2017年はセラーに備えておいてしかるべき作品だと伝えておきたい。

 

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