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2020年2月の記事

2020.02.15

スロヴァキアのナチュラルワイン生産者、Marvla Tindo来日セミナー

スロヴァキアのナチュラルワイン生産者、マルヴラ・ティンドのオーナー、マーティンとヴラドが来日し、セミナーを行った。

 
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彼らのワインは火山のカルデラの中にあるタフ土壌の畑から出来る。阿蘇山の中に村や畑があるようなもの。死火山だから可能な状況。それゆえに味わいは火山性ワインの代表と言えるほど、火山のシャープで溌剌としたミネラルに溢れている。

 

千年前からブドウ栽培の記録が残り、16世紀にはヨーロッパ最大の採掘量を誇った金鉱山もあった土地。大きく見れば東のカルパチア山脈がロシアからの冷気を、西のアルプス山脈が大西洋からの雨を遮り、北から東にかけての外輪山がさらに冷気を食い止め、開けた南側からパノニア平原の暖気が入ってカルデラ内に溜まるという絶好の気候条件。さらにタフは吸湿性、蓄熱性があるから、ブドウが良く熟す。

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しかし最近流行りのスタイルで、「ブドウは糖度ではなく酸と種の成熟度を見て収穫」。すべてのワインは、火山性土壌というせいもあって重心が高く、酸が強く、固い味だ。亜硫酸添加を20程度に抑えるためには、この低pH味は必然。私はともかく、世界中のワインファンやプロが称賛する典型的な今風の味だ。

 

ウェルシュリースリングのペットナットが完全辛口で素晴らしい。普通のアンセストラル法なら残糖は不可避。彼らは前年のワインに今年の発酵中マストを加えて瓶詰めすることで、クリーンな風味、安定性、完全発酵を実現。瓶詰め時に酸素が入り、酵母の活動を促進するらしい。普通のアンセストラル法と比べて供給酸素量は6倍だという。

 

同じくウェルシュリースリングのオレンジワインも秀逸な出来。果皮が薄いこの品種は醸し発酵しても苦みが出ないし、樽に入れて還元的な環境にしてそれから果帽に触らない(つまり種を傷つけない)造りもこのワインの抜けの良さ、苦みのなさに寄与する。旨味と粘りを増して苦みを出さないオレンジワインというのは役に立ちそうだ。さすがに元バドワイザーの醸造家。技術力がある。

 
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赤ワインは白ワインより見劣りする。そもそもタフ土壌は世界中で白の方が良くないか?フランコフカの造りについて私は、「フランコフカは二つの顔を持つヤヌスであり、しなやかで優美な側面と逞しく強い側面がある。このワインは前者3割後者7割でバランスが悪い。発酵温度高すぎ、キュベゾン長すぎ、バリック強すぎ」と言った。聞けば彼らも問題意識を共有していた。樽なしステンレス熟成バージョンも作って結果は良かったようだ。「最初は今ひとつだと思ったが、瓶詰めしてしばらくしたら良くなった」と。フランコフカにバリックは要らない。その方向性で正しいのだと背中を押すべきだ。頭の中で無意識にも基本尺度化しているミッテルブルゲンラント的スタイルから自由にならないといけない。極論すれば、タフ土壌ならフランコフカのロゼが飲んでみたい。

 

セミナー中には私ただひとりが質問したり意見を言ったりしていた。生産者も「皆さんの意見を聞きたい」と言っていたにもかかわらず。だいたいのところ、質問も意見もない場合の理由は、ワインマニアはプライドが高くて人前で変なことを言って恥をかくのを怖れるからだ。ないし、知識経験よりプライドが上回っているからだ。ワインを自己ポジショニング用の手段と見ているなら、人前で恥をかくより、何も言わずに神秘のオーラを纏うか、後出しジャンケン的にコメンテーターを演じるほうが有益だ。人に尊敬もされる。しかしそこにはワインと生産者に対する愛はあるのか。私は知識経験のない素人だと自覚していて、自分を大きく見せる必要もない。だから、いいものはいい、ダメなものはダメ、と言うだけだ。それにしても、人の質問を批判する暇があるなら自分で質問しろ、とは言いたい。

 

話を戻すが、スロヴァキアでもこうして新世代のオーガニック系生産者が登場するようになって嬉しい。社会主義的大量生産工業メンタリティは完全払拭して欲しい。しかし彼らのワインの味はオーガニックであってもビオディナミ的な異次元感はない。予想可能な味に終始しては自然の秘義には到達出来ない。次のステージに立ってもらえるよう応援したい。今回のセミナーで感じられた彼らの情熱と分析力と技術力をもってすれば、さらなる進歩がみられることは確実だ。そしてこうしたワインが次々に登場してくれば、スロヴァキアは世界のワイン地図の中で重要な位置を占めることになるだろう。

 

ところで火山性ワインのミネラル感に関して「どうしてそうなるのか科学的根拠がないから納得出来ない。あなたはいつもそんなことを言っているが、数式で証明してからものを言え。ただの思い込みを発言するなど無責任だ」とお叱りを頂いた。確かに最近は、ワインを勉強している人はそういうスタンスが基本だ。美味しいかまずいかより、どんな生化学反応でどんな物質が生成されるかの方がワインファンの関心をひくらしい。自分とは違う視点、違う価値尺度の人と話すのは楽しいし、学ぶことが多い。

 

しかしダークエネルギー、ダークマターとはなんなのか。わけわからんものが宇宙に満ちている状況も、それが発見されたのは最近だという事実も、つまりは世の中知らないこと、分からないことばかりだ、と。今数式で証明できるもの以外は幻覚だとすれば、既知の素粒子など全体の5パーセントでしかないのだから、たぶん世界そのものも幻だろう。

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