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2023.01.02

2022年のベストワイン


2022年もたくさんの素晴らしいワインに出会えた。ほとんどは日本橋浜町ワインサロンの講座でお出ししたもの。皆さまの多くと経験を共有できて幸せだと思える。

 

ベストの選出理由はひとつではない。純粋に素晴らしいものもあれば、見方・考え方を修正させてくれたものもあれば、既に最高のワインだと知っているものの新ヴィンテージもあれば、個人的な思い出を含めて印象的だったものもある。数え上げていればきりがないが、残念ながら写真がないワインは除外するしかなかった。

 

ベスト5は以下のワインにしておきたい。

 

Castel Salegg Moscato Rosa 2017
2022-19

ズュート・チロルにシチリアから始めてこの品種を持ち込んだ、この地の貴族のワイナリー。イタリア甘口ワインのひとつの頂点。心が純化されるピュアさと平和の感覚。心のわだかまりやしこりが、すーっと溶解していく。譬えて言うなら、ガリラヤ湖のほとりで飲むべきワイン。いま普通に買えるものの中では、最もイエスの言葉にフィットする飲み物。

 

Couly-Detheuil Chinon Rose 2020
2022-18

クロ・ド・レコーを所有するシノンの代表的生産者による、ロゼ。早摘みでもなければプロヴァンスもどきでもない、ワインらしいワイン。川沿いの砂利・粘土の土壌のカベルネ・フラン。正直、そこまでいいテロワールだとは思われないのに、このワインの圧倒的な完成度、エネルギー感、気品たるや別次元。何か奇跡が起きたのかと思うほどの、浄化された至福。天国が垣間見えるワイン。もちろんクロ・ド・レコーは素晴らしいが、それは誰でも知っていること。しかしこのロゼのすごさは誰も知らない。

 

Dario Princic Cabernet Sauvignon 2010
2022-22

フリウリ、コッリオの、アンバーワインが大人気の生産者、プリンチッチ。自分にとって今までで最高の傑作は、このカベルネ。75日マセラシオン、9年樽熟成という狂ったような造り。しかしこれこそ人智を超えた奇跡。長いマセラシオンがブドウのすべての情報を引き出し、長い樽熟成が世俗の塵芥を洗い流し、そしてそのあとにワインの中から崇高な気配が立ち現れる。肉体性のない力感に、まっすぐに天に向けてのぼっていくゆるぎないエネルギーに、ただただ感服。

 

Continuum 2019
2022-14

ナパ・ヴァレーの東の山中、プリチャード・ヒルにある畑からティム・モンダヴィが卓越した美意識と比類なき知見をもって生み出した傑作。栄光と悲劇の両極端に翻弄されたひとりの天才がたどり着いた清明な救いの味。半世紀にわたる不断の努力の結果としての平明な“空”性にして安寧の調和。今までで最もカベルネ・フランの比率が高く、しなやかでリッチで香しい、

 

Daniel-Etienne Defaix Bourgogne Rouge 2020
2022-8

シャブリ1級畑に植えられた自根の超古木ピノ・ノワールのワイン。表層的なブルゴーニュ観を根底から覆す、真に修道院的な、内面への希求と禁欲の向こうにある輝かしい存在の確かさ。大地から湧き上がってくるエネルギーの波に飲み込まれそうなほど。すべての人が経験すべきワイン。

 

このようなワインを飲めば、我々は救われる。真に偉大なワインとは、我々の頭上に降り立つ精霊の鳩であり、我々と阿弥陀如来をつなぐ糸である。残りの人生を考えよ。無駄なお金と時間を費やしている余裕はない。あなたがワインが好きならば、ワインによって涅槃に至る道筋を考えなさい。

 

上記のように“救い”を感じるワインは、今回のリストの中では、

 

Chateau Belingard Cote de Bergerac Moelleux 2019
2022-20

心 地よい判断停止を導く“空”性の微甘口。努力を努力と感じさせない貴族のワイン。

 

Lail Vineyard  Napa Valley  Georgia 2018
2022-1

痛々しいほどの高貴さ。人間のドラマと天才によって見出されたテロワール。そしいてそれらの物語を超えた静けさ。ナパ・ヴァレー最上のワインのひとつ。ソーヴィニヨン・ブランという品種のワインではない。

 

Elio Altare Barolo Cannubi 2017
2022-12

危険なまでの甘美さを乗り越え、現世的な快楽の味を究めて到達した、胸かきむしられる気高さ。人間の精神の崇高さを目の当たりにして、むしろ己を律することができるワイン。アルターレの恐るべき力業。

 

Almaviva 2020
2022-5

アルマヴィーヴァはチリで作られたフランスのワインなのか、それともチリのワインなのか。デビュー以来この両極を揺れ動いてきたアルマヴィーヴァ。外国との往来が途絶え、コロナ最悪期の明日をも知れぬ不安の中で、チリ人が全身全霊を注いで作り上げた2020年は、今までとはまったく異なるほどのチリらしいチリワイン。カベルネ主体とは思えないガルナッチャのような味わい。プエンテ・アルト畑の圧倒的なグラン・クリュ性と精緻を究めたワイン造りの技術に支えられた、内に秘めた迫真の緊張感とそれを一切表に出さない柔和で静謐な佇まい。

 

その他のベストワインは以下。挙げていればきりがなくなるので、このぐらいにするしかない。。。。

 

Vigna Petrussa Refosco 2018
2022-21

あるべきものがあるべきところにおさまった、思想や技術が空回りしない、上品な調和。しなやかでのびやか。フリウリ・コッリ・オリエンターリのクリュ、プレポット村の中で、昔から最も好きな生産者のひとり。個性豊かなスキオペッティーノももちろん素晴らしいが、この地の代表的食中酒であるレフォスコの寛容さに心安らぐ。

 

La Tour Gallus Muscadet Sevre et Maine Sur Lie Fluer de Gabbro 2018
2022-23

薄くて酸っぱい時代から、妙に樽が効いたワインや空疎なナチュラルワイン等々の紆余曲折を経て、ミュスカデがやっと安心して飲める普通の味のワインになったと思えた作品。ミュスカデはブルゴーニュ品種のワインなのだと納得できた、場所は変わっても不変のブルゴーニュのDNAの濃さ。間違ってはいけない、本来的にミュスカデはブルゴーニュ・シャルドネと代替可能なワイン。魚用ではない、がっちりした岩ワイン。

 

Domaine du Pavillon  Corton Clos des Marechaudes 2016
2022-2

このつややかさ、この精妙さ、この香りの表現力、このスケール感。まさにグラン・クリュ。あるべきオーガニックの味。コルトンの中でもたぶん最も過小評価されている畑、そしてブルゴーニュの中でもかわいそうなぐらい過小評価されている生産者、アルベール・ビショーの名品中の名品。

 

Domaine des Tourelles Valle de la Bekaa Cinsault Vieilles Vignes 2018
2022-3

レバノンワインのひとつの理想。旧約聖書に出てくるとおりの芳しさ。きらめくミネラルと酸の精緻な冷涼感。カベルネ・ブーム以前の70年代までのレバノン赤ワインの基幹品種はサンソーだった。蔑視されがちなサンソーの本来の美しさを復活させたこのワインを飲めば、その正しさを再発見するのみならず、世界屈指のワイン産地としてのレバノンの底力を認識することになる。

 

Chateau Climens Bordeaux Asphodele 2019
2022-4

白ワイン産地としてのボルドーの偉大さを、そしてセミヨン品種を再認識させてくれる、圧巻の存在感、立体感、エネルギー感。バルザックを代表する生産者のセミヨン100%のビオディナミ辛口。

 

Joh. Jos. Prum   Mosel Wehlener Sonnenuhr Kabinett 2020
2022-6

自分がものごころついた頃から知っている、世界のワインの代表のひとつとして崇められてきた特級畑ワイン。昔は農薬&亜硫酸の悪しき例だと思っていたが、この数年の変化たるやすごい。昔ながらの透明感としなやかさと輝く酸の中甘口のスタイルはそのままに、味わいは遥かにナチュラル。この畑は決してミネラル感を表に立てない、流麗で繊細でやさしい、ピュアでフルーティな味わい。そのかけがえのない美しさが昔は分からなかった。栽培・醸造の問題だけが理由ではない。子供の頃、現在の私の年齢の方々が絶賛していたのを見聞きし、年寄り趣味だとどこかでバカにしていたのを覚えている。今になれば思う、私は確かに子供だった。このワインが素晴らしいと素直に思えた今の自分に、自分自身で驚いた。

 

Smallfry Barossa Valley Vine Vale Garden Mataro 2017
2022-7

私の敬愛するビオディナミ生産者の最高傑作。日本に輸入されているスモールフライのワインだけを飲んでいると誤解してしまうから注意。バロッサ、とりわけヴァイン・ヴェール地区のテロワールの素晴らしさを実感できるとともに、この地におけるムールヴェードル品種の卓越したポテンシャルが分かる、おだやかでいてダイナミックで立体的な、濃厚でいて軽やかなワイン。

 

Stolpman Vineyards Ballard Canyon Original Syrah 2018
2022-9

この地に植えれらた初めてのシラー。石灰岩土壌、自根、無灌漑。なんという深み、なんというゆとり。これぞ古典。シラーに関心のあるすべての人が飲むべき、最高のカリフォルニアワインのひとつ。そしてこのようなレベルのカリフォルニアワインは、俗にいうカリフォルニアの味はしない。

 

Mas Del Perie Cahors Les Escures 2019
2022-10

現代カオールの到達点。いや、この地が最高のワイン産地とみなされていたボルドー興隆以前の中世への正当な回帰と言うべきか。キンメリッジアン土壌のビオディナミのカオール。エレガンスの極み。多くの人がカオールやマルベックという語から連想するものとは遠い、華やいで軽やかな気配。

 

Bien Nacido Estate Santa Maria Valley Pinot Noir 2018
2022-11

言わずと知れたカリフォルニア・ピノの代表的畑。セントラル・コーストのピノの嚆矢。ソリッドな実体感のあるミネラルとしなやかな質感。ふくよかな果実味とビビッドな酸。それら個別の要素を大きく包み込む風格と寛容さと圧巻の長さの余韻は、グラン・クリュとしか言いようがない。

 

Bass River Gippsland Pinot Noir 2020
2022-13

オーストラリア、ヴィクトリア州南岸、潮風と曇り空と涼しさの、薄い色のビオディナミのピノ。70年代、80年代のブルゴーニュを思い起こさせる、限界的な気候のもとでのスリリングなバランス。ペン画のような精妙なディティール。キュッと爪を立てる酸。そして何より鼻腔を満たす魅惑的な香りの支配力。

 

Tiezzi Rosato 2021
2022-15

この地を現在知るような偉大な産地へと導いてきた、元ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ協会長、ティエッツィ氏の自家消費用ロゼ。丘の上にある最上のテロワールと卓越した知見・経験を背景として、さらっと作った、規制、人為、市場性から自由な、ある意味究極的なワイン。ブルネッロ以上にモンタルチーノという土地を感じさせてくれるとさえ言える、風格ある味わい。最上の普通さ。

 

フェルミエ  ロゼ  2021
2022-16

私の考えを取り入れてつくられた、ピノ・ノワールとピノ・グリの混醸のロゼ。新潟ワインコーストのテロワールをダイレクトに感じさせる、この地のワインの中でも最上の一本。海風と安山岩と砂の味。しなやかであたたかみがあって軽やかで、深みと色気と芯の強さがある。少し手前味噌ではあるが。砂地でごっつい赤ワインを造ろうとしては失敗する。しかしこのようなロゼにとっては、新潟ワインコーストは最高の土地であることを証明する作品。

 

Francois Carillon Bourgogne Rouge 2018
2022-17

ピュリニー・モンラッシェ村とその南東隣の村のピノ・ノワール。低地、平野の地域名ワインとは思えない優美さと凝縮度と複雑さ。白ワイン生産者の造る赤の典型といえる、ごりつかない、透明感のある味。3千円台という値段でこの1級なみの品質なら、世界のピノの中でも最高のお買い得。私はもともとピュリニーの赤が大好きなのだが、久しぶりに飲んで、その気品に感じいった。

 

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