VieVinum 2018, Vienna, Austria
ウィーンの新王宮で隔年開催されるオーストリア最大のワイン試飲会、ヴィエヴィヌム。オーストリアワインファンには必須のイベントですから私もほぼ毎回参加しています。昔は日本人の姿はあまり多くありませんでしたが、2年前や今年はたくさんの方が来ていたようです。オーストリアワインマーケティング協会もオーストリア大使館商務部も意欲的かつ献身的で、参加者にはホテルのディスカウント予約(最高のホテルです!)等のサービスもありますし、セミナーやパーティのプログラムも充実。オーストリアは意外と物価が安く、お金はあまりかかりません。ウィーンじたいが世界遺産で雰囲気もよい。ホテルから写真の公園を通って新王宮に歩いていくだけで、あまりの美しさに感激してしまいます。ヴィエヴィヌムにまだ参加したことがない方は、是非2020年にはウィーンに行きましょう。ここではヴィエヴィヌムで学んだこと、考えたことをかいつまんでお伝えします。
▲ヴィエヴィヌムの会場はハプスブルク帝国の中心、ウィーンの新王宮。
▲会場に行く途中にカフェでケーキとウィンナーコーヒー(アインシュペナーと言います)の朝ごはん。
▲上写真はフリーランチのデザートコーナー。中写真はウィーン市内で行われた夜のパーティ。下写真はウィーン楽友会館大ホール。ニューイヤーコンサートでもおなじみの、世界一のコンサートホールです。ヴィエヴィヌムの会期中も連日素晴らしい演奏が行われています。開場1時間前にチケット売り場に行けば立見席が千円程度で買えます。
□Rosalia DAC
最新の話題といえば、ロザリア。前触れもなく登場した新しいDACです。場所はライタベルクの南、ミッテルブルゲンラントの北、今まで空白だった地帯。これでブルゲンラントは全域がDACでカバーされたことになります。
ロザリアは赤とロゼのアペラシオンで、赤はツヴァイゲルトとブラウフレンキッシュ、ロゼは、なんと、オーストリア認可赤全品種です。
▲右がロザリア(発足したばかりのDACですからまだラベルには記載がありませんが)、左がライタベルク。違いを理解するには好適なペアです。
全体としてはライタベルクより石灰が少なく、ミッテルブルゲンラントより粘土が少ないのがロザリア。つまり軽い土で、フルーティなワインができるエリア。強力な個性を持つ2つのDACに挟まれて、独自性の表現は難しそうです。ロザリアとライタベルクの2つのブラウフレンキッシュを作るラッスルで両者を比較すると、ライタベルクのほうが遥かに上質。ライタベルクはフォーカスが定まって緻密で華やか。ロザリアは散漫で短い。ロザリアのエリアが今まで除外されてきたのには意味があると思ってしまいます。ラッスルさんは「出来たばかりのDACだから、きちんとした形になるまでに時間がかかる」と言います。とはいえ両者同価格というのは少なくとも現状では信じがたい。彼自身がライタベルクのほうがいいと言っていたのに。ツヴァイゲルトに関しては、可能性としては、ノイジードラーゼーDACをもう少し堅牢にした感じのワインになるのではないでしょうか。
土が軽いだけに、ロゼ産地としてのポジション取りは見事な戦略です。他にはロゼのDACはありません。逆に言えば、それ以外にアイデンティティを確立する方策はないでしょう。ブラウフレンキッシュでもツヴァイゲルトでもカベルネでもシラーでもなんでもOKというのは驚くべき規定で、つまりはロゼならなんでもこのDACで引き受けるわけです。しかしこのエリアは温暖です。オーストリアらしいロゼになるかというと疑問。むしろシュタイヤーマルクやヴァインフィアテルのほうがロゼには向く気候なのではないかと思います。できればタヴェルやプロヴァンスのように赤白混醸も認めるべきです。そうすればさらに味わいの幅が広がるだけではなく質的にも向上するし、暑苦しい味にはなりにくいはずです。規定が出来上がる前に誰も赤白混醸の話をしなかったのでしょうか。
□VieVinumでのクリンガー会長のセミナー
ロザリアDAC以外にも続々と新しいDACが誕生するようです。オーストリアワインマーケティングのクリンガー会長のセミナーで報告されたところでは、ついにヴァッハウも、もしかしたら今年中、少なくとも来年にはDACに。自主的な組織ヴィネア・ヴァッハウがDAC制度に先駆けて、ある種のアペラシオンを作り上げたのがヴァッハウですから、彼らとしてはプライドがあるようで、今までは後発のDACに関心を示してきませんでした。そんなヴァッハウが動くとなれば、全産地のDAC化も近づいてきたと言えます。
▲いつもユーモアを忘れないウィリー・クリンガー氏のセミナー。2018年10月には来日する予定。日本でのセミナーが楽しみです。
いろいろな品種が成功するが故に、認可品種を絞り込めていなかったカルヌントゥムも、白はグリューナー、ヴァイスブルグンダー、シャルドネ、赤はツヴァイゲルト、ブラウフレンキッシュ(ミニマム3分の2、つまりブレンドか単一品種)になり、今年中にDACになる様子。さらに今年中には、シュタイヤーマルク三産地が、ウェルシュリースリング、ソーヴィニヨン、ゲルバームスカテラー、トラミナー、リースリング、ヴァイスブルグンダー、モリヨン、グラウブルグンダー、そしてヴェストシュタイヤーマルクだけそれらプラス、シルヒャーという品種で決着してDACに。総花的ですが、自分としてもこれしかないと思います。ウェルシュリースリングのDACが出来たのは何より喜ばしいところです。ちなみにシルヒャーラントになると言われていたヴェストシュタイヤーマルクはそのままの名前で残ります。シルヒャーだけがおいしいわけではありませんから、それで正しいと思いますが、同時に、ではヴェストシュタイヤーマルクとズュートシュタイヤーマルクの何が違うのか、という疑問は湧きます。シストとオポックの違いでしょうか。皆さんにとってもこれからひとつの研究テーマになりますね。
そしてエリアとスタイル(甘口)が合体したDACとして、ルスター・アウスブルッフとゼーヴィンケルが誕生する予定。これも順当です。甘口ワインは、今では需要が少なくなったとはいえ、ノイジードル湖の名物ですし、特にルストに関しては歴史的にも極めて重要です。
地球温暖化はオーストリアでも顕著で、1980年から気温は2度上昇。干ばつ、洪水、雹、地滑り、遅霜といった被害もあります。冬に気温が下がりきらずに病気が残ってしまうのも大問題。そこでPI WI品種の出番。既に認可されているレーズラーとラタイに加え、ブリューテンムスカテラー、ムスカリス、ソーヴィニエ・グリが認可。これからもっと増えてくるでしょう。これもいいことです。オーガニックだと言って銅を大量に撒くより、もともと病気にならない品種に転換する方が環境負荷が減少するに決まってます。
興味深いデータとしては、オーガニックブドウ畑の比率が13パーセント、認証オーガニック生産者が679軒、全体の75パーセントが減農薬ということ。この点に関して、オーストリアは世界のリーダー。それは確実にワインの味に出ています。
ちなみに日本は世界15位のオーストリアワイン輸入国。欲を言えばきりがありません。まあ、そんなものでしょう。日本は一過性ブームが大好きな国なので、流行りものになってはいけません。オーストリアワインが必要だと思えるTPOをしっかり意識して、オーストリアワインを代替不可能なものとして楽しんでほしい。堅調に推移して欲しいです。
□ウィーンのワイン
ホイリゲ文化やゲミシュターサッツという側面からのみではなく、純粋な品質からしてもウィーンのワインは、特に北側ニュスベルクやグリンツィングのワインは傑出していると思います。例えばホイリゲで有名なマイヤー・アム・ファールプラッツのフラッグシップワインのひとつ、リースリング・プロイセン。緊密な構造と圧巻の余韻を見れば、ここがオーストリアでも屈指の産地だと分かります。
▲上から、マイヤー・アム・ファールプラッツ、ハイサン・ノイマン、クロイス。
このような優れた単一畑ワインがこれからどんどん登場してくるはず。なぜならウィーンでも、カンプタルやクレムスタルと同じく、エスタライヒッシュ・トラディチオンズヴァイングーター協会によるエアステラーゲの認定が行われたからです。フリッツ・ヴィーニンガーさんによれば、その数は12。彼の所有するハイサン・ノイマンの新作、リート・ゴリンとリート・シュタインベクもそれに含まれます。前者はヴァイスブルグンダー、後者はリースリングのワインです。ハイサン・ノイマンのゲミシュターサッツにはあまり感心したことがない私ですが、これらエアステラーゲのワインは別次元。ピシッとフォーカスが定まり、いかにもウィーンらしい心地よい緊張感があります。それに比べて4つの「ナチュラルワイン」シリーズの散漫さや濁りやほぐれなさはどうしたものか。亜硫酸無添加ワインが流行っているのは分かりますが、ヴィーニンガーさんは本当にこれで納得しているのだろうかと思ってしまう。ともかく瓶詰め直前のSO2添加はいけません!「SO2を入れておけば私は安心して眠れる」と言ってましたが、それなら普通に何度かに分けて添加すべきです。ないし、完全無添加にして自分のホイリゲだけで売る特別なワインにしてもいいのではないかと思います。
ウィーナー・ゲミシュター・サッツの中では相変わらずレニキスのワインが一番よいと思いましたが、今回初めて飲んで印象的だったのがクロイス。値段がとても手頃でいて、ウィーナー・ゲミシュター・サッツらしい引き締まった複雑性と垂直性があり、チープな味にはなりません。日常ワインなのにこんなに気品があるというのがウィーンの凄い点です。オーストラリア最高の銘醸地はどこだと思うかと誰かに聞いて、それがニュスベルクという答だとしても、私はまったく驚きません。
□“ナチュラルワイン”について
オーストリアは今、オレンジワイン、アンフォラワイン、SO2無添加ワインの大ブームです。いったいどうなっているのかと思うほど、そうです。多くのワイナリーが、通常のワインに加えてそういった「ナチュラルワイン」をラインナップに加えるようになりました。
アンフォラで熟成すると「ナチュラル」で、樽で熟成すると「アンナチュラル」でしょうか? 醸し発酵だと 「ナチュラル」で、果汁発酵だと「アンナチュラル」でしょうか? まさか、です。それらの手段、道具の差で自然か否かが分かれる訳がない。そう思うなら大バカ者です。どちらも人為です。ナチュラルとアンナチュラルが分かれるとしたら、道具の差ではなく、生産者の姿勢の差とワインという結果の差です。それら多くの「ナチュラルワイン」はまずい。ナチュラルな姿勢でもなければナチュラルな結果にもなっていない。これではジョージアワインにも失礼です。
▲“ナチュラルワイン”のラベルはなかなかエキセントリックなものが多いですね。エスタブリッシュメントに対するオルタナティブ、プログレに対するパンクみたいなものとして見ると分かりやすい。しかし正しい立ち位置は、ナチュラル=メインストリームとすることであって、反何々、ではありません。
そもそも、この写真(ヴィエヴィヌム会場のナチュラルワインコーナーの看板)に見られるように、ナチュラルワインの要素としてオーガニックとオレンジワインが同列に扱われているのはおかしい。オーガニックは前提であり、下位カテゴリーではない。
使用した筆や絵の具の型番のほうが内容や対象や美的価値より上回る絵画がどこにあるか。溶き油が石油由来だからその絵はアンナチュラルだ、ポピーオイルだからその絵はナチュラルだと言っている人がいるか。手段が前面に出ているうちはナチュラルでもなければ正しくもない。本当によいものなら手段の存在は感じないものです。
今は過渡期でそのうち手段をマスターして結果のナチュラルさに至るようになるのかも知れません。それまでにまた次のブームが来て、新しいおもちゃに皆が飛びつき、皆がそれを囃し立て、消尽してまた次のおもちゃを探すことの繰り返しをするのかも知れません。ひとつの責任はワインジャーナリズムにあります。目的意識と価値判断なき最新ブームの煽りがもたらしたものが、オーストリアのみならず世界で見られる、まずい「アンフォラオレンジ亜硫酸無添加ワイン」の氾濫でしょう。
私は美味しいアンフォラワインも美味しいオレンジワインも美味しい亜硫酸無添加ワインも大好きです。手段は手段でしかありません。むしろ、それが理解されないことが理解できません。
□ヴァグラム、ゾールナー
ヴァグラムの試飲会場は、ヴィエヴィヌム会場の中でも最も空気が澱んで重く、暗い場所。なぜか唯一冷房の効いたカルヌントゥムと一部のヴァインフィアテルの部屋とはおお違い。ヴァグラム最上の生産者と言えるゾールナーさんに、なぜいつもこの部屋なのかと聞くと、「最悪でしょう?しかし我々は小さな産地で力がないから」。ワインなど試飲したくない環境にもかかわらず、ゾールナーのワインはさすがです。抜けが良くてキビキビしたリズム感があります。ゾールナーはアンフォラ発酵がブームになる前から陶製のタンクを使っています。実にニュートラルで、多くのアンフォラのように、得るところもあれば失うところもある容器とは違います。柔らかいボリューム感とディフィニションが両立しているのです。
最近の流行りゆえか、彼もオレンジワインを作るようになりました。ローター・ヴェルトリーナー品種を使った、陶製ボトルに入ったイルデンです。しかし、さすがゾルナー、変な酸化風味や苦味はなく、汚い香りもしません。大半のオレンジワインがベタっと水平的で余韻も短いのに対し、きちんと垂直性を保ち、リズミカルで、余韻が長い。つまりは正しいオレンジワインです。彼も「多くのオレンジワインは酸化していて好きではない」と言います。ちなみにこのイルデンは8割のオレンジワインに通常のワインを2割混ぜたもの。そのセンスがいい。結果が大事なのであって過程が全てではありません。ゾルナーさんにはもっと影響力を持ってもらいたいものです。当人は「私はリーダーになれるタイプの人間ではない」と言ってましたが。
ちなみにヴァグラムがいつになってもDACにならない理由は、遅く摘んでアルコールが高いワインがヴァグラムらしいと考えるグループと、ゾルナーさんのようにアルコールが低めのキビキビした味がヴァグラムらしいとするグループの間に、意見の合致を見ないからだそうです。それも変な話です。最低と最高のアルコール度数を広く取った規定にすればいいだけです。気温を見れば前者の意見に賛同するし、レス土壌らしさを重視すれば後者が正しい。その幅自体がヴァグラムの魅力だと、どうして高所大所から判断できないのか。
まとめ役がいないということですね。ワインも政治だなと思います。
□オーストリアン・ゼクト
ゼクト(スパークリングワイン)の法律が出来た今、ヴィエヴィヌムでも積極的にゼクトを訴求。まだまだ多くはシャンパーニュのオーストリア版であって、オーストリアらしさを感じさせるものは少ないと思います。いろいろ飲んだ中では、グラーフ・ハーデックのシャルドネとピノのゼクトが印象的。彼らのオーガニック栽培のブドウの質を思えば当然。熟成風味を上回るミネラリーな鮮度感は、正しいゼクトのあり方です。スタイルとしてのゼクトではなく、テロワールとしてのゼクトという観点は重要です。
オーストリアン・ゼクトの規定を批判的に吟味しているとキリがありません。しかし重要な点は、最上格付けのグランレゼルヴェのみにリート名表記が許されていること。メゾンのプレステージシャンパーニュが複数畑のブレンドであることを思えば、オーストリアン・ゼクトの規定に見られるテロワール中心主義は明確です。つまりスティルであれスパークリングであれ変わることなく、最高の品質は特別な土地の力に由来するものなのだ、というメッセージを受け止めることが可能です。
とはいえ私が好きなオーストリアの泡は、ペットナットか炭酸ガス注入のセッコないしフリッツァンテ。ようはホイリゲワインの炭酸水割りの延長。ある意味、最もチープなワイン。ところがそれらがチープな味ではないところに、私は強烈なオーストリアらしさを感じるのです。さらに言うなら、シャンパーニュ方式と華やかな香りのオーストリア品種が必ずしも合っているとは思えない。非・熟成こそがオーストリアの魅力である、とも解釈できるわけで(ホイリゲを見よ)、泡が香りとフレッシュさをさらに引き立てるセッコのようなワインは、ゼクト以上にオーストリア的に思えます。
□ペットナット
まずいペットナットはないと言えるぐらい、世界中ペットナットはおしなべて好きです。亜硫酸なしでも酸化しないのはいいことです。オーストリアでもペットナット流行り。中ではブルゲンラントの新進オーガニック生産者、カロの白とロゼのペットナットが気に入りました。白はムスカテラー、ロゼはローゼンムスカテラー。後者は昨年認可品種になったばかり。トレンティーノ・アルト・アディジェで馴染みがありますが、そこは昔はオーストリアですから。しかしオーストリアで飲むのは初めて。ペットナットにぴったりの華やかで楽しい品種です。
□ヴァインフィアテルのフリッツァンテ
炭酸ガス注入は紛い物と言われそうですが、不思議と美味しい。普通のワインにガスを入れるだけで、澱風味とは完全に無縁なのがいいのです。つまりフレッシュでフルーティな溌剌ワイン。値段も安い。こういったスパークリングワインが飲まれる状況を思えば、価格は重要な点です。ヴァインフィアテルのオーガニック生産者、トニー・シュミットは、スティルのグリューナーとかは十分に優れているものの、特筆するものはありません。しかしツヴァイゲルトのブラン・ド・ノワール、短時間マセラシオンのロゼ、長時間マセラシオンのロゼのツヴァイゲルトの泡三本は、味は当然ながらその発想のユニークさが大変に気に入りました。こういった遊び心のあるワインがどんどん登場するのが、オーストリアワインが自由で楽しい理由のひとつです。
□東欧ワイン
旧ハプスブルク帝国領内の東欧ワインがたくさん出品されるのはいかにもオーストリアです。印象に残ったワインは写真の三本。
まずはルーマニア、トランシルヴァニア、Lechinta地区にあるLiliacのChardonnay Orange Private Selection。ルーマニアは黒海沿岸諸国ですからワインの歴史は大変に長い国です。西部のトランシルヴァニアはハプスブルク帝国の一部でしたし、ワイン造りがこの地で盛んになったのは12世紀に移住したドイツ系住民のおかげだそうです。トランシルヴァニアのワインはくっきりとした、好ましいエッジ感のある味わい。相当冷涼な味です。このワインも醸し発酵ながら、もったり感は皆無で、いかにもトランシルヴァニアらしいひんやりと抜けのよい空気感があり、酸がキビキビしています。Liliacはモダンなワイナリーで、多くのワインはちょっと工業的すぎる気がしますが、この作品に関しては技術的洗練がうまく生かされています。
スロヴェニアにもスティリア地域があります。Zlati Gricはこの地の大手で、現代的なワイナリーです。ここで興味深いのはロゼのブラウフレンキッシュ。標高が高くて涼しいから赤ワインは造れないそうですが、だからこそロゼにはぴったり。スロヴェニア=イタリアのコッリオの延長、というイメージが強い中、オーストリアの延長としてのスロヴェニアの可能性を教えてくれるワインです。ぴしっとした緊密な構成力と酸がいかにもです。
Weingut DKはクロアチア北部、旧ハプスブルク帝国部分であるCroatian Uplandsのワイナリー(国の西南部は旧ヴェネチア共和国)。ここのPusipel Prestigeが東欧ワインの会場の中で最上に思えました。これはプシペル品種を9カ月樽熟成した、大変に凝縮度が高く、引き締まった味わいのワイン。ちなみにプシペルとはフルミントのクロアチア語です。クロアチアのフルミントを飲んだのはこれが初めてでしたが、フルミントはどこで造ってもフルミント。あの硬質さと強い酸と余韻の長さが好きなら、ハンガリーやオーストリアだけではなく、クロアチアのフルミントも探求しがいがあると思いました。
十年前に同じ部屋で東欧ワインをいろいろと試飲した時は、おもしろいけれどあか抜けないワイン、という印象でした。今は違います。驚くべきスピードで平均的な品質が向上しています。東欧は西欧よりワイン造りの歴史が長い国々。ただ共産主義時代に低迷していただけで、本来なら素晴らしいワインを生み出すことがむしろ容易だと思います。皆さんも意識してテイスティングしてほしい。世界が広がります。
□まとめ
風味のディフィニションの明快さ、抜けのよさ、そしてハプスブルク帝国以来の歴史文化に根差したさりげないカッコよさといった点において、オーストリアワインは世界でも最も洗練されたワインのひとつです。しかし洗練が工業的冷たさを伴わない、いやむしろその逆で、地酒の魅力をしっかり備えて人間的であるところが特別です。
安いアルコール飲料なのか、それとも財力権力誇示のためのラグジュアリーブランド飲料なのか、という両極端に傾きがちな日本におけるワインの中にあって、オーストリアワインは常に、分かる人には分かる、といった位置づけであることは事実です。では分かっている人は何を分かっているのか。それは自然と文化の高度な合体が生み出すリアリティ、背筋が伸びて内面からの自信に満ちた、他人に媚びることなく則を超えることもない確かな存在感だと思っています。ヴィエヴィヌムに参加してみれば、随所に、あまねく、それが表出されていることが理解できるでしょう。